幼なじみは笑う
どこにしまっていたのか謎だが、ビーフジャーキーを飛ばした水鉄砲のとは違い、銃と呼べるものだった。
「チェーンソーといい、それが幼なじみに向ける態度か」
「そうだよ。
たけちゃんが悪いんだよ。変なことを言うから」
栞音は笑っていたが、唇から出てくる声は冷たい刃物のようだった。
「たけちゃんは栞音にとって大切で大好きな人だったけれども、もういいや。
たけちゃん、もう いらない」
栞音はためらうことなく引き金をひいた。
「滅亡は変えられない」
地球が遠隔操作する人形を起動した時、辺りはしぃんとしていた。
「栞音?」
アースブルーの目は、床に座り込む栞音を映し出した。
ママは手にしたままの深緑色の種銃と、岳春がいない事で何か起きたのを察した。
「私、どうして たけちゃんを撃っちゃったんだろう……」
少女を抱きしめると、温かくて柔らかい感触と、悲しみと後悔の声が弱々しく返ってきた。
「可哀想に、こんなに目を真っ赤にして、たくさん泣いてたのね。
大丈夫よ栞音、もう寂しい思いなんてさせないわ。 向こうの国は制圧したから、ずーっと一緒よ」
「それ本当? 本当にずーっとママと一緒にいられるの」
「ええ。人類が滅亡するその瞬間までずーっと一緒よ」
笑みを浮かべる栞音の頭を優しく撫でると、少女は胸に顔をうずめて小さな子供のように甘えた。
「ママ、ママ。私だけのママ。あと2日、私だけをずーっと見て」
「もちろんよ、私の可愛い子供。ずーっと一緒よ」
「嬉しい」
外見年齢の変わらない少女たちは、まるで親子のように会話をするが、それを止める者はいない。
「3日間の観光に栞音とは別の性別をもった人間がいても良いと思ったけれども。大好きな人間の栞音を悲しませるのならば、必要ないわね」
「じゃあ、昨日、たけちゃんに言った『結婚してもいいかな?』も無かった事にしてもいいのね?」
「良く覚えていたわね。そうね、男は酷い人間だと分かったから、大丈夫よ。
海を渡った国に行ったら。厳つい鉄の固まりで沢山の男達が、武装しているんですもの。
それなのに ちょっと お仕置きしただけで、ママを化け物なんて言うのよ。酷いわ。2日なんて待ってられないから、皆、ママの所に帰ってもらったわ」
栞音にとって重要なのは短時間で制圧した力ではなかった。
「そんな、ママはこの星全てで。そんなママに酷い事を言うなんて信じられない。
それにママは、この星一番に美しくて、栞音が一番大好きなママなのに」
「まあ、嬉しい」
ママは嬉しさのあまり、少女の頬を自分の頬につけ愛しさと柔らかい感触を楽しんだ。
「さあ、栞音、いつまでも玄関に座ってないで、朝ごはんを食べましょう。
ママを色々な所に案内してくれるんでしょう。楽しみだわ」
「うん。朝ごはんは、作る人がいないから、どこか美味しい所を検索するから待ってて」
立ち上がり、栞音はスマホを取りにリビングに向かう。
「じゃあ、この部屋はもう必要ないわね。栞音、荷物も持ってきて」
ママは玄関を見渡し、下駄箱に飾られている鏡に気づいた。
「少し成長してたようね。栞音、ご飯の前に服にしましょう」
白いワンピースの胸元を軽くひっぱる。
「胸はさらに成長しているみたい」