初めの接触
とある寒い冬の日。
雪が降りしきる一月上旬、自宅にて。
「あ、飲みもん……」
一人暮らしの男の部屋、綺麗に整頓されたリビングの真ん中あたりにあるテレビではまだ少しお正月のバーゲンやら催し物やらのCMが流れており、バーゲン!と言う文字がでかでかと表示されていた。
篠山遥〈しのやまはるか〉
身長は約180センチくらいで体は陸上をしていたこともあり少し筋肉質の普通体型、髪は黒く短めで眼鏡をかけた大学に通う一般男子である。
性格は良く言えば明るい、悪く言えば大雑把と友達に良く言われていたりもする。
そして趣味はゲームやネットサーフィン、まあ走ったりするのも好きではあるのだが。
そんな俺は今冷蔵庫を開けて少し悩んでいた。
飲み物が無かったのだ。
実を言うと今からネットにインしてネットゲームをする予定だったのだが、昨日飲み切ったのを忘れており冷蔵庫には食材のみとなっていた。
「まじかよ……仕方ねーな……今のうちに買いに行っとくか。」
そう呟くとテキパキと支度を始めた。
今なら雪も止んでいるしさっと買って帰宅できるだろう、そう思ったからだ。
雪が吹雪いている中帰るなんて嫌すぎる、誰だって寒いのは苦手なのだ。
近くのコンビニエンスストアに行くだけだしと簡単な格好で身支度を整えると部屋の扉を開けて外に出た。
──んで俺はそのコンビニから帰る途中、自動車事故に巻き込まれて命を落とした。
そしてふと気がついたら、此処にいた。
割と高めだと思う自分の身長よりさらに倍ある白い大きな扉。
模様みたいな物が彫られているのか見た目は中世ヨーロッパみたいな造りである。
「これが俗に言う天国への入口ってやつか?」
ふとそんな思いを言葉にした直後に天からのアナウンス、よくテレビとかで良くある天の声みたいなやつが脳に直接に言葉が流れ込んでくる。
「篠山遥様。貴方は事故によりこちらへ一時的に来ていただきました、ですがあなたが死ぬのはもっとずっと先。つまり死亡予定日よりも早かったため、今回貴方には特別措置として転生というサービスを提供します。」
訳がわからなかったというのが一番だった。
というか先ず死亡予定日というものがあるという方が気になってしまっていた。
頭が付いていかない、いきなり死んでいきなり転生させますと言われてもピンと来ないのだが。
「──あ、いきなりでアレですよね。直接説明します。」
そう脳に直接聞こえていた声がふっと消えて、いきなり目の前に一人の女性というより女子と言った方が正しいのだろうか、背中に大きな羽の生えた身長150cm後半くらいで色素の薄い灰色の髪の毛を腰まで伸ばした……ロリっ子が現れた。
なんというかこれは……現実味を帯びていない。
羽が生えたまごう事なき美少女。
だがしかしロリっ子だ、俺はどちらかというならば年上系の人が好きではあるのだが。
「いやあ、すみません...えっと...篠山さんの担当をすることになったアイリスと言います。あなたの死亡予定日はお教えする事は出来ないのですがまだまだ先だったという事だけはお伝えします、こちら的にもなんの情報も来てなくて...」
とアイリスと名乗る身長が俺よりもかなり低いロリっ子が困ったような表情を見せつつ話し始めた。
よく小説とかアニメとかで天使と〇〇!とか転生したら異世界!とかそんな話を見たり、聞いたりしたことはあるがいざ自分がその立場に立たされてもピンと来ないというのが今の本音なんだが...。
「あのー...篠山さん聞いてますか?」
頭で考えていたらふと、話が右から左へ状態となっていたらしく聞いてますかという言葉と同時に俺の左右の頬に僅かにだか痛みを感じた。
ロリっ子が俺の頬を引っ張ったのだ。
「いひゃい、はひするんはよ」
と間抜けな声と共にロリっ子をじとーっと見る。
すると「篠山さんが悪いんですよ!話を聞かないし...あなたの事なのにそんなぽやーっとしてるから...すみませんでしたけど」
となんだかじとーっと俺が見たからかバツの悪そうな表情をしながら頬から手を離した。
「あー...なんか俺も悪かったし、うん。つか転生させてもらえるみたいだけどそれってどんな風に?俺は転生先とか選択させて貰えるのか?」
と聞いてみた。どうせだったら性別とか変わって女子とかになるとかいいかもな、なんというかライオンとか魚とかは嫌だ...
「えーっと..転生システムなんですが篠山さんの全体的な人生において、偉業とかを成し遂げるというデータはないので総理大臣になりたいとか世界の掌握出来る人物への転生は無理ですね、はい。選択式じゃないので申し訳ないのですが」
とどキッパリと言われた。なんか聞いてるとそれはそれで悲しいのだが。
「てなわけで、ここから一枚引いてもらえますか?」
とロリっ子天使ことアイリスがどこからか白い箱を取り出して俺の前に差し出した。
イメージ的にはよくくじ引きとかに使われるような大きさの箱で中身は外からは見えないし、箱の中を覗いて見ても暗くてよく見えない。
「これ、何?」
恐る恐る聞いてみた。
「転生決定箱です、中から1枚引いて書いてあるものがあなたの転生先になりますー!」
と俺の引きやすい位置まで箱を持って飛んでくれている。
「まさかのくじ引き式なのかよ!」
と思わず突っ込みを入れる。死ぬ予定じゃなかったのに転生先選択出来ないとか鬼か...にしても引くしかないわけで。
仕方ないのでゆっくり箱の中に手を突っ込んでみた。
なんかあったかい感じはするな...
「あ、因みにその中に私の上司の悪ふざけで自分が昨日買った乙女ゲームの攻略要員とか入ってるみたいなので慎重に引いてくださいね、その場合は転生というよりかはゲーム世界への転移みたいな感じになります☆」
アイリスは俗に言うテヘペロみたいな表情で俺に告げた、なにそれ!なんかめっちゃ嫌なんだが!わりと適当すぎるだろ、だが時すでに遅かった。
なぜなら、アイリスが話をしている間に箱から引き抜いて紙を取り出して開いて見た瞬間の事だったから。
ああ、書いてありましたとも。
『乙女ゲームキャラ攻略要員』
ってな。