第1章 初めの力 その後3
文化祭の話です。
少し恋の物語チックです。
よし、前の席を取った。
俺はシャンの剣舞を見るために、1番前の席を確保することが出来た。
返せ、僕の席だと負け犬達が吠えるが残念、そもそも俺が先に取ったのだから文句を言われる筋合いはない。
「何をしているシース、シャンが呆れてたぞ」
ジョウがホリィを連れて来た。
「シース君久しぶり〜」
「ああ、40分ぶりくらいだな、席とっといたぞ、5人分」
俺は二人に1番前の、1番真ん中の席五つ分を差し出した。
「じゃあ私真ん中!シース君は右ね!ジョウ君左!」
ジョウが呆れたように話す。
「お前な…早いもの勝ちの席を1人で五つも取るやつがいるか。」
「え〜?ジョウ君隣来ないの?」
ホリィが後ろ向きに座り、椅子の背もたれに頭をちょこんと乗せてぶーぶー言っている。
「まあ、当然座るが。」
座るのかよ。
もうすぐ始まるというのにガンマはこないし、シェリルは連絡つかないしで、一先ず3人で座った。
すぐに両隣の席は埋まってしまい、前列は満席になる。次第に後列も埋まり、後10分でスタートしてしまう時に、やっとガンマから連絡がある。
「シースか?どこおんねん?」
1番前にいるが、もう埋まってるぞと伝える。
しかしガンマは、話を聞いていたのか、こっちに来るらしい。
「シェリルはこないの?」
ホリィが心配そうにしている。
「ああなんせ連絡が取れないからな、ん?」
話をしていると、シェリルから一通のメールが届く。
「なんて書いてあるんだ?」
ジョウが前屈みになり聞いて来る。
「ん、ああ、”見てるから大丈夫”だってよ」
「ふ〜ん、どこにいるんだろうね?」
ホリィは不服そうだ。
「お〜待たせてしもて悪いな、やっと着いたわ。」
満員の席だというのにこいつはどうするつもりなんだろう。
ガンマはジョウの隣と俺の隣の奴に話しかけ、ジョウの隣がシャンのファンの1人だとわかると、そいつと何やらコソコソ話をしている。
普通席譲ってもらうんだったら逆じゃないのか?
少し話した後、そいつは席を立ち、何故かガンマにお礼を言って後ろにいった。
ジョウが不思議そうに聞く。
「何をしたんだ?」
ガンマは不敵に笑い、コレや!と懐にある大量の写真を出した。
「どや、シャンのチャイナ写真に体育写真、プレミアの水着写真もあるで!もちろんホリィちゃんのもな!」
「さいてー、いつ撮ったのよ」
ホリィが言葉通り最低という顔をしてガンマを見る。
「いやいや、待てや、ちゃんとシェリルのもあんねん!」
罪を重ねてどうする。
隣のジョウがその写真を奪い取ると、その場で炎の魔力を使い瞬く間に焼き消した。
周りは「なんか今火柱が」とザワザワしたが、ホリィが手品すごーい!と大声で機転を利かせてくれた為、特に騒ぎにはならず済んだ。
ガンマは灰になったそれを両手で集め肩を落とす。
「ああ、あああ、俺の大事な取引アイテムが…消えてもうた……どないしてくれんねん!」
「やかましい」
「あたっ!」
ガンマはジョウに後頭部を殴られる。
まあ当然だろ。
少しして、幕が上がり「大変お待たせ致しました。本日の剣舞、どうか、心ゆくまでお楽しみください。」の声の後、アジア風の音楽と共にチャイナドレスのシャンがクラスメイトとともに颯爽と現れる。
「わーシャンきれー!みてみてシース君!凄いね!」
「ああ、まさかここまでとはな。」
シャンは独特の素早い動きで、剣を二本持ち、縦、横と縦横無尽に回転したり、スリットが腰まであるというのに足を真上に上げたりしていた。
確かにセクシーさはあるが、イヤらしさが全く無い。
凄いな、これが魅せるということか。
時折こちらを見て、ウィンクするあたりも、シャンらしいというかなんというか。
「シース君!今シャンと目があったよ!ねぇねぇ!」
「ああ、ホリィを見てたな、流石シャンだ。」
素晴らしい時間はあっという間に流れ、暫くして、幕が下りた。
するとホリィが俺の腕をツンツンとついて、小声で話す。
「ねぇ、ジョウ君が…」
ジョウがまったく動いていない。
目を見開いて口を開けたまま硬直している。
「お〜い、ジョウ〜?終わったで〜?」
ガンマが横からジョウの顔の前で手を振っている。
「……はっ!!」
やっと正気を取り戻したジョウは、辺りを見渡し、俺達の視線に気づくや否や、何も言われてないのに謎の暴走をする。
「あ、ああ、そうだな、シャンの美しさがよく出ていた……あ、いや、何でもないんだが、えっと、どうかしたか…?」
……惚れたのかお前。
「なんや、惚れたんか自分?」
ハッキリ言い過ぎだガンマ。
その後、割れんばかりの拍手がおこり、体育館の端から、シャンらクラスメイトが降りてくる。客席から「剣舞最高!!」とか「素晴らしかった!!」とか聞こえてくる。
最後にシャンがでてきて、手を振りながら笑い、泣いている。
程なくシャンらクラスメイトは体育館から出ていった。
俺達は軽くジョウをからかいつつ、シャンにお礼を言わないとと席を立とうとした瞬間、大音量のマイクの声がする。
「お前ら!3組も!まちな!これで終わりじゃないよ!!」
キーンと耳鳴りがする。
シャンらクラスメイトも不思議そうに体育館に再び入ってくる。
「全員席を立ちやがれ!!」
このマイクの声、何処かで聞いたことがある。
すると別の声が、マイクで体育館にいる全員に語りかける。
「皆様、只今より、3年4組のロックバンドをお楽しみ下さい……ザー」
……
あ。
さっきの声…シェリルだ!
