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第三話

 壁に囲まれた都市フィールドを出ると、荒廃した土地が広がっていた。

 郊外フィールドにあるのは、ただただ広大な土地と魔天廊と呼ばれる塔だけだ。

 

 紅と別れた俺は一度ログアウトして食事をとり、その際にHoBのウィキも確認してきた。

 紅とウィキのおかげで、少しはマトモになっただろう。

 魔天廊についても少し調べたところ、郊外フィールドに13塔存在し、それぞれの塔によって出現する魔獣が異なるため受けるクエストによって行く魔天廊は様々だ。


 今回俺は難易度が低い魔獣の討伐系クエストを受けた。

 クエストは基本○○を何体討伐とか、その魔獣のドロップするクエストアイテムを納品といった至ってシンプルなものばかりだ。初めてということもあり、俺は欲をかかず簡単そうなクエストを受注しておいた。


 俺は最上層が雲に覆われて見えない魔天廊の前まで来て、一度深呼吸をする。


 装備はさっき買ったイーガン1丁と拳銃が1丁。

 ……まぁなんとかなるだろう。魔獣との戦闘なんぞやったことないが、近づかれる前に殺ればいいだけだ。先の殲滅戦じゃないんだから、犬畜生のAIなんぞたかが知れているはず。

 念のため一度イーガンの試射を武器屋でやってきた。

 実銃と違い、ほとんど撃った時の反動がなく初心者の俺でもちゃんと的に当てれるくらいだった。コストも余りかからないため、しばらくは重宝することになるだろう。


「よし、行くか」


 俺は意気揚々と魔天廊の扉を開く。重音とともに扉が開くと、中は灰色一色になっていた。

 魔天廊はそれぞれ50層まであり、階層ごとに構造、トラップや出現魔獣が異なってくる。

 俺が今回討伐するのは3層にいるファングネルという魔獣で、人と同じくらいの大きさの犬らしい。実際に見たことがあるわけじゃないので、強さもわからないが難易度が低いクエストなんだ。ちゃちゃっとクリアしてしまおう。


 周囲を警戒しながらゆっくりと歩く。まずはどこかにある階段を探さないといけない。


「たぁぁあああっ!」


 歩いて間もなく、少し遠くから掛け声と重たい何かが倒れる音がした。少なくとも人間が倒れた時にする音ではない、おそらく大型の魔獣だろう。

 少し気になった俺は音の方へと走っていく。正直、見たこともない魔獣と戦うのに緊張していた手前、誰か他のプレイヤーが居るならご教授願おうと思っていたのだ。


 また魔獣が倒れる音がした。

 ……だがおかしい、銃声が全くしない。

 ビールライフルの音はとにかく大きい、掛け声が聞こえる距離で銃声が聞こえないなんてことはまずありえないはずだ。


 現場についた俺は、開いた口が塞がらなかった。

 そこには何十体といる魔獣と、戯れる様に周りを駆け巡る満面の笑みを浮かべた少女がいた。


 ――スク水を着て、ナイフを片手に笑う少女が。




「――『バックスタブ』!」


 少女は一瞬にして魔獣の背後を取り、首めがけ右手に持ったナイフを全身の回転を加え走らせた。

 それと同時に白髪のツインテールが揺らめき宙で踊る。小学生並の身長で一回り以上大きい魔獣を屠るその姿に、俺は未だに口が開いたままだった。

 

 お、おちつこう。多分見間違いだ、いやきっとそうに違いない。


 俺はまぶたを閉じて再度深呼吸をする。


 そうだ、よく考えてみろ。このゲームはシューティングゲーム、銃を使って戦うゲームだ。そのゲーム性を考えればナイフを使うなんて愚の骨頂。

 それに加えスク水なんて着ているわけないじゃないか。確かに今まで見たプレイヤーは軍服とかウェスタンコートとか、割と小洒落た服を着ているプレイヤーがいた。だがそれでもスク水はありえないだろ、ハハ。

 ほぉら、目を開ければそこには軍服を着たイカツイおじさんが――。


「『エビセレイト』!」


 やっぱいるよ!

 スク水着てナイフ持ってる女がいるよ! 叫びながらモンスターをバッタバッタなぎ倒してるよ!


