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第六話

 最初に振るステータスはある種固定されていると言っても過言ではない。

 例えばメインウェポンを短機関銃としよう。

 その場合、筋力値を抑えて敏捷値を最大に、集弾性能を上げるため精神値を、最前線を張るために体力値を少々。こういった具合にある程度は決められている事が多い。

 もちろんそれ以外に振る人もいるし、中には奇をてらったステータス振りをしているプレイヤーもいる。だが、それにはリスクが伴う事もしばしばだ。

 一般的なプレイヤーはある程度自分の使う火器によって、ステータスが変わってくるというものの、オールラウンダーなんてプレイヤーは存在しない。


 またソレに合わせてスキル構成も変わってくる。

 取得できるスキルは3つ。

 うち1つはメインウェポンのスキルを取るとして、他に有用性が高いのは『ファーストエイド』『危機感知』だ。

 HoBにおいてHPは100~110の固定HPになっている為、時間経過で回復といったシステムにはなっていない。その際『ファーストエイド』は一度だけ体力の3割を回復できるという優れもの。自分だけでなく他プレイヤーにも使えるのでチーム戦では重宝されている。


 『危機感知』は云わば第六感だ。相手の初弾が放たれる際、アラートが鳴る。対人戦では必須スキルと呼ばれるこのスキルは、主にスナイパー対策がメインになるだろう。まぁ避けれるかどうかは自分の反応次第だが……。遭遇戦では遮蔽物抜きでの交戦も多々ある、そういった場合では『危機感知』を持っていてもほぼ意味を成さない。Do or Die、やるかやられるか、だ。


 他にも有用なものはあるものの、所持できるスキルが3つである以上、選択肢は限られてくる。クラン等に所属しているプレイヤーはその役割ごとによってスキルを振っている。


                             HoBwikiより引用。

――――





「それで、結局スナイパーになるんです?」

「ああ、なんだかんだ総合してそれが一番いいかなと思って」


 盗賊クランとの一戦後、金策の為ディーネとクエストを回しながら魔天廊を回り始め早1週間がたった。

 ディーネはその間、ナイフを見せびらかしたりナイフの良さをペラペラと喋ったりと随分と楽しそうである。

 俺はというと、ビームライフルはこの1週間でだいぶマシにはなってきていた。……が、拳銃や実銃に関してはてんでダメ。せっかく手に入れたブレイザーに至っては持てないという貧弱っぷりで始まる前からダメ状態。拳銃は止まっている的なら当たるものの、動いている敵なんかにはあたりもしない。


 そんなこともあって、俺はステータスとスキルを見直すことにした。

 まずステータスを振り直し、筋力最大値、精神最大値、残りを敏捷へ。これにより、最初に持った時重く感じたブレイザーがしっくり来る具合になった。精神値は数値が高いほど命中補正がかかるので、あった方がいい。正直、幾ら体力値を上げてもスナイパーをやってるんだったら接近されたら終わりだ。残り5ポイントを敏捷に振って移動速度を上げた方が何倍もいい。



「スキルは『狙撃銃』『危機感知』『ファーストエイド』……無難ですね」

「うるせぇ、これが一番だと思っただけだ。ナイファーのお前がとやかく言えんだろ」

「まぁそうですけども、それで行っちゃいます? マネーインバトル」




 ……そう。

 俺は初日にマネーインバトルをやって以来、まだ一度足りともやっていない。理由は様々だが、強いて上げるとすれば俺の下手さを痛感した事だろう。

 毎日のように練習場で射っているが、どうしても動いてる的に当たらないのだ。




「……いや、その前に会う奴がいる」


「会う奴、です?」




 ウィキ先生は本当にありがたいが、実際問題やっている所が分からず、ただ文字で説明されても難しいものだ。

 そこで、俺は奴を頼ることにする。


 俺はコンソールを開きフレンドリストの1番上に載っている名前を確認する。ログインはしているな。

 コールをすると、1秒絶たずしてすぐに繋がった。




『……やっと、ってことかしら?』

「まぁそれもあるんだけどさ。……お前コール出るの早すぎないか?」

『う、うっさいわね! 別に待ってなんか無かったわよ!!』

「あ、そう。じゃあそっち飛ぶから」

『フン、早く来なさいよね』


 コチラの返答を待たずしてコールが切れる。なに怒ってんだ、あいつ。


「誰にコールしてたんです?」

「ああ、俺のフレンド。今から飛ぶから、ディーネは着いてこいよ」


 名前の横にある『ジャンプ』と書かれたボタンをタップする。

『ジャンプ』というのは対象であるプレイヤーのすぐ近くへ移動できる機能だ。都市フィールド内でのみ有効で、郊外等では機能しない。

 戦闘中なんかも使えないので、都市フィールド内での待ち合わせに使うくらいのものだ。

 

――――



「っと、久しぶりだな紅。……ここどこだ?」


 ジャンプした先は、一言で言うと女の子の部屋。可愛らしいぬいぐるみがあったり、全身鏡があったり、何故かベッドまである。紅は椅子に腰を掛けて紅茶を飲んでいた。


「えっ、コウってもしかして……」


 ぶつぶつとなにか呟くディーネ。もしかして知り合いだったのか?



