第1章 初めの力 その後
今回は元ザリガニ野郎のジョウが語り部です。
ホリィちゃんに想いを伝えることができるかどうかの回になります。
10月25日…あの事件から2ヶ月以上がたった。
あの後、明日1日休めと言われたオレは、言われた通りにし、次の日シースとホリィが迎えに来て、一緒に学校にいった。
どんな顔をして学校の皆と会えばいいのかわからなかったが、皆、何事も無かったかのようにオレに話しかけてくる。
後で聞いた話だと、シース、ガンマ、シェリル、シャン、あろうことかホリィまで、オレは被害者だったんだと学校中に話をしてくれたらしい。
オレは再度皆に謝罪し、正式に許しを得る事が出来た。
シェリルは、「今回、あたしの力の未熟さがよくわかったから、逆に感謝だね、サンクス!」と言ってくれた。
ガンマは「まあ、オモロかったし、ええんちゃうか?誰も死んでへんし、ナハハ」と言ってくれた。
シャンは「う〜ん、私も大分蹴っちゃったりしたから、おあいこね!ハイ、この話はお終い!」と言ってくれた。
シースは「ジョウがいなかったら俺の力は埋もれたままだったんだ。だから、気にすんな。一緒に強くなろうぜ」と言ってくれた。
そしてホリィは「ゴメンね、私のせいで、つらかったよね。えっと…ちょっとえっちな事もされたけど、それは気にしないでね。別に怒ってないから。………あと……ビンタしてごめんなさい!」と涙を浮かべ言ってくれた。
オレは、こんなにも優しい奴らに囲まれてるんだと改めて知る事が出来た。そして、オレのこの炎の力、大切な誰かの為に使おうと決心した。
………
……
そして今日、図々しいと思うが、オレは最後の勝負にでる。
「おはよ、ジョウ」
学校に向かう途中、後ろからシャンがオレに声をかける。
「おお、シャン、お早うだな。その、例の件、どうなった?」
オレはシャンの協力の元、ある事を実行するために半月程前から計画を立てていた。
「ばっちし!ちゃんと今日の放課後、女同士で話したい事があるから、シース君には先帰ってもらってって言っといたから!」
そう、オレは今日、ホリィに告白をするつもりである。フラれる可能性の方が圧倒的に高いが、明日は文化祭。もし上手くいけばオレはホリィと一緒に回れるのだ。
だが…
オレはホリィに…
オレが俯いていると、シャンがオレの背中を叩く。
「ま〜たそんな顔して、あの事は終わった事でしょ?ホントあんたはホリィの事な〜んにもわかってないね」
ホリィは嘘をつけるような子ではない。本心であの事に関しては許してくれているだろう。
だが好きな子をこの手で傷つけてしまった。辱めてしまった。オレは自分自身が許せないのだ。
そんなオレにシャンは全てを見透かしたように話す。
「どうせ俺には資格が〜とか思ってるんでしょ。そんなんじゃいつまでたっても先に進めないよ?逆にいいじゃない、傷つけてしまった分、これからは護らせてくれ〜とか言ってさ!キュンとくるんじゃない?他の人やより全然可能性あるって!頑張んなよ!」
シャンは本当に人を元気付けるのが上手い。オレもこうありたいものだ。
「有難う、シャン、勇気をもらった」
「どういたしまして、しっかりやんなよ」
シャンは先に学校まで軽やかに走る。
暫く歩いていると、先の方にシースが歩いているのが見えた。
「シース!」
シースは「ん?」と振り返りこちらに歩いてくる。
「ジョウ、早いな、どうだ?久しぶりに一戦やるか?」
軽く構えを取るシースに対してオレは冷静に対処する。
「気持ちは有難いがオレ達がこの場でやりあったら街中火の海だぞ」
「はは、確かにな」
シースと二人で学校まで歩く。
「…なあ、シース」
「ん?」
「いや、今日は、一人なんだな」
オレがそう言うと、シースは額に手を当てながら溜息をついた後、申し訳なさそうに話した。
「今日、ホリィが弁当作るっていっててよ…」
その危険がどれほどのものなのか、オレは知っている。はっきり言ってホリィの手料理は兵器だ。一度だけ食べた事があるが…思い出したくもない。危うく救急車を呼ばれるところであった。
それを、まさか…
「まさか、許可したのか…?」
シースは気まずそうに頷き、再び大きな溜息を出した。
「いやな、何とか阻止しようと思って、遠回しにいらないって言ったんだよ、そしたらさ」
