第1章 初めの力 2
エセ関西人が語り部となる為、緊張感があまりありません。
でも責任感があり、憎めない奴だと思います。
「おい、なんやあれ…」
目の前の光景が信じられへんかった。異形のものが、ホリィちゃんの首を片手で持ち、壁に叩きつけよる。もうホリィちゃんはぐったりしており、そのバケモンはどこか笑っている感じがしとった。
「グズグズすんな、行くよガンマ!」
シェリルが走り出しよった。助走をつけ、ジャンプしてそのままバケモンに殴りかかる。
「この、くされザリガニがぁあ!」
バケモンの左コメカミにシェリルの右がヒット、少しよろめきよったが、すぐにバケモンの左腕がシェリルを襲う。あかん、まずい。
俺は少し出遅れてからシェリルの体を掴み、シェリルの頭を庇いながら地面に伏せる。
バケモンの左腕は空を裂き、同時に右足で俺らをサッカーボールのように蹴り飛ばした。
俺とシェリルは吹き飛ばされ、地面から5メートルは高い壁に叩きつけられる。
「ガッハァ…な、なんやこれ、ありえ、へんやろ…」
打ち所が悪かったのか、シェリルの意識は既にあらへんかった。
「おい、シェリル…くそ、」
バケモンはこちらに目もくれず、ホリィちゃんを右肩に乗せると、火花とともに飛んで行きよった。
「どない、なっとんねん…」
俺はそのまま倒れこみ、間も無く意識を失った。
….
…
..
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「おい!起きろ!エセ関西!おい」
声がする。目を開けると、額から血を流しているシェリルが俺を揺さぶっとる。
「おー、誰が北の国からやねん…」
俺は目を覚まし、辺りを見渡すが、そこにはもはやバケモンの姿はなく、血塗れの女ヤンキーしかおらへんかった。
「早く、ホリィを探しにいくよ!ったく…あのバカ!」
どこに行ったかもわからん、二人とも立つのがやっとのこの状態で、何ができんのか。俺はシェリルを抑え、取り敢えず一度戻らなという話になった。
「あいつ!自分が犠牲になって終わらそうとしやがって!そんなに頼りないかよあたしらは!くそ!」
シェリルが怒っとる。無理もないわ、護るって決めたのに、全く護れへんかった。それどころか、護られてしもたんやから。
「俺もおんなじ気持ちや、せやけど…ホリィちゃんの優しさや、それもわかってあげなかん。」
シェリルが俺を睨む。
「んなことわかってんだよハゲ!」
ハゲてへんわ。
学校へつき、いずれは言わなあかんと思い、シャンを呼び出す。
「うそ…」
シャンはこの世の終わりの様な顔をした後、スーッと涙が彼女の頬を伝う。
「いや、いやよ、いやあああ!」
「落ち着かんかい!まだ可能性はあるゆうたやろ!」
暴れるシャンをなんとか押さえつけ、ゆっくりと可能性について話す。
「シースとホリィちゃんの大きな違いは、シースは胸を貫かれて捨てられとったのに、ホリィちゃんは連れて行かれたことや。つまり、思った通り、ジョウの目的はホリィちゃんの可能性が高いねん。皮肉にも、ホリィちゃんのとった行動は俺らを護るという意味では概ね正しかったと言える。まあ、当然、そんなんじゃ済まさへんけどな。」
俺とシェリルを手当てしながら話していくうちに、シャンもやっと落ち着き、作戦を考えなという話になった。シェリルは使えそうだからと、三人の男を引き連れ、共に作戦を練る。
「まずはホリィちゃんを探さなあかん。これは探せばみつかるはずや。人を1人抱えてうろうろしとったら怪しさ満載やし、ホリィちゃんも飯食ったりせなかんはずやからな。殺すつもりがないんなら尚更、怪我の手当てもせなあかん。おそらくやが、どっかに監禁されてると思うねん、どうや?」
「異議なし」
「異議なし」
「よっしゃ、じゃあそれがどこかやけど、心当たりがあるとこあったらゆうてくれ」
暫く皆が考えた後、シェリルが口火を切った。
「あいつ、頭悪そうだから、割と近くにいるんじゃないかな?どこに監禁してるか覚えてる必要もあるし」
頭悪い前提で話しよるが、取り敢えず地図を開き、近くで人が監禁できそうな場所をしらみつぶしに探しにかかることにした。
「じゃあシェリルは西な、俺は東、シャンとパシリ1号は南を探してくれや、パシリ2号、3号は北や」
「了解!」
ツッコミ0やこいつら…
一同声を揃えての返事のあと、注意点だけ確認する。
「ええか?もし見つけても絶対にすぐいったらあかんで、携帯に連絡してから全員で向かうんや!後は、今日中に探し出さなあかん!ホリィちゃんも心細いやろうし、親御さんに娘までいなくなったと報せるわけにもいかん!わかったらいくで!そいじゃ、解散!」
