表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3日勇者  作者: 楠木あいら
day2
25/52

大人の言い訳

「もしもし」


 ドーベルに待機の指示を出し、スマホだけ持って店に出た。

 カジュマルが何かしそうな気がして不安なので、席の前まで移動してから通話に出ると、緊張感のない声が返ってくる。


「栞音ちゃんとは、どこまでいったとは聞かないが、うまくいっているかね」


 相変わらず通話を切り炊くなる第一声だった。それと栞音の呼び方が変わっている。昨日は研究所の1人としてだったが、今はどう考えても近所の()だ。


「…………」


 栞音の事を言おうか考えている間にオヤジは、さっさと自分の話を進めやがった。


「女心は難しい。母さんも、今 母さんとデート中だが。長いこと連れ添った、長い言っても、岳春の年齢プラスアルファぐらいだがな。

 デートの駆け引きは女心を読まないと台なしになってしまう、岳春、良く覚えておけよ。

 それにしても女として母さん、いや実春(みはる)さんは美しいね、父さん惚れ直しちゃったよ」


「切る」

「まあ、うまく行かないからって、八つ当たりするな」

「俺はそんな事はしてない」

「それはいかんな」


 こいつじゃ駄目だ。まともな会話ができない。


「母さんはそこにいるの?」

「いや、今、トイレ。だから、様子見にこっそりかけてみたんだ。

 デートという2人だけの時間に、子供の話をするのは夫婦デートのマナー違反というもの」


 聞きたいことがなければ、通話を切って、スマホがタダ同然なら叩きつけて踏みつけていただろう。

 まともに会話できそうな母親がいないので、仕方なく『こいつ』に問うしかなかった。


「オヤジは諦めたんだな。人類滅亡に」


 僅かな間があってから、トーンを下げて返してきた。


「阻止できる対策を全てやり尽くし、万策尽きたからだ」

「それでも何かやるもんじゃないのか?」

「万策尽きたと言ったろう。

 人類滅亡の原因が地にあるならば、安全な場所に避難させられる。

 隕石ならば、巨大シェルターを作り、それから宇宙レンジャーにハリウッド映画みたいな活動をしてもらう。

 だが、人類滅亡を決定したのはママだ。地球が『いらない』と言われたら もう、どうしようもない。

 怒りの原因である大国が制圧されてもなお、ママの意見は変わらない。

 打つ手がなくなった今、残された時間を有効に活用する。

 だからこそのデートだ。

 初デートをコースをもう一度楽しむ事にしたのだよ。夕暮れの観覧車に乗って初キッスをまた再現するのだよ。いやぁ、ドキドキするなぁ」


 最後まで聞くんじゃなかった。というか、こいつ本当に父親なのか?

 と、思っているとまたもやトーンを下げて言いたい事を口にした。


「もし、何とかできるならば、ママが耳を傾けてくれる栞音君()か岳春、お前たちだけだ。

 名古屋にいるから手は貸せないが、父親として助力しよう」


 名古屋と言うことは愛知県、ここから250㎞離れている。観覧車と言ったから近場にいるかと思ったら……



「あー、もしかして たけちゃんの電話?」


 まともな親が戻ってきてくれたようだ。


「どう、栞音ちゃんとうまくいってる?」


 残念ながら同レベルのようだ。


「……」

「いーい、せめてちゅー くらいはしなさいよ」

「それ、滅亡前に言う言葉?」

「もちろん。たけちゃん、もしかしてまだなの?

 悲しいわ、お母さん、そんな消極的な子に育てた覚えなんてないわ」

「…………」

「いーい。男の子なんだから、エスコートするのよ、わかった」


 言いたい事を全て言うと通話を切られた。

 何なんだこの親達は、これが人類滅亡前に言うセリフなか? 滅亡で頭が変になったのか?


「……………………」


 スマホを睨みつけてから、視線をそらすと、心配そうに見つめるドーベルに気づいた。


 『大丈夫』とガラス越しで聞こえないが言い、微笑してからスマホをポケットにしまった。

 すぐ店内に戻る気になれず、空を見上げる。


「……………………」


 大人たちは諦めた今、自分の手で何とかしなければ、2日後確実に人間は滅亡する。

 そう何とかするしかないのだ。何をどうすれば『何とかなる』のか策はない。

 でも何とかするしかない。


「エスコート…」


 自分の口からその言葉が漏れた時、頭の中に栞音の姿が現れた。

 種銃を向けている栞音に恐怖心が軽くよみがえったが、恐れず受け止めると栞音の表情に気づいた。

 闇に笑っているが、その目は泣きそうなほど悲しげで、俺に訴えていた。


「…………」


 頭の中で思い出した栞音だから、俺が良いように変えているのはわかっている。

 でも、それが今の栞音ではないのだろうかと思う。

 栞音が種銃やチェーンソーを向けたのは、入ってはいけない心の距離まで土足で踏み込んだから。


「……」


 ママさんを説得しなければ滅亡は回避できないのはわかっている。だが、今は栞音だ。栞音は本当に人類滅亡は望んでいない。

 栞音を説得できれば、2人でママさんを説得できる。滅亡を阻止できるのかもしれない。


「……そうだな。俺がエスコートしなければ」


 道が開けてきた所で、店内に戻ることにした……ところでスマホはメール着信を告げる。


『バッグの内ポケットに助力が入っているから大事に使ってね

 母より』


 急いで店内に戻り、ボディバッグをあさると二つ折りの見覚えのない財布と謎のカードが入っていた。

 財布の中には5人の諭吉様がいらっしゃる。


 お母様、お父様、ありがとうございます!



 岳春の おかんが実春(みはる)さんでオヤジは尚岳(なおたけ)

 岳春は もちろん一人っ子という設定…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