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Chronicle  作者: 花咲璃優
3/4

拒絶する瞳と少女の使命

「はい、どうぞ」


少女は珈琲とクッキーをテーブルに置く。それはもう、傍から見たら仲のいい兄妹だろう。誰が、さっきまで知り合いでもなかっただなんて思うだろうか。そんな事を思いながらお礼を言う。


「ありがとう」


お礼を言って受け取ると、普段使うマグカップに入ったブラックの珈琲を一口飲んだ。ほろ苦い味と共に、ふわっと珈琲の良い香りも一緒に広がる。それがいつもと同じ事に安堵し、「ふぅー」と今日の小さな溜息を零した。


 居ない筈の少女が居るも、いつもと同じように飲む珈琲に思わず安堵してしまう自分は相当疲れたのだろう。甘いものが欲しくて、クッキーにも手を伸ばす。サクッといい音を立てて一口食べると、珈琲に合うほんのり甘い味が美味しい。


「どう? 僕が作ったクッキーは美味しい?」

「美味しいよ」


そう一言言うと、「それはよかった」と言って嬉しそうな、満足そうな顔をした。


「じゃあ、僕の事を話さなきゃね。何から話そうか」


少女は「うーん」と呟いて、顎に手を当て考える。だけど、どこか考えていない様にも見えるその仕草。

それが、何処から話せばいいのか分からないと思っているように感じた俺は、何か言わないと内心、焦る。そして、出てきた言葉はあまりに素朴なものだった。


「そう言えば、君の名前はなんていうの?」


少女は俺の事を知っている様だけど、俺は名前すら知らない。そんな今更な事に気付いた。俺の方ばかり個人情報まで知られていて、少女の名前を知らないだなんておかしな話だなと思いながら、聞いてみる。


 ピクッと怯えるように肩が震えた気がした。だけど、俺には驚いたのか、それとも俺の気の所為だと思いそのまま興味本位で聞く。


「あー、僕のホットミルク温め直してくるねー」


少女は俺の質問から逃れるように、カップを持って冷たくなったホットミルクをキッチンへと持っていく。手慣れた手つきで電子レンジを操作する少女を「一体何者だ?」という疑問に駆られながら、ゆっくり聞けばいいと焦る心を落ち着かせ、少女が此方に戻ってくるのを待った。


 電子レンジで温め直したホットミルクが入った白いマグカップを持ち、少女が戻ってくる。心なしか、さっきまでの威勢がない。ソファに座ったのを見て、口を開く。


「君の名前はなんて言うの?」

「僕の名前ねぇ。うーん、じゃあ、知佳って呼んでくれるかな」


目を泳がせ、さっきまでの余裕がない目の前の少女、じゃなくて知佳は、今見つけた様な答えを口にし、俺は疑問を抱く。


「じゃあってどういうことだ?」

「偽名って事じゃない?」


誤魔化すように舌を出して笑う知佳にちょっとイラつく。そんなに自分の名前を知られたくないのだろうか。嫌な思い出しかないとか?俺には理解できなくて、口調が強くなる。


「なんで聞くんだよ。自分の名前だろ?」


口調が強くなってる事に気付いたのか、知佳は俯いた。やっぱり、聞いてはいけないことだったのだろうか。今更、後悔するけど、もう遅い。俺は気まずくなって、声を掛けられなくなる。カチカチと規則正しい時計の音だけが聞こえる。俺は重い空気が漂うこの部屋で息すら出来なくなりそうになりながら、酸素を求めて呼吸を繰り返す。心の中で一言、「ごめん」と思う事しか出来なくて、そんな自分に憤りを感じながらも何も出来ない。暫し沈黙が続く。それはもう、俺にはかなりの時が流れたんじゃないかと思った。


 そんな重い重い沈黙を破ったのは他でもない知佳。


「ふぅー」



知佳は諦めたように溜息を吐くと、顔を上げ、真っ直ぐ俺の瞳を見た。その真剣な瞳にドクッと心臓が大きな音を立てるのを感じる。そして、次に紡ぐ言葉を聞き逃さないように、耳を研ぎ澄ませて待つ。だけど、それはあまりに冷たかった。


