公園
「……………………」
「落ち着きましたか、永遠なる友よ」
「…………まあ」
俺は公園のベンチに長い時間 座っていた。
栞音に深緑色の銃で撃たれたが、生きている。
「とは言え、痛い……」
殺傷力はなく血も貫通も体内にめり込むこともなかったが、当たった瞬間、物凄く痛かった。
胸を押さえていると、黒に近い茶髪のショートカットで『ドーベル』と名乗った女性は、栞音の銃について説明してくれた。
「おそらく 植物の人が作った『種銃』でしょう。使われている銃弾は人間、もしくは人間が作り出した物だけを種に変えてしまうようです」
「そうか」
栞音に撃たれた直後、胸に激痛が走ったが、倒れることなくその場に立っていられた。
「カジュマル……」
栞音は小さくその言葉を吐き出し、俺はカジュマルに口移しで食べさせられた果実を思い出した。
あの果実により助かったらしい。
「………」
助かったと分かった時、次の行動に移さなければならない。
栞音から種銃を取り上げようと考えたが、栞音は視線をキャリーバッグに向けていた。
小型チェーンソー。その存在を思い出した時、俺に恐怖心が生まれた。
それと同時だっただろうか、玄関のチャイムが鳴ったのは。
チャイム! トサトじゃなくても誰か助けてくれると思い込んだ。
「たけちゃん」
背後で栞音の声を聞き捨てて走り、玄関のドアを開ける。
「ここに永遠なる友がいると情報を知り来ました」
思い込みは当たり長身の女性が立っていた。尻尾は短いのか正面から見られなかったが、縦に長い耳があり間違いなく犬耳女性だった。
「この場を去りたい。力を貸してくれ」
「かしこまりました」
敬語で返事してくれた犬耳女性は、俺を小脇に抱えここの公園まで連れてってくれた。
「……………………」
栞音が追ってくる様子はなさそうだが、頭は目の当たりにした現実に追い詰められている。
栞音が俺を消そうとした。
踏み入れてはならない域に足を踏み入れて、種銃を向けさせたようだが、幼なじみに『いらない』と言われるショックは大きい。
「その前は、キスをして告白してきたのに、何なんだよ……」
「キスですか」
ベンチに座る飼い主の様子を見るように、ドーベルは俺の前でしゃがみ見あげていた。
間近にいた事と聞かれた事に、俺は大きなリアクションをとって、驚きを表現してしまった。恥ずかしい。
「驚かせてしまったようですみません」
「ドーベル、お願いだから横に座ってくれないか」
「かしこまりました」
隣に座ったドーベルは、足を組むことなく姿勢正しく座ったが、少し距離が近い様な気がする。
縦長の耳とベリーショートの髪、白い袖なしのシャツとジーパン。むき出しの腕は、人間を簡単に小脇に抱えられる筋肉がしっかりとついていたが、いかつさはなく女性らしいしなやかさがある。
ドーベルは、その名を持つ犬種のイメージそのものだった。
「ところで『キス』とは何ですか?」
ドーベルにとって気になる単語のようだ。知らない単語だから表情を変える事はない。
「……。親愛の証」
「親愛、私も認められれば、キスというものをして貰えるですか?」
「えーっと、キスは男女としてのだから、違う」
「男女としての親愛の証、という事ですか、なるほど……という事は妻夫の証なんですね」
「キスは知らなくても、妻夫は知っているんだ」
ふうとため息をついてから、視線を足に向けた。
灰色の靴下……靴を履く前に小脇に抱えられたので靴はない。さらにサイフやスマホの入ったバッグも置いてきた。
そんな状態でこれからどうしよう……
「もちろん、ママを説得して人類滅亡を阻止しましょう」
いつの間にか声に出していたらしく、ドーベルが解答してくれた。
まあ、その通りである。恐怖から逃げ出した所でめは変わらない。
生き続けたければ、ママさんを何とかしなければならないのだ。
「でも、どうやって?」
ママさんの人間に対する失望、ヤンデレ化により海の向こうにある大国が制圧されてしまったのだ。
そんな星そのものを一般人が説得なんてできるのか、無理がある。
「………」
具体的な問いには、ドーベルは何も言ってくれず、公園は無言のはずなのだが、耳に声が届いた。
地面から。