シースは自分の髪の毛を後ろで持ち、 ポニーテールみたいにしたあと、ホリィの真似をする。
「私の手料理は、おいしくないもんね…うん、ゴメンね…グス…私、私…って言われてよ。」
確かにそう言われたら、そんなことない、美味しいよとしか言えないだろう。
その後シースは急に正面からオレの両肩を掴み、真剣な顔で「すまん、許してくれ」と言ってきた。
「おいシース、まさか…」
オレはいやな予感がした。そして、それは見事に的中する。
「俺、先行くわ!」
シースは逃げるように去って行く。すると後ろから、聞きたかったような、聞きたくなかったような声がする。
「おっはよ!ジョウ君」
オレはいろんな意味でドキっとした。
「ホ、ホリィか。その、お早うだな。」
ホリィはふんふんふ〜んと言いながらドヤ顔でバッグから箱状のものを取り出し、俺に渡そうとする。おい、まさか…
「はい、お弁当、シース君から聞いたよ?私のお弁当が食べたかったって、エヘへ、嬉しいね。」
………
…あの野郎
自分の身を護る為に俺を犠牲にしたらしい。
天使の様な笑顔のホリィの手から、明らかに邪悪なものがぶら下がっている。
だが、ここで受け取らないわけにもいかず、オレは引きつりながらも受けった。
「有難う、嬉しいよ。」
ホリィの弁当は確かに兵器だが、オレの為に作ってくれたことは、正直、嬉しかった。
それからホリィと二人で歩き、学校へ到着。今日は授業は無く、明日の文化祭の最終準備の日となる。
オレ達のクラスは喫茶店をやる事になっており、衣装合わせの最終チェックやオリエンテーションを開始する。この学校の文化祭では、最後に一般の人から投票をしてもらい、一位だったクラスに何と賞金が30万円も出るのだ。クラス全員で分け合ったとしても、1人1万円を手に入れることができる計算だ。
特にシースは本気で狙っており、どうも作戦がある様だ。
「おい、シース。」
オレが呼ぶとシースは弁当の件を小声で謝罪してきたが、それはもう良い。そろそろ作戦とやらを教えて欲しいと頼んだ。
「よし、じゃあ皆集合してくれ!」
シースはクラスメイトを集め、今回の目玉について話を始めた。
「では今回の作戦を発表させて頂く!一般男性及び軟派目的でくる他校生、そいつらから逃げてくる女子達が今回のターゲットだ」
偶然にもオレとホリィが同時に口を開く。
「嫌な予感しかしないんだけど」
「嫌な予感しかしないんだがな」
お互い目が合い、プッと笑う。
シースはコホンと咳払いをした後、オレ達の意見はスルーし、話を進める。
「まず、衣装だが、女子のメイド服!実はこれは腹の周りが取れる!」
実際に今ある衣装のウエスト部分の紐を解いてみせた。するとウエスト周りだけ、生地がヒラヒラと落ちる。
「男性客の際は、この状態で接客をしてもらう」
女子達はエー、ヤダー、こまるーとか言いながら紐をチェックしつつ、自分の身体に合わせたりしている。
まあ、そのくらいであればいいのだろう。
「で、男子衣装だが、…ジョウ、来てくれ。」
オレは不思議がりながらも、シースの言う通りにする。男子の服はタキシード。どこかの生地が取れたりすればただのバランスの悪い服になることは明白だ。
シースはオレを用意された妙にベタつくシャツとタキシードに着替えさせると、ニヤリとしながら肩の辺りをバシっと叩く。
するとどういう原理か、タキシード、シャツがバラバラになり俺は上半身裸になってしまった。
「お、おい」
シースは爆笑している。これほどこいつを殺してやりたいと思ったことはない。オレが言うとシャレにならないが。
女子達は目を手で隠し、キャーキャー言っている。
ホリィを見ると、同じく手で隠しているが、明らかに隠れていない。ばっちり見ている。
オレはそんなホリィを見て少し優越感に浸ったが、取り敢えずこのままでいるわけにもいかないので、服を着る。
「っとまあ、男子はこんな感じだな。因みに、入口には男子の肩を叩くと服がイリュージョン!みたいな見出しを書こうと思う。気になってみんなやりそうだしな。そして最後に、」
まだあるのか。
その二つあれば十分だと思うがな。
「さっきとは別にもう一つ、去年から急激に伸びて来ている客層がいる!それは、変態!と言う奴だ!」
………はぁ?
