第1章 初めの力 その後 完
暴走してしまったホリィちゃん。
どうするつもりなのか。
どうなっていくのか。
日常編ラストです。
やってしまった…やってしまった…
あんな事する気じゃなかったのに…
私は完全に暴走してしまっていた。
同じ家に住む大好きなシース君に対してあんなことをしてしまうなんて…きっと怒っている。
明日からどうしよう、私はただ、シース君に好きな人いるのかとか、冗談まじりで、私だったらどうかなとか、そういう感じに聞くつもりだった。
なのに……
「最低だ…私…」
多分、これで私達の関係は終わってしまうだろう。
どうせシース君のことだから、「俺はホリィのそばにはいない方がいい、辛い思いをさせてすまなかった。」とかなんとか言って、出てってしまう。
イヤだ…イヤだ…イヤだ…シース君がいない毎日なんて、それこそ辛くて死んでしまう。
そう思ったら涙が止まらなくなった。
少しして、ドアを叩く音がする。
多分シース君だろうけど、お母さんだと思いたかった。何を言われるか、聞きたくなかった。
「ホリィ?いるか?」
私は黙り、布団をかぶりいないふりをするが、構わず、シース君は話し続ける。
「ホリィ…あのさ、ドア、開けてくれるか?」
私は扉の向こうにいるシース君に向かって、「聞きたくない!」と叫んでしまった。
「そうか…じゃあ、勝手に入るぞ…」
まずい、私の部屋には鍵がついていない。私は慌てて扉に駆け寄り、ドアノブを回されないように固定する。女の力で勝てるわけないのだが、せめてもの抵抗だ。
ドアノブを両手で力一杯固定していると、扉の向こうからシース君がドアノブを回してくる。
でもその力は、非常に優しいものだった。
「ホリィ…少しでいいんだ、開けてくれるか?」
そんなふうに優しく言われた私は、ほんの少しだけドアを開け、隙間から顔を覗かせる。
「…怒ってない…?」
恐る恐る聞く私に対して、シース君はいつもの優しい顔で、怒ってないよと言ってくれた。
ちょっとだけ安心した私は、シース君を部屋に入れ、俯きながらベッドに座る。
シース君は私の隣に座り、こちらを見て話し始める。
「覚えてるか?10歳の四月のこと」
10歳…確か、シース君は拾われた子だとわかった時期だ。
「うん、良く覚えてる。お父さん、お母さんに全然似てない事に疑問を感じたシース君が、お母さんに聞いたんだよね。」
シース君は天井を見る。
「ああ、あっさり教えてくれてな。そんな簡単に教えてくれたことの方がビビったよ、はは」
私は顔を上げ、上を見ながら話すシース君に少し寄る。
「でも、シース君は大丈夫、強い子だって知ってたから教えてくれたんだよ?」
お母さんがそう言ってたのを思い出す。
「そうだよな、ホリィの方が大変だったもんな。ビックリしすぎて泣いちゃってよ。次の日から急によそよそしくなるし、あの日を境に風呂も1人で入るようになったもんな。」
「忘れてよ、もう…」
シース君は私の頭をいつものようにポンポンする。今状況わかってる?反則だよもう。
「でもさ、あの日からなんだよな…」
「なにが?」と言う私に対して、シース君はゆっくりと話す。
「ホリィをさ、なにがあっても護っていこうって決めたのは」
「………」
ずるい。
そんな事言われたら、もっと好きになっちゃうよ。
シース君は、いつも私を護ってくれてた。あの時も、あの時も。今だって、私が傷付かないように話してくれてる。護ろうとしてくれてる。
「でもさ、俺は一体何処から来たのか、なんで捨てられてたのか、まだ分かんないことだらけでさ。」
あ、
フラれる…
私は直感した。これ以上聞きたくなかった。でも、これ以上我儘な私を見られたくないとも思った。
「…ホリィ、俺、卒業して少したら、探そうと思ってる。俺の親、俺の生まれた地、俺の力の謎を…だから………ごめんな…」
私は溢れる涙を隠そうと、下を向いたまま、唇を噛み締めるが、どうしても泣き声が出てしまう。
予想通りだった。
シース君はいなくなり、私は1人になってしまう。
胸が痛い、苦しい。
この痛みからも護ってほしいと願うダメな私がいた。
「……ホリィ、大丈夫だ」
何が大丈夫なのか全然わからない。私はそんなに強くない。時間は解決しない。もっといい人なんて出てこない。シース君がいい。シース君じゃないと嫌だ。
泣きじゃくる私に向かって、シース君は良くわからないことを言い出した。
「ちゃんと、戻ってくるから…」
嘘だ。学校終わったら二度と会わないつもりだ。ううん、もしかしたら、明日からいないかもしれない。
「約束だ、だから、少しだけ待っててほしい。今の俺はホリィの兄だし、弟だから難しいけど、俺の家や、親を見つけたら…その……今度は1人の男として、ホリィを迎えに行きたいんだ。」
………
……
…
あれ…?
