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第五話  虎の思惑   

張繍の使者と相対した翌日。曹操は腹心の荀彧・郭嘉を私室に招じ、あらためて今後の対応を協議していた。

張繍の「標的」は概ね予想通りではあったが、ある意味では予想外だったからである。




「さて… 張繍の狙いは予想通り長安で間違い無いが、あくまで自力での確保を図っている様だ。それを踏まえてどう見る、文若?」

わしは二人の様子を見まわすと、まずは右手に佇み考え込む態の文若に問いかけた。


「…彼の者の戦力では、独力での長安攻略はまず無理でありましょう。しかしその手札を勘案しても、涼州連合を再結成するぐらいしか手は無いと思うのですが…」

「一朝一夕に出来る策ではないのに、未だその兆候は無い、か… 

奉孝はどうだ?」

即座にわしの問いに答えつつも、自分自身も納得していない態で僅かに首を振る文若。

わしは頷きを返すと、今度は左手で目を閉じて佇む奉孝に問いを向けた。


「…今一度、奴と袁紹の関係を洗い直しました。確かに以前確認した様に、両者に直接交流している痕跡はありません。ですが、今奴の幕下にいる田豊と、袁紹の監軍たる沮授には浅からぬ交友がありました。その線を使えば…」

わしの問いにゆっくりと目を開いた奉孝は、そう答えると、また目を閉じ思索に戻る。


「成程… 本初と連携の可能性は残る、か。ふむ…」

わしはもう一度頷くと、壁に掛かった地図へと目を向けた。

両名の考えは一理ある。しかし発言者自身が納得しておらぬ様に、やはり何処かしっくりはせぬ。

あれだけ周到に準備をして見せた奴の「仕上げの一手」が、時間も手間も掛かり成否も不分明な他力の策というのが、まず疑わしい。

そして、地図を見ながら思索に耽るわしに対し、奉孝が静かに問いかけて来た。


「して… 殿は如何お考えですかな?」

「さてな。案外、弘農に何か仕込んでいるやも知れぬな。張繍の最大の利は… 我らが弘農を経由する必要があるのに対し、宛から長安を直撃出来る事だ。

我が軍が弘農攻めに手間取る様な事があれば、『支援』とでも称して長安を先んじて急襲出来ようが…」

わしはそう奉孝に返しつつも、首をかしげる。

そう、やはり何処かしっくり来ない。

我らを出し抜く為の、あやつの「成算」が… どうもはっきりと見えてこぬのだ。

だが… 

わしはもう一度首を振ると、再び文若に向き直った。


「まあ、わしに同盟を『強要』する様な相手だ。一つの策に全てを掛ける様な可愛げはあるまいよ。

それに此度の件に関しては、あやつの手は読み切れずとも、封じる手ははっきりしておろう。文若?」

文若はわしの問いに頷くと、今度は力強く答えてくれる。


「濮陽での工作は順調です。少なくとも年内に呂布が、総力を挙げて出兵して来る事はありますまい。

予定通り7月には主力を動員しての弘農への進軍が可能です」

期待通りの返答だ。

ならば問題は無い。そう、地の利で一歩譲ろうとも、わしが圧倒的に有利な状況である事には、なんら変わりは無いのだ。

そう考えれば、相手の策が読み切れぬ事すら、喜びの一因ともなる。

わしは笑みを浮かべると、あらためて二人に向き直った。


「ならば良い。わしが先に長安を陥とせば、勝負は決まる。もう張繍に伸びる術は無い。

そうなればあやつらが生き残るには、これまで築いてきた『嘘』を真にするしか手はあるまい。

…楽しみな事よ」

そんなわしに対し、二人はやれやれといった苦笑を浮かべる。が、こればかりは仕方が無い。

長安は確かにわしが押さえるべき要衝だ。だが、わしらに読み切らせぬ策を練る者、長安より価値のあるやも知れぬ人材が手に入りそうなのだ。どうして喜びを抑えられよう。

ああ、愉しみだ!

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