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神天絶技  作者: ハミエル
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第1章 初めの力

語り部がホリィになります。

シースがどうなったか、ホリィがどうなるのかの話です。

「シース君、遅いな〜」

私は図書館の椅子に座り、椅子の足二本だけで立てないかと前へ後ろへとフラフラして遊んでいた。


「確かに遅いな、この雨やし、心配やで」

ガンマ君も調べ物をしつつ気にしている。


「携帯はどうや?」

「ダメ、私が持っちゃってる。」


もう私たち二人が図書館に着いて30分以上たっていた。もしかしたら学校で誰かに頼み事でもされたのかもしれないと思い、学校に電話をしてみる。


「もしもし、3年2組のホリィですけど、シース君ってまだ学校にいます?」


同時にガンマ君はシェリルやシャン、その他数名に電話をかける。


結果は全敗。誰も知らなかった。


一応家にも電話をしてみたけど、当然の如く知らないとのこと。お母さんが少し心配しているのがわかった。



「アッハァ〜ン、ウッフ〜ン、アッハァ〜ン、ウッフ〜ン」

…「お?誰からや?」


ガンマ君が携帯にでる。

いやなにその着メロ…


「ホンマか?おーわかった、恩にきるで、ほなな〜」


ピッ


「ふぅ、ホリィちゃん、ちいと厄介かもしれんわ」


ガンマ君の不安そうな顔が見て取れる。


「委員長がな、そういえば雨の中歩いてるシースらしき人影をみたゆうてんねん。角を曲がった瞬間やったから、もしかしたらただの髪の長い女の人やもしれんけど、何となく男っぽい気がしたゆうてな。場所は図書館のすぐ側らしいで」


それがシース君だとして、何でここまでこないのか、なんだか嫌な予感がした。一度探しに行こうという話になり、傘を差し、言われた場所に向かう。


(…俺は大丈夫だ、今までもそうだったろ?これからも、一緒にいるさ。血は繋がってなくても、俺はホリィの兄だし、弟だ。)


なぜかあの時の言葉が蘇る。


すぐに言われた場所に着き、角を曲がった辺りで、途端に道が狭くなってきた。


「ホンマにこないなとこ通ったんかいな、全く世話焼けるで」


ガンマ君は憎まれ口をたたいているけど、私にはわかる、不安なんだ。男の子ってホントこういう時不便だよね。


文句を言いながらも狭い路地裏を突き当たりまできて、角を曲がる。少しひらけた場所に出たので、ちょっと安心した。でも、遠くに何か変なものあるのが見えた。一歩一歩、近づくにつれ、よくわからないけど鼓動が速くなる。


そして、それを目の前にしたとき、私達は硬直した。



「シース…君…?」


壁にもたれかかり、座るように倒れているそれは、紛れもなく私の兄で弟の、シース君だった。

ガンマ君が傘を捨て、しゃがみ込んでシース君の両肩を掴み呼びかける。


「おい!シース!おい!何があったんや!コラ!返事せえ!!おい!…っ!」

今度は胸ぐらを掴もうとするが、ガンマ君はどうしようもないことに気付いてしまった。


そのまま手を離し、呼びかけるのをやめ、しゃがみ込んだまま動かない。


ずぶ濡れのガンマ君が私をみて、泣きそうな顔をしている。


「うそやろ…?」


私は恐る恐るシース君に近づき、肩に触れた。

雨だから、体温が分かりづらい。

震える手でゆっくりとシース君の胸の辺りを触ると、全て理解できた。



穴が、空いてる。








…ここには、心臓があったはず、探さないと…

血もたらなさそうなので、ポカリじゃ駄目かガンマ君に聞いてみる。


「……」


何も言ってくれない。

そうだよね、お医者さんじゃないもん。


私は先に心臓を探すことにした。

まだその辺りに落ちてるはず、私の長年の勘が冴えてきた。


探してると、ガンマ君が急に立ち上がる。

一緒に探してくれる気になったらしい。

まずは近くのゴミ箱から探し「やめぇや!!」


……


「…やめぇや……頼むから…やめてくれや…」


ガンマ君が泣いている。

雨でずぶ濡れだけど、すぐにわかった。


「シ、シース君はね、私のお兄ちゃんで、弟でもあるの、だから、血の繋がりはないけど、ずっと、一緒に…って…卒業…したら…旅行行こう…って…」


これ以上声が出なかった。

私の目から止めどなく溢れてくるものをどうしようもなかった。


「風邪引くで…いこうや…警察にも言わなあかん…」


ガンマ君が私を起こそうとする。


「やだよ…やだよぅ…シース君が、風邪ひいちゃう…」

私はシース君に抱きつき、離れようとしなかった。

「シースは…風邪引かへん…だから…な」


私の腕を掴みシース君と離そうとする。


「風邪ひいちゃうよ!起きてから一緒にいこうよ!」


「もう死んでんねん!!」

「!!」

ガンマ君が涙声で現実を私に叩きつける。


「胸貫かれて!死んでんねん!!もう話すことも、笑うこともできへんねん!辛くてしゃあないけど!俺たちが、シースの犠牲を無駄にしたらあかんねん!」


「でも、原因が…」


まだわかってない、事故の可能性がとか言おうとしたが、ガンマ君は遮った。


「ジョウやろがぁあ!!!」


雨の音が小さく聞こえるほど、ガンマ君は叫んだ。


「ようわからんけど!危険が迫ってんねん!みんなに知らせんと次何が!誰が犠牲になるかわからんねん!でも今この状況!次に1番危険なのは!誰がどう考えたって!お前やろがぁああ!!」