「今は家族だから無理だけど、その時は、改めて一緒になってくれるか?…兄妹(姉弟)としてではなく、恋人として……」
え?あれ?
「俺も、随分前から、好きだった。1人の異性として。そんな目で見てて、ごめんな。」
それを聞いた私は、さっきとは意味が違う涙を流し、照れ臭そうに笑うシース君を見る。
斜め上に視線をずらし、人差し指で顔を掻いているシース君に、私の理性は崩壊した。
「わぁあああああん!バカあああ!シースぐううん!バカあああ!好きいいい!」
シース君に抱きつき、私は何かの糸が切れたように、泣き出し、我慢していた好きという言葉を何度も伝える。
「おいホリィ、泣きすぎだぞ、悪かったって、ごめん」
私は今度は笑顔になり、「嬉しい涙だからいいの、我慢しないの」と言い、シース君のお腹辺りで冬の猫のようにゴロゴロする。
完全に精神不安定だ。
シース君はそんな私を撫で、暫く時間がたったあたりでベッドから立ち、部屋に戻ろうとする。
ヤダヤダ一緒にいると我儘を言う私に対して、卒業までちゃんといるから大丈夫だと私をなだめる。
「むぅ〜わかった、じゃあ……んー」
キスしてと言わんばかりの顔でその場に立っている私に対して、シース君は呆れたような顔をする。
「お前…話聞いてたか……?」
そんなことは知らない。今の私を止められるものは何もない。私の我儘を止めたいのならば、私を殺すしかない。
「聞いてない。んー」
「おい、ホリィ」
「早く。んー」
「いや、だからさ」
「早くしないと私、ホリィさんは泣いてしまいます。んー」
シース君はやれやれといった感じで私を抱き寄せ、照れながらも私の口にキスをしてくれた。
「じゃあ、今日は早く寝ろよ?おやすみ」
「うん、おやすなさい。」
シース君が出ていった後、電気を消し、目を閉じるが、嬉しさのあまり全然寝れない。
シース君の部屋に突入しようと思ったが、なんか勿体無い気がしたのと、余計眠れなくなりそうだったし、えっちな事をされたらどうしようとか考えてしまった為、断念した。
翌日、殆んど眠れないまま、朝を迎える。
扉を開けると、同時に奥の部屋の扉が開きシース君が出てくる。
「お、おおホリィ、おはよう、良く眠れたか?」
「ん〜ん、シース君のおかげで全然寝てない」
シース君は少し照れて、「俺別に悪くないんじゃ」とか言っていたが、取り敢えず朝の日課を済まそうと思い、シース君に近寄る。
「んー」
「待て待て!毎朝やるつもりか!」
「早くしないと私、ホリィさんは泣いてしまいます。んー」
私はシース君を思い通りにする術を身につけたらしい。軽くだったけど、おはようのキスをしてくれた。
その後、朝食を済ませる。
今日は休みということもあり、私の我儘を見かねたシース君は、私を部屋に呼び、ルールを決めた。
まず今は家族としての自覚をもつこと。
キスは許可。
でもそれ以上は絶対にしないこと。
そして、あまり我儘を言うといくらシース君でも怒るということ。
お風呂は?と聞いたが、コツンと叩かれた。全然痛くない。
最後のはルールと呼ぶにはフワフワしている為、どの程度から怒るのか聞いてみるが、その時次第だと言っていた。
でも私は知っている。シース君は怒らない、そうやって言えば私が少し大人しくするとでも思っているのだろうか。甘過ぎる。
仮に怒ったとしても、ちょっと目に涙を溜めれば全て私の思うがままだ。
あともう一つ、こういう事で泣くの禁止と言われた。
しまった、最近泣きすぎたようだ。バレてる。
そうして気持ちが通じ合った私達は、毎日何度かキスをして過ごした。
時折シャンに不思議がられながらも、楽しい学校生活は終わりを迎える。
「卒業生、起立!」
私とシャンは泣きながら卒業式を迎え、そして、終わる。
シース君が皆をファミレスに集め、少しの間、家族を探す為留守にすると言い、それを聞いたガンマ君が口を開く。
「なんや、やっぱ大学行かへんのか」
ジョウ君がドリンクを飲みながら続ける。
「そうか、寂しくなるな」
二人共割と平気そうだ。ちゃんと帰ってくるのを信じて疑わない様子。男の子の友情というやつか。