「なに?なにが始まるの?」
ホリィがキョロキョロしている。
すると、再度幕が上がり、エレキギターを持った全身黒づくめの、サングラスをした赤髪の女子がセンターに立っていた。
「うお?!なんや!あれシェリルやん!」
ステージにいる数名の4組のクラスメイト。それぞれがドラム、ベース、ギターと数々の楽器を持っている。
「てめぇら!今からあたしらが!感じたことのない絶頂につれてってやる!ビックリしすぎて射精すんなよ!行くぞオラァア!!」
ガラ悪!
ホリィはジョウになにか耳打ちし、ジョウが戸惑っている。ホリィがわかりやすく”?”マークを顔に出すと、今度は俺に耳打ちする。
「ねぇねぇ、ジョウ君もわかんないみたいだけど、しゃせいって何だろうね?」
お前いくつだよ。
いいから始まるぞとステージを見ると、シェリルは一度その場でジャンプし、着地と同時にエレキギターを鳴らす。
ステージの両端から火柱がが上がり、なんとシェリルがハードな曲に合わせて歌い出した。
っていうか滅茶滅茶上手いな!
ホリィはすでにノリノリで、ぴょんぴょん跳ねながら両腕を振り回している。
ガンマは「シェリルー!」と叫びながら指をつかいピー!と口笛を吹く。
俺とジョウも、こうなりゃノラなきゃ損だと思い、シャンを連れてきて、音に合わせ一緒にジャンプしたりした。
一通り歌が終わった後、シェリルはサングラスを外し、さっきとは変わって優しい口調でマイクに向かって話し始めた。
「皆ありがとう、次が最後の曲になるからさ、最後まで聴いてってくれよ」
シェリルは少し下を向き、ふぅ、と深呼吸をすると、再び話し始める。
「この歌は、あたしが小さいとき死んだ父さんが、あたしの為に歌ってくれた曲でさ。いつか大切な人ができたら、そいつに歌ってやろうと思ってたんだ…………だから今日、父さんの歌とは歌詞が違うけど、あたしの好きなそいつに、聴いてもらおうと思う………別に、伝わらなくてもいい、届かなくったっていい。ただ、聴いてほしいんだ。」
そう言うと、ステージの光は消えて、シェリル1人をスポットライトが照らす。
先程とは正反対の、ゆっくりのバラードが流れ、シェリルが切なそうな顔で歌う。
歌詞を良く聞くと
「自分が辛くてもいつも笑顔で、あたしが何もいわなくても察してくれる、あんたのその気さくなところが好きだ」
「真面目で純粋で、強くなろうといつも頑張ってる努力家のあんたが好きだ」
「優しくて、いつもニコニコしているけど、大切なものの為なら、文字通りどこまでも強くなっていくあんたの信念が好きだ」
「子供っぽいところもあるけど、誰かの為に自分を犠牲にできる、あんたの強さが好きだ」
……
「ねぇ、シース君」
「ああホリィ、俺達のことだな….」
普段ぶっきらぼうなシェリルからは、想像のつかない言葉の数々が俺の心に響く。
そして。
「あたしが辛いとき、いつも近くにいてくれて、つまんないギャグを言ってくれる、挫けそうなとき、気づいたら側にいてくれて、戯けて見せてくれる、あんたといると、悩むのがバカらしくなる自分がいて、でも、そんなあんたにいつも感謝している。」
「…ありがとう」
シェリルの歌が終わると、ステージの明かりがつき、ハードな曲と一緒に幕が降りる。まるで照れ隠しのように激しく楽器を鳴らし「また会おうぜー!!」と言いながらステージを後にした。
最後の…ガンマの事だよな…そうか、そうだったのか、シェリルのやつ。
会場が湧き、アンコールをしている。
ガンマは何故か上半身裸になり、服をぶん回しながらアンコールをしている。
さっきの、ガンマは気付いているんだろうか。
流石に気づくよな。いや分からん、ガンマだしな。
ジョウ、シャンもアンコールをしていたので、俺とホリィもアンコールを叫ぶが、ホリィが一生懸命「あんドーナツ!あんドーナツ!」とか言っている。
ホリィ、どうしたお前。