ジョウ君のお母さんの話を思い出す…


シース君と話した帰り道を思い出す…




「シースが1番護りたかった1番大事な人を!護らなあかんねん!シースの犠牲を!犠牲を……頼むから…無駄にせんとってやぁ…」





「……ガンマ君…」






私達はシース君に一言「ごめんね」と呟き、警察に保護してもらった。


事情聴取が終わり、ガンマ君と一緒に私の家に帰った。

まだ整理できていない私の代わりに、お母さんにはガンマ君から説明してもらった。嫌な役割をさせてごめん。ガンマ君はお母さんにも警察にも、嘘はつかずジョウ君の話をした。でも警察には相手にして貰えず、お母さんには言っていい冗談と悪い冗談があると怒られていたが、ガンマ君は最後まで譲らなかった。

その日のうちにガンマ君は学校中のみんなに同様の連絡をし、疲れ果てて廊下で眠ってしまった。


「凄いな、ガンマ君は、私、全然ダメだ…」


お母さんも信じた訳ではないが、流石に心配の為、その日はガンマ君を右隣の布団に寝かせ、左の布団にお母さんと一緒に寝た。




次の日、すでに学校の殆どの人が知っているこの事件の影響で、最低三人で登下校をすることが義務付けられた。また、男子三人は構わないが、女子三人は認められなかった。ガンマ君の話、皆、先生も信じている。凄いな、これが人望というのだろう。




教室に入ると、シャンが泣きながらこちらに来て私にビンタをした。


「何で何も言ってくれなかったの?!私達友達じゃなかったの?!何とか言いなさいよ!」


ごもっともだ。きっとシャンはシース君の事が好きだったんだろう。知ってれば何かできたかもしれないのに、自分の何も知らないところで、知らないうちに、好きな人が死んでしまうって、どんな気持ちなんだろう。きっと、身を裂かれる思いなんだろうな…


「ごめん…シャン…」


バチン!


再びシャンにビンタされた。痛い。私はシース君の死の原因みたいなものだもんね…しょうがないよ…責められたって…


「何で1人で抱え込むのよ!今1番辛いのはホリィでしょ?!あなたが私を巻き込みたくなかった事くらいわかってるわよ!優しさだってことくらいわかってるわよ!今だってそう!自分ばかり責めてるんでしょ!もうやめてよ!そういうの…!」


……違った。シャンが泣いているのは、私の為だった。責められてるのは間違いないけど、私のせいじゃなくって、私の為だった。その事に気付き、どれだけシャンが私の事を考えてくれてたか、理解してくれてたかがわかった瞬間、その場で大泣きした。




「うあああああああああああああん!ああああああん!しゃあああああん!シースくんがああああ!やだよおおおおお!あああああん!」





「もっと早く泣きなさいよ…ずっと我慢してたんでしょ…バカ…」




しばらく泣いたあと、泣き疲れて眠ってしまった。

いつの間にか保健室に運ばれており、目を覚ました時には、もう5限目が終わるころだった。

昨日も実はほとんど寝ていないし、よっぽど疲れてたんだろう。


隣を見ると誰かがいるのがわかる。誰だろう。カーテン越しだからよくわからない。シャンにしては髪の長さが足りないし…椅子に座っている。何かを話す訳でもなく、でも、こちらを向いているのはわかる。