その後、シェリルがシース君を睨み付けながら話す。
「お前、家族見つけたらどうするつもりだよ?」
シャンは心配そうに私を見ながら言う。
「ホリィとは離れ離れに暮らすってこと?可哀想だよ、ねえホリィ?」
確かに寂しいけど、しっかり話し合って決めたから大丈夫と私が言うと、シャンは「ふーん、ならいいけどさ」と言いながらストローに口を持っていく。
皆それぞれ別の大学に行くことになったが、今後も連絡を取り合い、何かあったらすぐに集まる約束をし、その場を後にする。
次の日、早速シース君は荷物をまとめ、出かける準備をする。
大丈夫と言っていたものの、やはりその時が来ると辛い。いっぱいキスをして、私は泣きながらシース君を見送った。
シース君の家族に関しては、どうも少し心当たりがあるらしい。
捨てられていたときに一緒にあった手紙、調べると非常に高級の紙で、破れにくく、そしてそれは、この国ではまず手に入らないものだった。
アスロ王国。
それがその紙をつくっている国だ。
アスロという王様が統治している国で、他国と戦争が絶えない危険な国。
というか実は、私達の住む国以外は、割と戦争とかやっている。
心配だけど、きっとシース君なら大丈夫だろう。
向こうにシース君の家族がいたら、引っ越そうかな。
シース君が前に言ってくれた「どこか旅行に行こうか」と言う言葉を信じて、私は見えなくなるまで手を振った。
……………
…………
………
……
…
〜2年後〜
早いもので、あれから2回目の春が訪れた。私は今日も元気に大学にいく。
なんか今日は飛行機がよく飛んでる日だ。
大学では初めの頃、合コンとか誘われたりしたけど、全部断った。
私の友達は、シース君の話を知っているので、近づいて来る男の人からよく守ってくれた。
でも、時折思う、ここにシース君がいたらなって。
シース君とは、たまに手紙でやり取りをしている。割とすぐに家族を見つけたらしい。すぐに迎えに行きたいけど、なんか立場上、戦争に参加したりしないといけないようだった。
剣を覚えたりもしているとのこと。
一応、戦争が落ち着き次第迎えに来てくれると書いてくれた。
私から会いに行こうにも、今は国の移動が厳しくていけなかった。
他国の戦争が相当激しいらしい。
ちょっと、心配だな。
なんだかんだで、今日も無事学校が終わり、家のポストを覗くと、来ていた、手紙!
内容を確認すると、とても嬉しいニュースが書いてあった。なんと、一旦戦争が片付いたらしい。
アスロ王国の強さに、敵国が敗走、完全勝利とのこと。
そして今日の18時、迎えに来てくれる約束をしてくれた!
私はすぐにシャン達に連絡し、急いで着替えをはじめる。
やっと会える!大好きなシース君に!しかも今度は恋人として!皆の前でキスしちゃおうとか、念には念を入れて、可愛い下着にしたりとか、変な事を考えつつ、一足先に空港に向かう。
もうすぐだ!
私の頭上にカッコイイ飛行機が飛ぶ。
もしかしてあれに乗ってたりしてなんて考えながら空港に急いだ。
残り300mくらいのところで、空港から、大好きなシース君がこちらに全速力で走ってくるのが見えた。視力がいいことにこんなに感謝したのは初めてだ。
10秒あればこちらに到着するんじゃないかってくらいの猛スピード。
私は満面の笑顔で手を振り、シースくーんと叫ぶ。
シース君はとっくにこちらに気付いているようで、真っ直ぐこちらに向かってくる。
…でもあんまり嬉しそうじゃない。
走りながら、なんか言ってる。……
照れてるのかなと思った私は、大人になったところを見てもらおうと、両腕を広げ、ハグをしてあげれる体制をつくった。
相変わらずなんか言ってる。
遠くて聞こえない。
というより、周りがうるさい。どこから鳴っているのか、ゴゴゴと鳴り響いている。
感動の再会を邪魔しないでほしい。
一瞬音がやんだ。
「ホリィ!!逃げろぉお!!」
「え…?」
その瞬間、赤い光と爆音と共に、私の身体が吹き飛んだのがわかった。
……特になにもありません。
次回からは2章に突入します。