サンタクロースっているんでしょうか
「サンタクロースなんかいないんだ!」
飛び出していく息子。
唇を噛み締めながら息子を見送る両親。
その周りには、僅かな収入で得た色鉛筆のセットと自由画帳が落ちていた。
クリスマスの朝。
枕元に置いてあったプレゼントに失望をおぼえ、家を出た少年は、行くあてもなく街をさ迷っていた。
イヴの好きな日本人たちが騒いだ夜の街から一変して、クリスマス当日の街の朝というのは、どうしてこんなに寒々しいのだろう。
葉が一枚もついていない木ばかり植わっている公園を見つけ、少年はベンチに腰をおろした。
失望の念にかられて震えていた身体は、気づけば寒さに震えている。
白い息を吹きつけた指先は、真っ赤になって悴んでいた。
目に溜まった涙の粒を落とさないように、吸い込まれるように真っ青の空を見上げた。
どの位そうしていたのだろうか、空腹を覚えた少年が、呻く腹を押さえ、立ち上がろうとしたその時、目の前に見馴れたMの文字の包装紙がずいっと視界に入ってきた。
「やるよ。腹減ってんだろ」
正面を向けば、全身黒ずくめの男が立っている。
「おじさんのでしょ?」
多くの苦難を乗り越えて出来たような皺の寄った厳つい顔が、無表情のまま答える。
「おいおい、人の厚意ってのは、素直に受け取るが吉だぜ」
それになにより、と口を動かしたまま少年の隣に腰をおろす。
「子どもが強がるもんじゃねえよ」
「ご馳走様でした。美味しかったです」
空腹を満たした少年は、隣で煙草をふかす男を、今更ながら不思議に感じていた。
真っ赤な服でも、白い髭でも、優しい顔でもないこの男が、まるでサンタクロースのように感じられるのである。
「おじさんは、サンタクロースっていると思う?」
無意識のうちに飛び出てしまった言葉を、今更回収するわけにもいかない。
否定されると知っていながら、それでも少年は男が答えるのを待った。
先程の自分を正当化したいという思いと、サンタクロースの存在を否定することの罪悪感が、少年の内で交錯する。
男は少し考えて、それから、首を捻った。
「少年にとってのサンタクロースってなんだ?」
今度は少年が首を捻る番だった。
「…クリスマスの日にプレゼントをくれる人かな。欲しいものだよ、勿論。寝ている間、枕元にそっと置いていくんだ。」
男は目を細めて、納得したように頷いた。
「さては、サンタクロースの正体が親だってわかったってとこか?」
図星だったのを隠すように、少年は下を向く。
男は軽く舌打ちをすると、くわえていた煙草を捨てた。
「俺はサンタクロースがそうだとは思わないね」
「クリスマスっつう特別な日に、特別な人に贈り物をしたい。喜ぶ顔がみたい。その気持ちがサンタクロースの本当の姿なんじゃねえか?」
少年ははっとしたように、男の顔を見上げた。
「だからあんたの両親も、立派なサンタクロースだ。何も、真っ赤な服で白い髭をつけただけがサンタじゃないと思うぜ。」
ぽかんとしている少年を横目に、男はどっこらしょ、と立ち上がると、数歩歩いた所で少年のほうを振り返った。
「その朝食は、この黒いサンタからの贈り物だ。いい子で過ごせよ、メリークリスマス。」
そう言って笑い、男は公園を去った。
少年は、しばらくして我にかえると、家へ向かって歩きだした。
何処か清々しいような、申し訳ないような気持ちが少年を後押しした。
足取りは軽やかだった。
完全に遅刻ですが、投稿しました。
これを読む皆さんに良いことがありますように。




