滅亡の理由
目が覚めてから驚くばかりの事だった。
ママさんの正体が地球そのもので、2日後の人類滅亡を決定したのもま彼女だった。
しかも、幼なじみの栞音は地球の声が聞こえる唯一の人間で、人類滅亡を望んでるという。
「……………」
昨日なら信じなかったが、人ではない者たちを目にし、あり得ない恐怖を体験したら もう、信じるしかなかった。
「…………」
視線を腹に向ける。
異変はないが、本当に大丈夫だろうかと不安になってしまう。トサトを使い、俺をがんじがらめにしてまで食べさせたのだから。
食べさせたのだから……
「…………………………」
恐怖で忘れていたが、俺のファーストなキスをカジュマルに奪われてしまった……しかも、口移し……
「たけちゃん、どうしたの?」
「いや、何でもない」
視線をフライパンに戻し、朝食作業を進める。
民泊に戻ってきたのだが、流れる空気は騒動前とは別だった。
チェーンソーを向けられ、人類滅亡を起こそうとする者達が目の前にいるのだから、同じ目で見られないのは当然である。
「ママ、ご飯食べたら、服を買いに行こう。あたしのサイズじゃ合ってないし、たけちゃんなんか、昨日の服なんだよ」
「匂わなければ良いんじゃないのか。ジーパンなんて1度も洗ってないし」
「汚い」
「汚くない」
何気ない会話は成り立っているが、どこか噛み合っていない。
「第一、下着は?昨日のままでしょ」
「……」
「服は決定ね」
栞音もそれに気づいているだろうか? いつもより、声が強いというか、イライラしていた。
「人間は、毎日、皮を変えるから大変ね」
唯一、ママさんだけがそのままの空気でいた。
「大変じゃなくて楽しいんだよ、ママ。だって色々な服が沢山あるんだよ。
どうせだから、高いお店に行こう。研究所から支給されたお金がかなりあるから大丈夫。
ママなら、何でも似合うんだろうな」
栞音は愛しくママさんを見つめ、ぎゅっと抱きしめた。
昨日までなら、小さな子が愛おしくなっただけの ほのぼの光景だったろう。
だが、ママさんが俺らと同じ体格になった今でも栞音は変わらない視線とスキンシップをする。
学校で女子同士がじゃれついてやっているのと、違って見えるのは、騒動という偏見のせいだろうか?
「栞音、ケチャップ、買いに行ってくれてサンキューな」
「うん」
栞音は……今まで見続けてきた栞音ではないような気がする。
何だろう、同じ姿をした別人。もしくは別の世界に住んでいた栞音にすり替わってしまったのではないだろうか。
「……は、新型宇宙船『ミラクル』の打ち上げ時間を予定より1時間早めると、発表しました」
会話と思考が途切れた俺の耳にニュースが入り込んできた。
2日後、人類滅亡となるのにロケットが打ち上がるとは。
空しさを感じていると、俺の目の前で黒い髪がさらりと揺れた。
「栞音、行ってくる」
ママさんは謎を発言をした。
「たけちゃん、ママは出かけてるから、オムライス、ストップ。ママにはたけちゃん特性のふわとろ あつあつのを食べてもらいたいから」
「出かけてるって……」
ママさんは目の前に座ったまま存在している。
「意識を向こうに移動させたんだよ」
「向こうって?」
俺の問いに栞音はテレビを指さした。
「怒りの素、人類滅亡の1番の原因であるロケット打ち上げ場所にね」
「……それって、えぬえーえすえー?」
「そう」
何かとんでもないレベルの話になった。人類滅亡するのだから、それぐらい当たり前のことなのかもしれない。
「金星移住計画」
人類滅亡を知らなかった頃、朝ごはんを食べながら聞き流すニュースで耳にしていた。
名の通り、隣の星、金星に人が住めそうな条件が整っているのではないかと調査しているとか。住める可能性が高いとか言ってたな。
「ママは反対して、計画を中止するように言ったけれども、向こうは全く聞く耳を持たない。
だから、ママは滅ぼすことにしたの」
『そんな事で滅亡?』 と言いそうになったが、そんな事の規模が大きすぎる。
「森林破壊や大気汚染をまき散らしているのに、人類滅亡する理由がロケット打ち上げなのか?」
「ママは人間が大好きなの。ロケットはママから離れていくことになる。今回は移住だから怒っている」
「それって……」
ヤンデレじゃないか。
大好きなのに、離れてしまうのなら、自らの手で消してしまおうというママさん、地球の考えは、まさしく『それ』である。
人間が私利私欲のためにしてきた事は、地球をとんでもない精神状態にしてしまったようだ。