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第一話

 硝煙香る戦場、小気味よいリズムで鳴る銃声。

 己の能力が唯一の武器であり、実力だけがモノを言うこの世界で掴みとれ。

Hailヘイル ofオブ Bulletsバレッツ』――弾丸舞う戦場で、君を待つ――。


 え? なんの話かって?

 そりゃお前、ゲームの話だよ。


 就職に失敗した俺、岸田きしだ遥斗はるとは現在絶賛自宅警備中だった。

 ボケーっとなんの意味もなく点けていたテレビを見やると、そこで映っていたのがVRゲーム、HoBの特集番組。

 なんでも今小学生の将来なりたい職業ランキング一位ってのがプロゲーマーという職種らしく、文字通りゲームをやって金を稼ぐ連中のことらしい。


 そんな中で最も熱いと言われているのが『Hail of Bullets』通称HoBホブだ。

 戦場を駆け回り色々な銃を持って敵を撃ち抜く、世界で一番遊ばれているVRMMO。大会賞金額は総額で5億。中には年収1千万を超えるプレイヤーもいる。


 まるで夢物語のようだ。

 そうだな。ゲームで遊んでいるだけで金が稼げるというなら、俺みたいに就職に失敗して2年間で10回も転職する奴は早々いないだろう。

 ましてや無職になり貯金も尽きかけて来月の生活が危うい奴、はは、いるわけ……なかったらよかったんだがな。


 俺は途端に現実を直視して銀行通帳を開いた。

 そこに載っている額は21歳――大の大人では考えられない、はっきり言って子供のお年玉かと鼻で笑われる額だった。思わずため息をつく。

 なぜこんなことになったか。

 それは多分、俺自身が不甲斐なかったせいだろう。


 家が嫌で仕方なく高校を卒業して家を出た俺を待っていたのは辛い現実だ。

 大した能力もないくせに顎を使うのだけは一流な上司、ろくに仕事もしないくせに高給取りのハゲ、上にはヘコヘコするくせに下にはゴミでも見るような視線を浴びせるハゲ、あとマルハゲとバーコードハゲ。

 結局は社会に出るにはまだ俺は幼すぎて、耐え切れずに逃げた結果が今の有様だということだ。


 一人暮らしなんてのはろくに貯金も貯まりやしない。

 生活費は一緒でも得られる収入はまちまちだ。法外な時間の残業で得たあぶく銭もそろそろ限界だった。


 そんな哀れなニートの前にこんな美味い、可能性のある話が舞い込んできたとしよう。


 なんとその職業は実力さえあればキャリアすらいらない。自分の力だけで金を手に入られる。もうこの言葉だけで飛びついてしまいそうだ、それだけの魔力をこの番組から感じ取っていた。

 そしてこれまた上手いことに、俺の通帳の中にはそのゲーム機器を買うギリギリの金があってしまった。

 不思議だ、通販ショッピングの番組くらい不思議だ。


 お金の魔力に取り憑かれた俺は、あっさりと自宅警備員を辞めショップへと急いだ。


◆◇◆◇


 プロゲーマーになる方法は二種類ある。

 一つは学校に通うこと。

 ここで言う学校というのはプロゲーマーを育成する専門学校の事で、普通の教育課程とは異なっている。実際のプロゲーマーが講師を勤め、プロゲーマーのなんたるかを叩き込んでくれるらしい。

 プロゲーマーといっても仕事はゲームだけでなく、講師しかりゲームの宣伝なんかもする。昔は抵抗があったようだが、今ではどの国もプロゲーマーという仕事が盛んで世界大会なんかはオリンピックの様な賑わいを見せている。その大会選手はもちろんのこと、ゲーム実況の仕事も斡旋されるとか。


