週末は終末
「あと3日で人類滅亡するから、勇者を迎えに行ってくれないか」
金曜日の朝、オヤジは『親戚が遊びに来るから向かいに行ってくれ』というよくな口調で言いやがった。
みそ汁、吹き出しものだが、飲む前で助かった。
「は? え? いや、母さん、病院に電話。オヤジ、おかしくなってる」
「実は本当の事なのよ、たけちゃん」
焼き鮭を運んできた母親は、申し訳なさそうな顔で通報を拒否する。
「まさかの2人もか、俺が電話するしかないか」
「落ち着きなさい、岳春。座ってママが焼いた焼き鮭を味わいなさい」
落ち着いた威厳のある声に、仕方なく座るしかなかった。
「残念ながら、本当に人類は滅亡してしまう。あと3日で」
「3日ってオヤジ、昨日は普通に帰ってくつろいでたじゃないか」
「残された時間をマイホームでくつろいで何が悪いんだ?」
「そうじゃなくて、4日前から、いや、その前から知ってたんだろ。だったらその前から何か対策とれたんだんだろって言いたいんだ」
「対策はとってある、というか万全を尽くした我々に、残された手段は勇者に託すしか残っていない」
「はぁ……」
父親の口から『勇者』が出てくるなんて、ショックというか衝撃というか。
「ご飯を食べたら横浜に行ってくれ、そこに勇者が待っている」
「今からって、学校は?」
「食中毒になったと、連絡を入れておく」
そこは『人類滅亡』じゃないのか……
視線を落とし改めて、朝食を見る。
ベーコンエッグにアスパラのソテーと焼き鮭。いつもはどちらか一品しかないのに、しかもアスパラのソテーって……初めて見た。みそ汁の具も、金谷迫家は2種類なのに、今日は油揚げに豆腐、ネギ、さらにナスまで入っている。
無駄に豪華な朝ごはんは、なんとなく滅亡を訴えているのだろうか。
高校の友人、知り合いに見られるわけにはならないので、すぐに家を出て駅に向かう。
もちろん。人類滅亡なんて信じていない。
青い空に白い雲。雀は歌い、カラスがゴミ袋からから揚げをくわえ飛んでいく。
猫は毛づくろいをし、散歩中の犬にいたっては、俺と目が合うと『えへへ』と笑い『わんわん』と吠えるサービスまでしてくれた。
平和というか、いつもと変わらない光景で、宇宙から侵略者がやってくるとか、巨大な隕石が降ってくるとか、とても思えない。
電車を待つ間、スマホを取り出しニュースサイトにアクセスしたが、政治家の金銭問題や次世代宇宙船の打ち上げ延期。卒業したアイドルが結婚したとか、代わり映えのないが平和なものばかりだった。
「とはいえオヤジ達は研究所で働いているからな」
両親は研究所の人間なのだが、友人達に何の研究所かは答えたことがない。聞かれても無関心で知らないフリをした。
なぜなら名前が
『LOVE地球研究所』だからである。
『理化学研究所』とか『科学捜査研究所』とかある中で『LOVE地球研究所』誰が付けたんだよ。いや、イエスマンしてないで『常識的にありえない』と言うべきだったろう。と、突っ込みたくなる、怪しい研究所名だった。
怪しいとしか言えない研究所なのだが、マイホームを買えているのだから、成果を出しているらしい。
いや、裏稼業でもしているんだろうかと考えてしまう。
話がそれてしまったが、両親は|(多分)研究所で地球について研究しているらしいから、人類滅亡を口にしても可笑しくはない。
「とは言え、ありえねーよな」
小声で言葉を吐き出した俺に、電車の到着を告げるアナウンスが聞こえた。