「私の部屋よ。カジュアルルームって言った方がいいかしら」

「ああ、なるほどな。なんつーか、可愛らしい部屋ですね」

「うっさいわね! ……それで、そいつだれ?」


カジュアルルームというのはプレイヤー個人の部屋だ。

 基本的にはこういうプライベートなものから、イベント用、練習用なんかと好きにカスタマイズできる。


 紅は元からキツイツリ目を、さらに狐の様に細めてディーネを射抜く。

 一瞬ディーネはビクッとしたものの、咳払いをして自己紹介を始めた。


「あ、ディーネといいますです。ハルトさんとはよくパーティを……って! ハルトさん、まさか私という女がいながらほ、他に女を……っ! それに、フレンドって、てっきり私以外にフレンドがいないものと思っていたのに!!」

「いや、別にお前に話すことでもないだろ」


 何故か怒るディーネ。やはりボッチとしてのコミュ障が響いているのだろうか。


「いいえ。なんで寄りにもよってバインで高身長の女なんかと……っ! 私は認めませんですからね!」

「ば、バインっておま……。紅、コイツはディーネ。ナイファーだけど、根はいいやつだから許せ」


 けしからん単語はさておき、俺が改めてディーネの自己紹介を済ませる。

 こんな事でいちいち紅に癇癪を起こされてはたまらない。


「そう、分かったわ。よろしく、ディーネさん。コイツの初めてのフレンドの紅よ」


 ……なーんでコイツは張り合って初めてを強調してんだ。ほら、ディーネが怒るぞ。

 肩を震わせ頬をふくらませるディーネ。なんでこう、トラブルが起こるんだ。


「よろしくです紅さん。改めて、ハルトさんと仲良くパーティを組ませてもらっているディーネ、で! す!」

「いやなんで言い直すんだよ。……とりあえず、本題に入ってもいいか?」


 いがみ合う2人をなだめ、一先ず本題へと移ろう。




「――まぁありがちよね。始めたてなら誰もがぶつかる壁よ」

「そこでだ、マネーインバトルに行く前にちょっとばかりお前に指導してもらおうかと思ってな。どうも、動いてる的に当てるのが下手なんだよ」


 ここ最近の現状を紅に話し、打開策を打ち出してもらう。


 幾ら当たれば死ぬスナイパーライフルといえど、動いている敵にすら当たらなければどうしようもない。マネーインバトルに出たら最前線から詰めてくるアタッカーや、俺と同様にスナイパーライフルを掲げているプレイヤーもいる。


 その中でいかに殺されず、前線を抑えながら敵のスナイパーを屠れるか。それが鍵になってくる。


「ふぅん、別にここ最近遊んでいただけってワケじゃないのね。いいわ、教えてあげる。ただし、結構荒っぽいわよ?」

「大歓迎だ。一刻でも早く、マネーインバトルで稼ぎたいからな」

「じゃあまず、メインウェポンをここに置いて行きなさい。あと、手持ちのクレジットも60万クレジットを残してここに置いてくわよ」

「なんでだ?」


 紅は椅子を鳴らしながら立ち上がると、部屋の奥から箱を持ってくて俺に差し出す。


「これは金庫みたいなもの、プレイヤーは皆ATMって呼んでるわ。カジュアルルームにのみ置けるオブジェクトで、クレジットや貴重品をここに入れておくのよ。マネーインバトルでプレイヤーカードにクレジットを入れていたら、キルされる度に所持クレジットが減る。だから大抵のプレイヤーはカジュアルルームを作ってクレジットをここで保管しているの。同様に、クエスト中使えない実銃なんかもね」

「……なるほどな。あい分かった」


 ATMを操作してブレイザーと所持クレジットをプレイヤーカードから移す。クエスト回しと、先日の盗賊クランの不要な装備を売却したお陰で100万ちょっと持っていた俺は半分くらいをATMへと入れた。


