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3日勇者  作者: 楠木あいら
day2
21/52

公園で食事会

 それは足元から。灰色の靴下が触れる地面の奥から、小さく響いてきた。


『ニンゲン……ニンゲンガイル』


 ざわつくような、複数の声が合わさった様な感じだった。


『ニンゲン ニンゲン ニンゲン

 ブンカイ シチャオウ』


 それが不快な声と分かった時、俺の体は大きく飛んでいた。


「危険です」


 危険を察知したドーベルが腹部に腕を伸ばし、人間離れした跳躍でベンチから離れていた。


「!」


 ドーベルの足が地面に到着するのと同時に、ベンチが消えた。正確にはベンチ周辺に穴があいてベンチが落下していたのだ。


『ニンゲン ガ イナイ

マズイマズイマズイ ブンカイ デキナイ テツ  ト マズクシタ キ ノ シガイ』


 地面から不満を漏らす声が響いた。


「何なんだ?地面から声がして、何で穴ができる?」


 ドーベルにお礼を言って降ろしてもらってから、地面を足でトントンと軽く叩くと、解説してくれた。


『ワシが微生物たちに働きかけたからじゃ。2日後、生き延びるために』


 ただし答えたのは、ドーベルではなかった。


「?」


 辺りを見回しても人の姿はいない。


『声が聞こえるとはな。なるほど、人間ではない奴がいるのも、そのせいか』


 ベンチの横にある木からザワザワと葉が揺れ音がしたが、誰かいや、何かの生物すら現れることはなかった。

 話しているのが木だとわかったのは、それからしばらくしてからだった。


「木がしゃべってる」


 おとぎ話のように木に顔が浮かび上がる事はないが、間違いなく木が言葉を発していた。


『カジュマルの息がかかっている人間か』


 不機嫌な言葉のお陰で、声が聞こえるのは、果実の影響によるものだと知ることができた。


『はた迷惑な話じゃ。2日後に人類滅亡するなんて。手入れや害虫駆除駆除してくれる召使いがいなくなるじゃないか』


 ベンチの横に根を張っている クヌギ|(子供の頃、ドングリを集めたから知っている)の発言は、植物視線での見方だった。確かに木からすれば人間は、勝手に手入れしてくれる都合の良い存在になる。


「じゃあ、人類滅亡は反対なんだ」

『それとこれとは別じゃ。ママの意見は絶対で。別に人間がいなくなっても1人で生けていけるわい」


 クヌギの大木はあっさりと否定してくれたが、不満はあるらしく、植物視線の話が続く。


『それどころか2日後、テリトリー争いが起きる。人間と人間が作り出した物全てが、我々一族に変わるのだから。

 地中では根を、地上では光を得るための、新しい生存競争が始まる』


 クヌギの発言は、2日後の滅亡を重視する人間にとって衝撃を感じた。

 彼らには先があるだ。


『だから、2日後、少しでも優位になるようにワシは考えた。

 微生物たちに人間を高速分解させ、栄養を得ようとな』


 穏やかな声のまま、にクヌギは危険と恐怖を口にした。


『ニンゲン ニンゲン オイシソウナ ニンゲン』


 微生物たちは活気づいたのか、不快な大合奏を始める。


『さあ、微生物ども、餌の時間だ。そこにいる人間たちを思う存分食べ、そしてワシに高カロリーな養分を作るのじゃ』

『メシー』


 身の危険を感じ、足が走りだした。


「走れ、ドーベル」


 微生物たちは地面に穴を開けて俺らを落とすのだから、安全な場所に移動しなければならない。

 でも、どこに?

 土から離れたい一心で駆けだしてから、目に入ったのは10歩先にあるジャングルジムだった。


「ドーベル、ジャングルジムだ。ジャングルジムに上れ」

「かしこまりました」


 たった10歩しかないのに100メートル以上の距離を走っているようだった。


「!」


 地面がぐにゃりと柔らかくなり体勢を崩しかけたが『逃げろ』の一心で転倒を防ぎ足を動かし続けた。

 人間が作り出した冷たい鉄の棒を握りしめ、鉄棒に足を乗せて体重をかけるのだが、靴下なのでかなり痛い。


「マスター、手を」


 先に登りきったドーベルが手を伸ばす。手の平が合わさった時、体が軽くなってあっという間にてっぺんにたどり着けた。


「ありがとう、ドーベル。それはそうとマスターって……」

「私に命令を出してくれたのだから、マスターとお呼びすることにしました」

「いや、岳春(たけはる)でいいよ」


 悠長な会話をしている暇ではない。

 微生物たちがジャングルジムに大きな穴を開けてしまえば、お終いである。

 と言うならば、そもそもジャングルジムを登らなければ……今、気づいたが公園から出れば良かったんじゃないのか!


「……しまった」


 目先にあった安全を選んだばかりに……いや、でもベンチから出口まではかなりある。下手すれば走っている途中で飲み込まれていたのかもしれない。


『何をやっている微生物ども、早くそのでか物ごと穴を開けて人間を分解しろ』

『イヤイヤイヤ ブンカイ デキナイ。

 マズイ クエナイ テツ ノ カタマリ イラナイ

  ヤワラカイ ニンゲン ダケ ブンカイ スル』


 クヌギ達のやりとりを聞いて、ジャングルジムを選択して良かったようだ。

 ……。しかし、この後どうする?


『お困りのようだね』


 新たなる声が聞こえた。



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