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30代から始める自殺メソッド

作者: 文豪たかし

「天津飯とチャーシュー麺と餃子、唐揚げ単品で」

最後の晩餐だ。

高級フレンチとかも考えたが、オレが心から食いたいのは大衆的な中華だった。酒は飲めない。

「あっ、コーラも追加で。ジョッキにできます?」


※   ※   ※


「流石に食い過ぎたな」

最後の晩餐の後、街を歩く。夜9時を回っているのに人通りは多い。

「まぁでも太ったところで数時間後には死んでる訳だし」

メタボな腹。自殺して見つかればこんな腹を晒すことになるのか。

最近のオレは確実に死ねて死体も見つからない自殺方法を模索していた。


※   ※   ※


電車で市街地から移動して、田舎の駅で降りる。

しばらく歩くと田園と遠くに数軒の民家が見えるだけになった。

「ここらへんなら人に見つかることもないか」

街灯もない。だが、月明かりで十分歩ける。虫の鳴き声がうるさかった。

そして山道へ入る。ぜぇぜぇと息が上がる。


※   ※   ※


どれくらい歩いたか。汗が吹き出す。

「なんでたかが自殺するのにこんな苦労しねえといけねえんだよ」

本当はもっと山の奥の奥へと行きたかったが、もう体力の限界のようだ。

オレは山の斜面に寝そべり、時間が来るのを待った。


※   ※   ※


時間が来た。ラジオから聴き慣れた音楽が流れ始める。

「よかった。こんな山奥でも一応聴けるな」

俺が高校生の時からずっと聴いてるラジオ番組だ。

オレはパーソナリティーの女性の大ファンだ。

今年の頭にサイン会で会ったのが最後だな。楽しかったな。あのサイン部屋に置いてきちゃったよ。


※   ※   ※


夜空の下で聴くラジオはいつもどおり楽しく、いつもどおりに1時間で終わった。

「楽しい時間はあっという間だな」

さてと、


※   ※   ※


病院で最近眠れないと言って貰った導入剤。軽いやつを7日分しかもらえなかった。

それを全部水で流し込む。

2メートルほどの崖になっている場所があったので、その上の木にロープを結ぶ。

オレは首にロープをかけた。膝を曲げて体重をかければ首を吊れる。意識がぼんやりとしてきた。

部屋は片付けて来た。パソコンはデータを消した。遺書は書いていない。携帯は持っていない。

試しに足を曲げてみた。首が締まり一瞬で意識が飛びそうになり。慌てて周りの木の根を掴んで立ち上がった。

危うくリハーサルで死ぬとこだった。でも、驚いた。首を締めるとあっと言う間に意識が飛びそうになる。

これなら苦しむ間もなく死んでしまえそうだ。


※   ※   ※


気が付くと、オレは木の葉の中に埋もれていた。

目の前には中華の吐瀉物。失敗したのか。首に痛みがある。ロープは抜けていた。

周りが少し明るくなり始めていた。上を見ると、オレの死刑台はまだあった。

オレはなんとか立ち上がり。ロープにしがみつく。首にかける。

結びを調整する。今度こそ抜けないように。

「じゃあ、今度こそ、さようなら世界」

そこから先は記憶がない。


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