 よく考えれば俺はこの都市部を除いた無法地帯で、財布に10万入れたまんま歩いているようなものだったのか。そりゃ、管理ぐらいするか。


「アンタも、なるべくカジュアルルームは作ったほうがいいわよ」

「……カジュアルルームとかっておいくら万クレジット?」

「相場は大きさによるけど、私の部屋位なら500万クレジットね」

「……考えとくわ」

「そ。それじゃ、行くわよ。着いてきなさい」


「……なんか2人だけの空間を作っていて、私が入りにくいです」


 いやだって、お前ナイファーじゃん。銃のこと聞こうにもナイフの説明し始めるじゃん。




◆◇◆◇


 やって来たのはまたしても武器屋。てっきり郊外にでも行くのかと思ったが、何か買ってから行くのだろうか。


「アンタ、メインウェポンは手に入れたみたいだけど拳銃は初期装備のままじゃない。これから拳銃の練習するのに、そんなチャチな銃じゃままならないわよ」


 目で問いかけるとどうやら俺の拳銃を買いにきたようだった。

 なお、さっきまでむくれていたディーネは一目散にナイフのウィンドウへと走っていった。


「そういや、あんまりサブウェポンには気を使ってなかったな。なんかオススメがあるのか?」

「……そうね、スナイパーやるってんなら、スナイパーライフルで射った瀕死の敵の対処、それと近距離でもなるべく相手取れるサブウェポンとなると、――これかしらね」


 紅は足を止め、1丁の拳銃の前で足を止める。

 俺が今まで見てきた拳銃の形状とは異なり、トリガーガードの前にライトが着いており見た目がかなりゴツいハンドガンだった。


SOCOMソーコム、装弾数12発でカスタムが豊富。デメリットとして重量が結構ある所が問題ね、まぁアンタなら持てるしいいんじゃないかしら。反動軽減装置が付いているから打ちやすいし、45口径弾を使用していてハンドガンの中ではダメージがべらぼうに高いから急な遭遇戦でも使える汎用性が魅力ね」


 ……カッコいい。

 無骨な感じのハンドガンも魅力的だが、こうゴツいシルエットもいいな。

 このソーコムを持って颯爽と駆けまわる俺、……イカスな。おっと唾液が。




「これにしよう、カッコい……性能もいいみたいだしな!」

「……まぁアンタが気に入ったならいいけれど」


 見透かしたような冷徹なまでの眼差しを向ける紅。ディーネも同調して頷いていた。


「カッコいいは正義だ、見た目にこだわって何が悪い。というかそこのスク水きてるバカ、お前も頷くな」

「なっ! 私はバカではないです、それにスク水は私のポリシーなのですよ!!」


 まぁいい、バカはほっとこう。

 ソーコムを購入し、残金10万クレジット。まぁそのうち買わなきゃいけないものだ、今のうちに慣らしておいても損はないだろう。


「あと、大きいからショルダーホルスターと弾薬とスペアマガジンを3個……それくらいかしら。買ったら行くわよ」


 弾薬は消耗品のため、無くなれば新しく買わなければいけない。レアドロ武器の弾薬も武器屋で購入が可能だが、その弾薬代もバカにならない。練習場は無性で貸出なので問題ないが、クエスト等で工面してする事で成り立っている。


◆◇◆◇


「邪魔するわよ」


 購入を終え紅についていくと、恐らくカジュアルルームであろう暗がりの部屋へと辿り着いた。

 カジュアルルームの入り口には箱があり、表面には『1プレイ1000クレジット』と書いてあった。


「最初の場代だけ、私が払ってあげるわ」


 紅が箱にプレイヤーカードをかざすと、『ありがとうございます』と箱の表示が変わり、次第に暗かった部屋がその全体を現す。まるで廃坑した西部劇風の部屋、風に吹かれ砂が巻き上がり、一層閑散とした部屋が広がっていた。


「3人プレイモードだから、ゾンビの数は結構多いわよ。まずはイージーからクリアしていきなさい。私とディーネさんはどっか行ってるから、1人でね」

「…………は?」


 いきなり後ろから蹴り飛ばされ、俺は倒れた。振り向くと既に、ディーネと紅はおらず、俺1人この空間に居た。


『グゥル、ルゥ……』


 いや、俺以外にもいるみたいだ。ただし、人間ではないが。


「ハッ、こりゃ確かに荒っぽいわ」


 ホルスターからソーコムを取り出しゾンビを狙う。

 ゾンビの動きはかなり遅く、俺でも当てられるレベルだ。ゆったりと歩いてくるゾンビの眉間に1発。


「……使いやすいな」




 今まで使っていたハンドガンに比べ、トリガーが重たいから連射するのに慣れが必要だが、ソレを抜きにしても1発の反動が少なく感じる。

 なんといえばいいか、しっくり来る感じだ。

 ステータスを振りなおしてからは初期装備のハンドガンでは軽く感じていた。幾らゲームといえど、ズシッと来る感じのほうが俺は合っているかもしれん。


「あれ、なんか敵多くないか?」


 ぞろぞろとやってくるゾンビ、そりゃそうか。パンデミックものは大抵、大勢のゾンビに追われながら逃げるシーンがあるくらいだ。


「……一先ず、戦略的撤退だっ!」


 ゾンビを連れて俺は走りだす。これはまた、いい練習になりそうだ。

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