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3日勇者  作者: 楠木あいら
day2
26/52

ドーベルの話

 謎のカードは、濃紺色で文字はないが右下に金色でハートと丸があった。これは研究所の意味を表しているのだろうか?

 送られてきたメールには『未成年で何か言われた時に見せるといーよ』との事。

 そう言えば未成年がホテルで宿泊する時、親の同意書が必要らしい…と、どこかで聞いた事がある。

 こんなカード1枚でそんな効力があるのか心配だけれども、使うしかないだろう。

 それよりも諭吉様である。

 靴は戻ってきて購入する必要がなくなったが、町中で犬耳尻尾付きのドーベルが目立ってしまうので隠す必要があった。


「耳や尻尾は目立ちますか? 匂いほど違いはないように思っていましたが」


 その事を話したら、ドーベルは振り返り短い尻尾を何とか見ようとしていた。

 その尻尾、ジーパンから出ている。つまり尻尾用に穴が空いているのだ。そんなのどこで売っているんだろうか。

 そもそも……


「ドーベル、大まかな事はわかるけれども、君はどうやって、どこから来たんだい?」


 この滅亡騒動でその姿になったと思われるが、ドーベル、トサトやラッセル。彼女たちがどうしてこの姿になれたのか気になっていた。

 帽子とか売ってそうな店に向かう途中、人通りはほとんどないので、聞いて見ることにした。

 因みにカジュマルはいない。ブロッコリーとサラダを勝手に食べたらいつの間にかいなくなっていた。



「私たちは、植物の一族が作り出した果実によって人間の姿になりました」

「それはカジュマル?」

「はい。あの者は上質の実を渡して人間に牙を向けるよう言ってきましたが、私たちは断りました」


 やっぱりカジュマルが動いていたか。しかも人間に攻撃を仕掛けて、更なる混乱を仕向けようとしていたとは。


「そう言えば飼い主は?」


 猫と違い、野良生まれはいないのではないかと思って聞いてみた。ましてやラッセル、トサト、ドーベルの犬種|(推測だがラッセルテリア、土佐闘犬、ドーベルマンだと思う)は購入しなければ飼えない。


「飼い主はいました」


 それは悲しい返答だった。


「私もトサトもラッセルも、その飼い主の大きなテリトリーで暮らしてました。

 力のある飼い主でした。

 トサトやラッセルの他にも沢山の仲間がいました。

 テリトリーの中に大きな建物と、幾ら走っても走りきれないほど広い庭があり、私はそこの警備を任されていました」


 人間視線に訳すと、力はお金か権力の事になるのだろうか。 大きな庭や建物に住める金持ちなのはわかった。


「優しい人でした。言葉が分からなくても、春の日差しのような温かさを感じました」


 嬉しそうに話すドーベルの表情からでも、愛犬家だったようだ。


「でもあの人は遠い世界に旅立ってしまいました。

 新しいテリトリーのボスは、その子供が継ぎました。

 その飼い主も我々を好いてくれる人でしたが、全ての者を好いてくれる人ではありませんでした」


 ドーベルは、悲しげに首を振った。


「闘犬であるトサトや、家具破壊クセが治らないラッセル。

 警備を機械という新たセキュリティーに変更するので、庭を走り回る体の大きな私も、テリトリーから外されました」


 脱走しただけでニュースになってしまう闘犬や、問題犬、セキュリティー会社に変更するために、吠える番犬も飼いきれなくなったという事か。


「私達はトサトの檻のついた頑丈な寝床にまとめられました。

 そこで新しいテリトリーのボスは『ホケンジョさんがお前たちの新しい飼い主だよ』と言ってくれました」

「!」


 ドーベルは俺の表情を読み取り頷いた。


「カジュマルから聞きました。ホケンジョさんのテリトリーに行けば先がないと」

「だから人間になる果実を渡して牙を向けるよう仕向けたのか」


 頑丈な小屋でもカジュマルの力なら何でもできるだろう。なんせ人を一瞬で種にできる果実や銃があるのだから。


「その通りです。断ったら、植物の人は『好きにするが良い』と言って去りました。

 なので雲が闇を覆う夜、月色の果実を食べた私達は、居場所のなくなったテリトリーを後にしました。

 私達はママの近くにいる人間を探すため、別れました。

 しばらくしてラッセルの匂いが消え、トサトの匂いも途絶え、私だけになったようです」

「……」


 ラッセルがいなくなってた衝撃があったが、トサトの事を言うべきか迷ってしまう。しかし、考えている間にドーベルは話を再開してしまった。


「2人はママの所に帰ってしまいましたが、一族の声に従い、永遠なる友と共に人類滅亡を阻止することができれば、2人も喜んでくれるでしょう」

「一族の声って?」

「耳を澄ませば声がいつでも聞こえ、匂いを嗅げばいつでも声が読み取れます。ママの声が聞こえるように」


 そうだったな。ママさんの声は人間意外の生物は皆 聞こえるんだった。

 鼻から読み取る。散歩中に匂いを嗅いで、マーキングした犬の情報を読み取っているのだから、ママさんや一族の言葉も鼻で聞いているのだろう。


「……」


 一族の声に従おうとするドーベルに、俺は不安な部分を聞いてみた。


「ドーベルは一族の声に従っているけれども、本当は……」


 人間と共に行動する。

 それはママさんに背を向け、一族の存続の危機になるかもしれない。

 そこまでしてまで身勝手な振る舞いをする人間と一緒にいる価値はあるのだろうか? と、人間ながら思ってしまう。

 そう聞こうとしたら、ドーベルは俺の言葉を遮って首を振った。


「我々一族にとってもそうですが、私達にとって、私にとって人間は、かけがえのない友達です」


 ドーベルは俺の目を見つめ笑った。

 大好きな飼い主を見て尻尾を振るように、ドーベルの笑顔は純粋で、俺は人間の罪悪感に押しつぶされた。


「ごめん」


 殺処分される運命にたたき落とされたのにも関わらず、人間を友と言ってくれたドーベルを抱きしめて謝罪していた。


 人間は、何て愚かで残酷な生き物なんだろう。


 こんなにもまっすぐに見てくれる永遠なる友がいるのに。なのに簡単に処分できるなんて。


「ごめん。本当にごめん……」

「謝ることはありませんよ。私達は人間と共にいる事が幸せなのですから」


 ドーベルの温かい言葉に、もう一度謝ってから、毛の短い大型犬をハグしているのではなく、毛のない柔らかな女性を抱きしめていた事に気づいた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 慌てて離れ、ひたすら謝る事となった。



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