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3日勇者  作者: 楠木あいら
day2
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ママさんの正体

 チャンスと言ったが、変な事ではなく、栞音が教えてくれない『ママさんの正体について』である。

 直接本人から聞けば、もっと情報が引き出せる可能性がある。

 ママさんが自ら留守番を選んだのも、もしかしたら話してくれるかもしれない……と思う。さっき俺の言った通り、昨日の観光で疲れてたのかもしれないが。


「………」


 ……チャンスなのだが、美術品のような美少女と二人っきりの空間。緊張して聞けるどころではなかった。


「ケチャップがくるまで、進められるところまで進めておくよ」


 カウンターキッチンなので向かい合わせにいる。

 ママさんは俺の料理裁きをじっと見つめていた。

 鶏肉を切るのだが……緊張する。


「食べ物を小さくするの?」

「あぁ、うん。小さくすると炒めるとき、火が通りやすくなるし、ケチャップとか味もやすいか……あ」


 やべ、指、切った。

 集中力が欠けてた。今まで1回も切ったことななく、自慢の1つだったのに。

 ……って、言っている場合じゃない。まずいまずいまずい。血が出てきた、止まらない。


「大丈夫」


 真っ赤な血を目の当たりにして、動揺する俺は伸ばす手に気づかなかった。

 なので気がついた時、俺の指は身を乗り出していたママさんの口に吸い込まれていた。


「あ……」


 切れた指は、どくどくと痛みがするのだが、目の前にいる美少女の顔と唇で痛みが薄れていく。

 指の根元にママさんの柔らかい唇の感触があって、傷口に弾力のある柔らかい感触が絡みつく。


「もう、大丈夫」


 ママさんの口から解放された指に、流れ出た血がないどころか痛みも傷口も全て消えていた。


「包丁は、人間の肉も切れちゃうんだね。たけはる、気をつけるんだよ」


 乗り出した体をイスに戻していくママさんをじっと見つめるしか出来なかった。

 衝撃的な出来事で我を忘れてしまったが、ママさんに舐めてもらっただけで、血も傷口も癒えているのだ。


「……………………」


 俺は元に戻っている指を見てから、美術品のような、人には見えない少女を見つめ口を開いた。


「ママさん、あなたは一体何者なんですか?」


 ママさんは、まず見上げた。黒く長い髪がさらりと揺れる。

 それから綺麗な青い目で俺を見つめた。


「私は地球。この青い星。母なる大地と人間たちは言う」


 『ああ、だから、こんなに綺麗な青色なんだ』と、ママさんの答えを聞いて、最初に浮かんだ言葉がそれだった。

 衝撃と混乱はその後でやってきたが。


「え、地球……って」


 床に視線を向け、ママさんを踏んでしまっていると気づいて足を上げるものの、どこに降ろしても地球を踏んでいるままで、踏まないようにはできない。

 上げた片足をそっと降ろしてから。湧き上がってくる質問をした。


「地球って、でも、今、ここにいるママさんは? ママさんがここにいるってことは、本当の地球は?」

「この体は私の一部から作り出したもの。この体も私だけれども、本当の私は大地奥深く。今もそこにいる」


 身長より高い所に長時間いられないのはそのせいか。

 自分の事を説明始めたママさんの口調に子供っぽさが消えていた。猫をかぶっていた、性格を誤魔化していたというよりも、今の質問で子供から一気に成長したように思えた。


「遠隔操作?」

「似ているようで違う。本当の私もこの体も私のまま。大地から人間に触れて、感じ取れるように、この体からも直接、人間を感じ取れる」


 重さがない木の葉のように、ママさんは再び身を乗り出しカウンターの上に移動すると両腕を広げた。

 とっさに後方に下がる。


「どうして逃げるの?栞音はスキンシップだと言って喜んでくれるのに」


 ママさんは首をかしげた。


「それは栞音とママさんが同性、女性で。俺は男だからです」


 美少女に抱きつかれる妄想をした事はあるが、現実で目の当たりにすると逃げてしまうのは、俺が恋愛に小心者だからだろうか?

 それとも幼なじみとはいえ、栞音に後ろめたさを感じているからだろうか?

 そんな事を考える間、ママさんは1つの単語に引っかかっていた。


「男。殆どの子供たち、生物は雄と雌から新しい生命を作り出す。

 そう言えば、たけはるは男だったね。忘れてた」


 忘れてた……って生物の概念を持たない星らしい発言だった。

 ママさんはカウンターキッチンから椅子側に離れてくれたが、なぜかこっちに近づいてくる。


「ま、ママさん?」


 『?』だが、ママさんが何を求めてくるのか読み取れた。


「まって、今、肉を切ったばかりだから、ほら、生肉は衛生的に良くないから……って、さっきのは大丈夫?」


 自分で何を言っているのか恥ずかしくなったが、ママさんは俺を見つめたまま、一歩一歩 確実に近づいてくる。


「この体は人間の形をしているけれども、中身は違うわ。

 人間もウィルスも私から生まれた子供。全て私の子で、私の一部で、私を害するものはいないわ」


 そう言っている間に、ま さんとの距離は腕を伸ばせば届く距離にまで接近していた。

 鼓動が早くなる。全身に血の巡りが早くなり、顔が赤くなる。



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