 もう一つはシンプルにゲームで活躍すること。

 ゲームで開かれる大会などで優勝すれば、それだけでスポンサーの目に留まる。所謂スカウトと同様だ。

 スポンサーが付き様々な大会で活躍したりすると、イベントの契約といった広告塔になれ、月給を得られるという寸法だ。


 俺が目指すのは後者。

 ゲーム――HoBの大会で優勝しプロゲーマーになってウハウハな自分を夢見て、俺は平日の真昼間からどでかい買い物袋を提げ帰宅した。


『プレイヤー名を入力してください』


 早速起動するとアナウンスが聞こえ半透明のウィンドウが目の前に表示された。

 実家にいる頃勉強用VRを何度か使ったことがあるものの、久しぶりの感覚に戸惑いながら『ナイトハルト』と入力した。

 

 ふふん、かっこいいだろう。

 やはり自身の分体になるわけなんだから、ちょっとくらいはカッコいい名前にしたいものだ。これから一生世話になる名前がヘンテコネームでは台無しだろう。

 その後キャラクターデザインで髪型を変え、ステータスやスキルを選んだ。

 ステータスやスキルは専門用語が多く、正直訳が分からんので適当にした。一度だけ変更が可能らしいのでまた調べればいいだろう。

 そしてチュートリアルで動作を確認し、ついに俺はHoBの世界に降り立った。



「おおぉ……」


 目の前に広がる景色に俺は思わず感嘆の声を上げた。

 鉄臭い匂いが漂う灰色がかった空に高くそびえるハイテクそうなビル、大通りを走る車は少し地面から浮いて緑色のネオンを発していた。

 人混みを覗けばチラホラとロボットの姿まで見える。たまに通りかかる頭上に白い点が付いている人はおそらくNPCノンプレイヤーキャラクターではなくプレイヤーだろう。


 近未来をイメージしたこの都市がHoBの世界の中心点――都市フィールド中央区。

 ジャンルによって区分けがされており、この中央区はとりわけ行政事務関係が多くあるらしい。

 他区の事もチュートリアルで聞いたが、正直チュートリアルで味わった初めての銃撃戦に心を奪われてしまい覚えきれなかった。


 まぁ、そのうち覚えればいいか。困ったらウィキ○ディア先生の出番だ。


「っと、忘れる前に装備しないとな」


 チュートリアルのクリア報酬という事で装備品とゲーム内通貨――クレジットがもらえた事を思い出し、俺は慌ててコンソールを開いた。

 表示されたウィンドウからインベントリを選択すると、現在俺が所持している武器やアイテムが表示される。戦闘中はコンソールの操作(ログアウトやゲームメニュー等)が出来なくなるため、常に兵装は装備しておかなくてはならない。

 もっとも、都市フィールドでは戦闘行為はできないので心配ないが……。


 俺はそのままコンソールを操作しゲームモードを選択する。


「――マネーインバトル、これか」


 クレジットを賭けて五人対五人で戦うマネーインバトル。

 このゲームが世界で一番遊ばれている理由は、数あるVRMMOの中で唯一ゲーム内通貨を現金に還元できるのだ。

 例えばチュートリアルで貰った1万クレジット、これを現金に還元すると千円になる。


 ぶっちゃけ、プロゲーマーじゃなくても金は稼げるということ。

 その事実がゲームを開始してわずか1、2時間の俺を誘惑してきた。


 マネーインバトルは勝敗やキル(敵を倒す)数に応じて獲得できるクレジットが変動する。

 このモードは、エクスタ(殲滅戦)とブラスト(爆破戦)の二つに別れていて、初心者はなるべくエクスタのほうがいいよ。とチュートリアルで出会った女教官が言っていたのを思い出し、俺はエクスタを選んだ。

 エクスタは先に規定回数敵をキルしたチームが勝利になる。つまり、一試合で何度も勝負できるのだ。その分キル数を稼ぎやすい。


 一応クレジットを賭けないモードもあるが――それは俺の主義に反するだろう。


『マッチング中です、しばらくお待ち下さい』


 アナウンスと共に視界端に時間が表示される。


 ここが、第一歩。

 俺がプロゲーマーになる、最初の一歩だ。


『3、2、1……ゲームスタート』

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