「あのっ…」


話しかけようとした瞬間、その人は椅子から立ち上がり、何かをカーテンの上から投げて来た。


ボトッ


私の布団の腰辺りに落ちたそれは、箱型の入れ物に入っているスティック状のお菓子だ。


「あ、ありがとう」


私がそういうと、その人はゆっくり保健室から出て言った。


「誰だったんだろう?…まあいいや」


もらったお菓子の箱を開け、チョコレートがコーティングされたお菓子を口に運ぶ。


ポリポリ


何だか昔を思い出す。

小さい時も、私が泣いたりした時、シース君がよくお菓子を持って来てくれたっけ…


私、シース君のいないとこで、いっぱい泣いちゃったな。今までシース君ばかりに甘えてたけど、しっかりしなきゃな。


「ふふ」


こんな事考えたら普通、また涙が出るかと思っていたけど、お菓子を食べてると不思議と平気だった。

そんな子供っぽい私が、少し、可笑しかった。


お菓子をたべながら箱を拾う。


「あれ?」


よく見ると、裏に下手くそな字で何か書いてある。

「…大丈…夫、少…し…待ってろ…かな?」


何だかよくわからないが、優しい誰かが気を使ってくれたのだろう。少し元気がでた私は、布団から出て、カーテンを開ける。同時に、後ろの保健室のドアが開いた。


「あれホリィ?もう起きて大丈夫かよ?」


シェリルだ。シース君にあいつは口が悪いだけで意外と良いやつだと、あの時の言い合いの後言われたけど、今やっと少しだけわかった気がする。


「うん、心配かけてごめん。私は大丈夫だから…え?」


振り向いた私は、シェリルの格好に驚いた。


「シェリル、制服は?」


学校だというのに、シェリルはGパンに黒いシャツ、黒いジャケットを着ている。手袋もしており、明らかに手の甲から指の第二関節まで、何か固そうなものが入っているのがわかる。


「男どもは頼りないから、あたしがいつでも戦えるような格好にしてんのさ。安心しな!探し出して絶対詫び入れさせてやるから。」


言いながらシャドーボクシングを始めるシェリル。


「危ないよ…」


私が心配そうに言うと、シェリルは動きを止め、こちらを向いた。


「じゃあどうすんのさ。このまま何もせずに待ってろっていうの?それこそ危険だと思うけどね。それに……聞いたよ。あんたが今1番危険の可能性が高いって。だから暫くあたしがあんたのボディーガードをやるから。シースの代わりに。」


「シース君の、代わりに…?」


シェリルは確かに強いって聞いてる。その辺の大人の男の人なんて相手にならないくらい。でもそれはシース君も一緒だ。そのシース君が簡単にやられてしまった。このままだと、今度はシェリルが…?次は?その次は?


いずれ導き出すであろう決意を、今、覚悟してしまった。

シャンも、ガンマ君も、シェリルも、皆傷付かない方法を私は思いついた。そして、全部終わったら、謝ろう。許してはくれないと思うけど。


「シェリル、わかった、協力する。話し合いたいから先に教室に戻っててくれる?すぐ行くから。」


「ん、わかった。じゃあすぐ来いよ。使えそうなやつ集めとくから。」


シェリルが保健室を後にしたのを見計らい、私は少し待ってからそのままダッシュで教室とは逆方向へ走る。

「あ?おい!」


しまった。シェリルがまだ見えるところにいた。でも私はそのまま振り向かず走り抜ける。


「待てよ!どこ行くんだよ!」


シェリルが追ってくるが御構い無しだ。学校の外に出て、図書館の方角へ向かう。

シェリルは携帯で誰かに電話しながら走っているが角を曲がりながら逃げる私をやっと見失ってくれた。


「…はぁ、はぁ、はぁ、着いた。」


シース君が殺されていた場所。あの日私がシース君のサイフを確認しておけばこんなことにはならなかった。後悔の気持ちもあるが、今の私はそれよりも、怒りと決意に満ちている。


「出て来なさいよ!ジョウ!」


私は柄にもなく声を張り上げ、辺りを見渡した。

静まり返る路地裏…少しして、妙な気配に気付く。後ろだ。

振り向いた瞬間、いた。でもそれはもはやジョウ君とは呼べぬ別物だった。


全身が赤く、体の殆どが固そうな甲羅に覆われ、唯一残ったジョウ君の顔半分も、白目をむいて笑っている。

「ホリィ…ホリィ…見つけた…俺の、俺だけのホリィ…」


話せるんだ。だったら言いたいこと全部言ってやる!


「ふざけないで!私の大切な人をこれ以上傷つけさせるもんですか!私を殺すなり、犯すなり、好きにすればいいじゃない!だから私で終わりにしなさいよ!でもそんなんで私を手にいれれるなんて思わない事ね!あんたなんか大っ嫌いよバカ!!」


ジョウ君だったものの顔が歪み、明らかに怒っているのが見てとれた。足が震える。涙が出てくる。怖い。

でも関係ない。私はの覚悟は変わらない。


「ほら、何してんのよ?怖いの?!それともここで脱いだ方が興奮する?!」


「ギギ…好き…だ…ホリィ…シース…倒した」


今更何を言ってるんだろう。自己満足の塊に、私の怒りは頂点に達した。






「さっさと殺せよ!このくされザリガニが!!」







シェリルの真似、できたかな…?


ガァああああ!!」


それは私の首を掴み、壁に叩きつける。私の後頭部から温かいものが流れたのがわかった。

ぼんやりとした景色で、路地裏の角から知ってる顔が走ってきた。

もういいから、早く逃げてよね…

薄れゆく意識の中で、シェリルやガンマ君、シャンにごめんねと呟き、シャンなんかずっと泣くのかなとか、申し訳ない気持ちで一杯になり、シース君の…





いや…それ以上、考えるのをよそう…。



次回からまた、語り部の変更を行います。

次はより短い予定です。

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