「ん? ナイフ?」


 そういえば紅が武器屋で言っていた。

 使い勝手の悪いナイフを好んで使うプレイヤー達がいると。

 ウィキにも要注意プレイヤーとして、その総称がデカデカと書いてあった。


「確か、『ナイファー』……だったか?」

「はい、呼んだです?」

「どぉわあ! お、おま、いつの間にっ!?」


 先程まで戦っていたはずの少女が俺の前に立っていて、慌てた俺は思わず尻餅をついた。

 奥を見やると少女は全ての魔獣を片付けたようで、この空間には俺と少女のみが立っていた。


 ……やばい、変な奴に目をつけられたかもしれない。


 少女は俺を見てハッとし、すかさず声をかけてくる。


「も、もしかして初心者さんです?」

「え、ああ。まぁ初心者だな」

「よかったらパーティを組んで欲しいです! です!」

「あ、すいません今から塾があるんで」


 俺は即答してすぐさま来た道を戻ろうとする。

 すると尋常じゃない力で腕を握られ、わずかな痛みとともに俺は動けなくなった。


 この世界において力――筋力はステータスに依存する。

 ステータスのパラメータは筋力、敏捷、精神、体力、運の5種類存在する。

 合計で25ポイントを割り振れ、1種類最大10ポイントまで割り振れる。俺は何もわからずすべてに5ずつ振っていた為、この少女の筋力が俺よりも上の場合は例えこんな少女でも大の大人を静止させられるということだ。


「嘘です、ならなんで魔天廊に来たんです?」

「痛い、痛いから。とりあえず手を離せ」


 少女は渋々俺から手を離す。

 それと同時に、俺は一目散に逃げた。


 だってそうだろう!? あんな奴とか変わったって百害あって一利なし、逃げるが勝ちだ!

 魔天廊の入り口までやってきた俺は重厚な扉を開けようと試みる。だがさっきはあんなに容易く開いたはずの扉はビクともしない。


「無駄です。魔天廊に入ったら5層毎にあるポイント以外では出られないです」

「ぬぅおあ! ま、またいつの間に!?」


 こいつ、まさか敏捷も上げてるのか?

 いやそれはいい、この際捨て置け。

 出られないって、つまりなんだ。俺は3層のファングネルを狩った後5層に行かないと出られないのか? その間、こいつもいることになるじゃないか。


「ですから、私とパーティを組んで欲しいです。初心者なのであれば私と組んだほうが安全なのですよ!」


 金色の三白眼を揺らしながら熱弁する少女。頭の上に立つアホ毛がピンと張り、どれだけパーティを組みたいかが丸わかりだった。

 そんな少女を見て俺はため息をつき、頭を掻いた。

 こんなことなら中央区でパーティ募集をかければよかったと思いながら、この少女を如何に引き剥がすか思考を巡らし、俺は口を開いた。


「あのな、お前ナイファーなんだろ?」

「如何にも! 生粋のナイファー、スク水戦士ディーネとは私のことです!」

「あいや、決めポーズとかいらんから」

「そんなご無体なぁ。ねぇ、どうです? 我ながら優良物件だと思いますですよ?」

「断る」


 ナイファーが役に立つかどうかもわからん。それなら1人でもなんとか11層へ行くしかないだろう。

 俺は2層へと続く階段を探すため、再び1層の探索を始めようとした。


「……おい、なぜ羽交い締めにする」

「待ってくださいです、お願いですよぉ。1層はまだ1人でなんとかなるです、けど2層以上じゃ1人では厳しいのですよぉ。私経験者ですから、1人より2人のほうがお得ですし、多少知識を持っている私は役に立ちますですよぉ!」


 後ろから羽交い締めにされ身動きが取れなくなった俺。

 耳元でがなり立てるスク水戦士の声が耳障りで、思わず俺も声を荒げた。


「あのな! 俺は戦力面で役に立つ奴がいいの! ナイファーじゃ邪魔になるだけだろうが!!」

「そこを、そこをなんとか! 何でもしますです、私も10層に行かねばならないのですよ! だからお願いですー!!」


 お願いですー、お願いですー。と羽交い締めにしながらお経のように俺の耳元でつぶやくスク水戦士。終いには半泣きになりながらも懇願してきた。筋力によって無理やり引っぺがすこともできない俺は、やむを得ずパーティを承諾してしまうことに。


「わかった、わかったから、とりあえず離れろ!」

「え? ほ、ホントです? マジ……なんです?」

「ただし5層までだ、俺は3層の魔獣に用があるからな」

「わーい! やったですぅ、初パーティですぅ!! えへへへ」


 感情表現でもするかのように揺れるツインテールに、俺は呆れ半ばで開放された肩を回した。


「……んで、パーティってどうやって組むんだ?」

「あ、そうでした。申請送りますです」


 スク水戦士がコンソールを操作すると、俺の視界にウィンドウがポップアップしてきた。


『【スク水戦士ディーネ】様からパーティ申請が届いております、承諾しますか?』


 ……スク水戦士って、二つ名とかじゃなくてプレイヤーネームなんだな。


「改めまして、ディーネです。よろしくです、ナイトハルトさん!」



16/7/13 22:25 誤字脱字修正

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