「まあ聞いてくれ、去年の文化祭、俺は影で観察していたが…」
ああ、そういえば何やらこそこそしていたな。
「ホリィの写真を隠し撮りしている奴が相当数いた!」
……
「えええ?!ちょ、ちょっと、シース君?!何言ってんのよ?!」
ホリィが慌てている。いたな、そういえば。
「そこでだ、ホリィには別室で待機してもらい、メニューにホリィと書く!というか!もう書いてある!」
皆がメニューを開く。すると確かに最後のページに書いてある。
〜学園のアイドル、ホリィ撮影会(間接キスあり)〜
別室料3,000円写真取り放題。
間接キスドリンク一杯3,000円
…待て待て。正気かこいつ。
「ホリィにはメイド服や、セーラー服、水着等、数々の衣装に着替えてもらい、一杯3,000円の紙コップのお茶を一口飲み、残りを客に渡す!これはいけると思うんだが、どうだ皆!」
幾ら何でもダメだろう。ホリィの気持ちを全く無視している。キャバクラをやるつもりかお前は。
グスッ…
思った通りだ…ホリィが泣き出した……
まさかシースがこんな事言う奴だとは思ってもみなかったからな。
「あ、あれ?…ホリィ…?」
自分が何をやらせようとしているのか、まだ理解していないこいつは、なにやらあたふたしている。
「酷い…酷いよ…シース君…」
ホリィは泣きながら俯いてしまった。
「…おいシース。表出ろ…」
俺は怒りの表情でシースをみるが、シースは訳がわからないと言った感じで頭を掻いている。
「え〜っと、ちょっと待っててくれるか?」
シースは教室を後にし、少ししてシャンを連れて来た。
「なあシャン、どうなってんだこれ?シャンがホリィと話して決めたって言うから俺は…」
バチン!!
シースが言いきる前にシャンがビンタをする。
「またホリィ泣かせて!最低よ!いこ!ホリィ」
「うん、グスッ…」
…成る程、そう言うことか…でもやり過ぎじゃないかシャン。
どうも察するに、シャンはオレの告白を助けると同時に、1番近い異性のシースから引き離すつもりのようだ。
シースは相変わらずなにが起きているのか分からず、立ち尽くしている。
クラスの皆も「がっかりだよ、サイテー」とかなんとか言ってシースをバッシングする。
すまんシース、でも弁当の件があるから、あいこだな。
取り敢えずホリィ撮影会の件以外では悪くはないので、それでいこうと言う話になった。
その後、オリエンテーションをスタートし、女子のメイド服や男子のタキシードの最終調整も含め、客と店員に分かれてスタートする。
女子はまだいいが、タキシードは一度バラバラになると再びテープでくっ付け直さないといけない為、皆が苦戦した。何故肩を叩くと全部バラバラになるのか気になるが、シースは企業秘密だと言っていた。
他のクラスを覗いたり、昼休みに学校が異臭騒ぎになったりしながらもその日は終わり、皆、帰り支度をする。
オレは昼過ぎから原因明確な腹痛に襲われ、げっそりしながらも教室に戻る。よくぞ食べきったものだ。
あれから姿を見せないホリィに、シースの心配な様子が伺える。
謝りたいと言いながら、ずっと青い顔をしているシースを流石に哀れに思い、やむ終えず話をした。
「なんだよ、そういう事だったら早く言ってくれよ。そうか、頑張れよ!」
シースはそう言うと、笑って教室を後にした。
暫くして、教室の扉が開く。
「あれ?シャンは?」
オレの鼓動が大きくなる。
「い、いや、来てないが」
ホリィとシャンはさっきまでずっと一緒にいて、「教室で話そうよ、競争ね」と言いながら先に行ってしまったと話した。
「シャン、自分のクラスに行ったのかな?」
そう言って荷物を持ち、教室を出ようとするホリィを、オレは呼び止めてしまった。
「あ、ホ、ホリィ!」
声が裏返る。
心臓が爆発しそうだ。
「ん?どしたの?」
ホリィが首を傾げ、こちらを見る。
あまりの可愛さに、オレはホリィを見れなかった。
沈黙が胸を圧迫する。
「ごめんね、シャン待たせてるから」
そう言って教室を出ようとするホリィの腕を、俺は掴んでしまった。
「あ…えっと、ホリィ」
ホリィは不思議そうに上目遣いで俺を見る。
身長差があるから仕方がないとはいえ、反則だ。
「ジョウ君、なんか変だよ?お弁当、美味しくなかったかな…?きゃ!?」