すると幕がまた上がり、アンコールに応えるシェリル。更に沸く会場。テンションが上がりすぎて会場に乱入しだすガンマ、止めるジョウ、蹴り飛ばすシェリル。
もうメチャクチャだ。
でも、楽しかった。
魔界の事とか色々あるけど、俺は、こいつらと一緒送れる学園生活に、幸せを感じた。
結局、文化祭の人気投票一位は、シェリルのいる3年4組になった。
1番頑張ったということで、シェリルはまさかの15万円を1人で貰ったらしい。
その後、皆で夕飯を食べた。因みにシェリルの奢りだ。
ホリィは楽しかったね〜とケラケラ笑っている。
ジョウはどこかシャンに対してぎこちない。
シャンは普段鋭いくせにそういうところは疎いようで、ジョウを心配している。
シェリルは柄にもなく、俺らに対して若干照れ臭そうだが、特にガンマに対して恥ずかしそうにしている。
ガンマはステージに勝手に上がった事に怒っていると勘違いしており、シェリルに対し凄い勢いで謝っている。
俺は、そんな皆を温かく見守る事にした。
食事が終わり、それぞれが家路に歩く。
そういえば、ホリィ、シャンからガンマのお好み焼きの謎を聞き、気になったのでガンマに問いただしたが、「消費税込みやねん」と訳のわからない事ばかり繰り返して話にならなかった。
家に到着し、二階に上がり疲れた〜と布団にダイブすると、ホリィが入ってくる。
「シース君、ちょっと話があるんだけど…」
少し、深刻そうだ。
ジョウのことかもしれない。確かに、ふられといて次の日にはシャンに目移りするとは、節操ないからな。
まあでも、あれは惚れるぞ。凄かったもんな。
「あ、あのさ…ジョウ君のことなんだけど…」
やはりな。単純だぞホリィ。
「ああ、確かに節操ないかもしれないけど、まあいいんじゃないか?あいつも色々と思うところあるだろうしな」
ホリィが不思議そうな顔をしている。
ん?また間違えたか?
「えっと…よく分かんないけど、違くて、ジョウ君ってさ、シャンの事好きだよね?」
そっちか。
何か言いたそうにしているので、俺は布団から起き上がり、ホリィを隣に座らせる。
「どうしたホリィ」
ホリィは少し間を置いて、話し始める。
「んとね、ジョウ君とシャンって、上手くいくと思うんだ。」
俺は少し考えた後、「そうだな」と答える。
「でね、ガンマ君気付いてないけど、シェリルと相性いいだろうし…」
何が言いたいのか少しわかった。寂しいんだろう。もし4人がそれぞれ恋仲になったとしたら、もう一緒にいられなくなる気がするんだ。
確かに、少し寂しいな…でも
「ホリィ、それはいい事なんだ、見守ってやろう。寂しくなるかもしれないが、俺達が祝福してやらないと、あいつらも不安になるだろ。まあ、でも分かんないぞ。意外と今のままでずっといたりしてな、はは。」
ホリィは少し黙り、首を振った後、俯いて話す。
「そうじゃなくて…その…」
少し震えている。どうしたというんだ。
「私…」
俺はホリィの頭をポンと叩き、何か悩みがあるのか問いただす。
「なあホリィ、俺はホリィの兄であり弟だ。隠し事とか、遠慮とか、そういうの無しに…」
「好きなの…!」
ん?
「どうした?ホリィ、何が好きって?」
顔を真っ赤にして、震えるホリィ。
「シース君が、好きなの…!」
何を今更。
「俺も好きだぞ。これからも一緒にいような…そういえばさ…」
そう言いかけた瞬間、ホリィは俺の口にキスをした。
「…ごめん、なさい…………でも、そういう事だから…家族とか、友達とかじゃなくて……とにかくごめんなさい!」
バタンッ
部屋を走って出ていくホリィ。
俺は突然の事に思考が停止する。
こんな時、どうしたらいいのかわからなかったが、取り敢えず、ホリィの部屋に行く事にした。。
ホリィちゃん、大胆でした。
次回はホリィちゃん語り部の日常最終となり、シースの出生についても、少し書けたらと思います。