俺の渾身のボケを、全員が空気読めみたいな顔をしよったあと、各々は移動する。
シェリル、シャンらと別れたあと、俺は東の街中を探す。公園の倉庫。古ぼけた家、廃墟になっとるマンション。
「あかん、どこにおんねん。」
時間はもう16時や、そろそろ親御さんも心配するで。
焦っている俺の携帯にちょうど電話がかかる。シェリルからや。
「見つけたんか!?」
「いや、こっちはからっきし、さっきシャンとも連絡して見たけど、ダメみたい。ただちょっとイヤな予感がするんだけど、北方面に行った2人が全然電話に出ないんだよ」
このタイミングで連絡つかんくなるゆうことは、そういうことやろ。東方面もあらかた探し終えたのもあり、俺は北に向かうことにする。
「わかった。もしかしたら何かあったんかもしれん。俺は北にいくで。」
「あたしも行くよ、シャンは南に行ってるし時間かかるはずだから連絡だけ入れてく。」
「了解や、北ゆうたら、探す場所一箇所しかあらへん!急ぐで!」
俺らは合流した後、タクシーを捕まえ北にある潰れた倉庫業者に向かい、少し手前で清算した後、慎重に足を運ぶ。
1番手前の倉庫の中をゆっくりと覗いたら、中に誰かおるのがわかった。
2人おる。よく見ると、パシリ2号、3号やった。
シェリルが2人に摑みかかる。
「おい!お前ら何してんだよ!状況わかってんのかよ!」
2人は分かりやすく震えとる。そないにシェリルが怖いんか。そりゃそうやな。
…いやいやちゃうわ、なんか怖い思いしたんやろ。
こんな状況でもツッコミを忘れない俺を褒めたいところやけど、流石にシャレにならんので、真面目に問うてみる。
「もしかして、見つけたんか?」
2人は震えながら頷き、それを見たシェリルが「携帯に電話しろってあれだけ!」と言った瞬間、2人が慌ててシェリルの口を塞ぐ。
「化物…化物が近くにいる…声を…ださないでくれ…」
震えた小声でシェリルに懇願する。
あのザリガニ、どっか行ってくれとると少しだけ期待しとったけど、流石にないか。
ホリィちゃんだけ連れ出そうにも、正面からじゃ勝ち目ないし、どうしたらええんや。取り敢えずこの2人はもう役に立たん、心が折れとるわ。
バケモンがおった場所だけ聞いたあと、隠れているよう指示をするか。
俺とシェリルは軽く話を聞き、隠れながら聞いた場所へ向かう。
作戦なんて何もない。最悪、どっちかが犠牲になろうとも、ホリィちゃんを救うつもりやった。
縦横10mはありそうな巨大な倉庫の陰から、ゆっくりと中を確認する。
(…あかん、最悪や。)
ホリィちゃんはおった…でも見つけたはいいが、1番奥におる。しかも蜘蛛の糸のようなもので天井から両手を縛られ、下着姿で吊るされた状態になっとる。
見た所グッタリしとって虫の息や。バケモンは下からそれを見て、笑っとるし…。
「シェリル、どうすんねん、あんなん届かへんで」
小声でシェリルに問いかけるが、反応がない。シェリルの方を見ると、目には涙を浮かべ、唇を噛んで辛そうにしとる。
俺が甘かったわ。まさか治療もせんとあんな状態にされとるとは思わんかった。ジョウの心はもう無くなっとって、ただホリィちゃんを側に置いときたいと願う腐ったバケモンなんや。
俺は一呼吸をした後、辺りを見渡し、鉄の棒を見つけそれを拾う。
「シェリル、すまんな、俺、先行くで。二つの意味でな。ホリィちゃん、何とかして助けたってや」
しゃがんで中を見つめるシェリルの背後から、声をかけるが反応がない。俺今めちゃかっこええ事言うたんやけどな。
「シェリル、すまんな、俺、先行くで。二つの意味でな。ホリィちゃん、何とかして助けたってや」
もう一回今度はシェリルの顔を横から覗き込みながらゆうてみた。しかし反応があらへん、なんや、シェリルにとって俺はもう死んどるんかいな。
そんな事を思いながらシェリルの顔をよう見ると、さっきまで血が出るくらい唇を噛んどったのに、今はポカンと開けとる。緊張感のかけらもないアホヅラをしとるし、そもそも、なんや、倉庫内を見とらん。
「シェリル、おい、聞いとるんか?」
シェリルの肩を叩き話しかける。するとシェリルが遠くで並んどる倉庫の辺りに指を差した。
「いや…あれ…」
俺はシェリルの指の方向に目をやると、そこには信じられへんもんがあった。
俺もアホヅラでポカンと口を開け、閉じることができんくなった。
次回は一応、語り部はシェリルにするつもりです。
ホリィさんが可哀想になってきますね。でも実際いたら惚れるかムカつくかどっちかのキャラしてます。