心配そうに話すホリィに対し、気付けばオレはホリィを抱き締めていた。
「く、苦しいよ、ジョウ君、どうしたの?なんか嫌なことあったの?」
オレはハッとしてすぐに体を離し、「すまない」と一言謝った。ホリィは制服を整え、椅子に座る。
「入れ違いになっても良くないし、ここでシャンを待つことにします。」
ホリィは話があるんでしょといった感じで俺を見る。
少しの沈黙の後、俺が何も言えずにいると、ホリィが先に口火を切った。
「今日、ありがとね」
「え?」
「シース君が変な事やろうと話してたとき、怒ってくれたじゃない。嬉しかった。」
「あ、ああ」
ホリィがオレに笑いかけた後、少し俯き、頭を掻く。
「私さ、お料理上手じゃないから、ホントは渡そうか迷ったんだよね。美味しくなかったでしょ。」
「いや、そんなことは…」
「ううん、いいの。分かってるから。でも、ちゃんと食べてくれて、どうもありがとうございます。」
ホリィが深々と頭を下げた後、軽く髪を直し、続けて話し始める。
「シース君って酷いよね、あんなこと言うなんて。」
「あ、あれは、実はだな…」
「大丈夫だよ、ちょっとビックリして泣いちゃったけど、そういう人の気持ちを考えないこと、本気で言う人じゃないのは良く分かってるから。」
「そうか…」
「うん。でね、シース君の考えたやつ、ちょっとやってみようかなって。流石に水着はやめて欲しいけどね」
「は?!」
何を言い出すんだと思い、オレは驚き、目を見開いた。
「確かに恥ずかしいけど、シース君の事だから、何か考えがあるんだよ。実はこうでしたみたいな」
「……」
オレはどう言えばいいか分からず、黙ってしまう。
「知ってる?シース君ってね、家ではあんなじゃないんだよ。学校とか、外では私にあまりお世話焼かないけど、家だと、私が座ろうとしたら座布団持ってきたり、台所で冷蔵庫開けたら、コップを準備してたりしてね。」
ホリィは楽しそうに話す。
「私が階段で転んじゃったときなんても〜凄かったよ。大丈夫って言ってるのに、起き上がろうとする私を無理矢理お姫様抱っこして、お布団に寝かせられたと思ったら、救急箱片手に徹夜で看病するんだもん。痛むところはないかとか、ほしいものはないかとか言いながらね。いや〜傷一つついてないのにさ。」
楽しそうに話すホリィを見て、オレは色々考えてしまう。
「本当に大事なんだろうな…」
「うん、過保護って言った方が正しいけどね」
今、分かってしまった。ホリィが楽しそうに、幸せそうに話すとき、決まってそこにいつもシースがいるのだ。
例えいなくても、シースの事を考えている。
そして、それはきっとシースも同じだろう。
「なぁホリィ」
「な〜に?」
「シースの事、好きか?」
オレの鼓動は何故だかよくわからないが、いつの間にか落ち着いていた。
「うん、大好き。家族としても、男性としてもね。……あはは…ちょっと恥ずかしいな。内緒だよ?」
「ああ、わかっているさ。」
俺は少し晴れやかな気分になりながら、荷物をまとめ、教室を出る。
「ああそうだ、そういえばシャンの奴からメールが来ててな、急用で先帰るってよ」
「え〜何それ〜!私に連絡くれればいいのに〜。む〜、しょうがない、私も帰るか」
帰り道、途中まで一緒に帰り、俺はこっちだからとホリィと別れ、1人になる、不思議と清々しい気分で、顔には少しばかりの笑顔が溢れる。
歩いていると、シャンが物陰から出て来た。
「ねぇ、どうだったの?おやおや?もしかしてその嬉しそうな顔は〜?」
「ああ、駄目だった。」
シャンが申し訳無さそうにテンションを下げる。
「えっと…」
「はは、大丈夫だ、色々ありがとうな。」
そう言うと、何故か目から水滴が溢れた。
「雨…か?」
「……ねえ、ジョウ、悲しいなら泣きなさいよ、今日はお姉さんが慰めてあげるから、ね?」
シャンに優しく言われた瞬間、オレの視界は何も写さなくなった。
「ヨシヨシ、頑張ったね」
夕暮れ時、声を出さず、歯を食いしばり涙を流すオレに、シャンは背伸びして、ずっと頭を撫でてくれていた。
申し訳ありません。
魔界、でてこなかったですね。
次回は文化祭になります。
もう少し日常があるので、どうかお付き合い下さい。