「僕の名前なんて忘れたよ」


さっきまで、否、その言葉を放つまでの今にも悪戯しそうな瞳は何処にもない。何もかも、この世界に対して諦めた様な、そんな冷たい瞳。腰まである、漆黒の夜空の様なストレートの黒い髪が知佳の闇を表しているようで、怖くなる。知佳抱きしめているくまのぬいぐるみを抱きしめる力が強くなった、そんな気がした。


 これ以上、聞くのはよくない。一瞬にして頭の中で警告が鳴る。それはこれ以上聞く勇気が自分にはないからだ。そして、それ以上に、知佳の瞳は拒絶している。



俺を、自分を、世界を。



◆◆◆



「僕はね、この姿だから幼く見えるだろうけど、1000年生きてるんだ。僕は15歳の時に、自らの肉体と精神の時間ときを止めた。それはある使命を果たす為に」


目の前にいる、知佳は普通に考えたらあり得ない事を言う。知佳は頭が狂ったのかとさえ思った。だけど、冷たく淡々と言う中に、真剣さが混じって、「絶対に信じられないモノ」にはならなくて、俺の頭の中がぐちゃぐちゃになって、分からなくなっていく。それは1つずつの言葉がトランプのカードを混ぜるみたいに混ざって、それが頭の中で埋って行く感じ。嗚呼、気持ち悪い。それが1番の感想。それぐらい、今の俺は混乱している。


 いきなり、見知らぬくまのぬいぐるみを抱きかかえた少女が玄関にいただけでも驚いたのに、1000年生きてるんだとか、何処のおとぎ話だと思うのは当たり前だと思う。そして、そんなおとぎ話の様な現象を体験してる俺はどうれすばいいんだろう。ぐるぐると色んな考えが巡る中、そんな事知らないと言わんばかりに知佳が話を続ける。


分からない、解らない、判らない、ワカラナイ。


 いや、多分理解したくないだけなんだろう。さっきから目の前で起こっている現象を全部塗り潰してなかった事にしたいとさえ思っている自分までいる。最低だ、そう思った。俺は、知佳と出会った事をなかった事にしたいと思っている。さっきまで他人だった奴だけど、出会った事をなかった事にしたいと思ってるなんて知佳の存在を否定しているようで、そんな最低な自分で自分が嫌になりそうだった。


「だから、僕の肉体と精神は15歳で止まったままだ。これからも15歳から年を取る事はない............あははっ!おかしな話だと思わない? 自分でもおかしな話だと十分承知だよ。だけどね、これが僕の真実なんだ。信じるか、信じないかは柚季、君が決める事だから何も言わないよ」


乾いて笑いを漏らして、おかしな話だと言った知佳は、瞳に色がない。綺麗な碧眼しているはずの色はくすんだ色をしていて、うつろに見える。


 さっきから、知佳が冷たく淡々と話す話を、俺はまだ何か夢でも見ているんだとしか思えない、いや、思いたくない。こんなに冷たく、淡々と語っている筈なのに、何処か真剣さも感じさせる知佳の言う事がどんどん、自分の中で現実味を帯びてきているのを感じて、それを拒む。


「それで僕の事だね。簡単に言うと、僕は自分の時間を止めて、世界の状況、人々の生から死を記録する。時間と記録を制し、調整、管理する者、Chronicleクロニクルだよ」


Chronicle?


 さっきから、難しい話が出て来る所為で、俺は理解できない。時間と記録を制し、調整、管理する者ってなんだ? 本当に俺はおとぎ話の世界にでも入ったか?


「普段は僕のクローンが膨大な量の記録をしている。そして、僕は僕の仕事を実行する。それは柚季、お前にも関わる事なんだ。だから、よく聞いて」


俺の頭は全然ついていっていないのに、話し続ける知佳。

理解わからないことは理解わからないままでいいと言うかのような、お粗末な説明。

結局、知佳は何者なんだ? と言う謎しか残らない。

理解しようとしながら理解しようとしない心に葛藤を覚えながら、整理する

だが、そんな出来た頭はおれにはないらしい。


「君はこれから僕と管理する側の人間として、動いて貰う。何と言えばいいかな。Chronicleである僕の補佐とでも言おうか。それをお前には死ぬまでやってもらう。一生を掛けて、ね」


にっこりと笑って言う目の前の少女。本当に何を言っているんだ。俺の人生の道筋ってなんだ?

話だけ、進められても理解できない。どういう事なんだ?







「これは君の使命だよ。君にはその使命を果たしてもらう」



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