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ブラッディフェアリーズ・ウォー  作者: 不忍唐傘
俺終了のお知らせ
9/12

#8

「おかえりー」


あの役員を無事に振り切り、自宅の玄関の扉を開けると、中から芝の声が出迎えてくれた。


「ただいま」


あれほど上から目線で、挨拶も返さないような直が珍しく返事をする。

それどころか、直は芝以外の人と会話をすると、大概の場合は言葉のドッジボールと化してしまうのだ。

芝にも等しくボールをぶつけてはいるのだが、芝が勝手に受け止めている、という表現の方が近いのだが。


「仕事は?」


直が制服から部屋着用の青色のジャージへ着替えながら芝の方を向かずに、問いかける。


「まだ終わってないから、今も書いてるよ」

「見せろ」

「終わってる部分ならいいよ」


ジャージ姿の直が芝の仕事用の作業机の上に置いてあるかなり厚みがある作文用紙の束を手に取る。

そして、芝が愛用している落ち着いた雰囲気の木製の椅子の横に体育座りで黙々と作文用紙を凝視し始めた。


芝は自分の横でひょこひょこと揺れているアホ毛を見て、小さく微笑む。


「直ちゃん、今日も可愛いよ」

「いいから仕事しろ。 俺の人生もお前の給料にかかってるんだからな」


作業の手を止めて直へほめ言葉を芝を叱咤して、もう一度、作文用紙へと目を戻す。

実際に、直は年齢的に働ける場所がかなり限られている上に、時給も決して高くはない。

故に、それをやるくらいなら、今のまま好成績を保って特待生でいる方が、金はかからずにすむのだ。


―*―*―*―*―*―


「……ここで待っていれば会えると思ってた」

「…………生徒会の次はこっちか」


俺が通っている朝比奈高校の校門にこの間の銀髪緑眼の少女がポテトチップの袋を片手に寄りかかっていた。

袋には『梅バラ風味』というあまり美味しくなさそうなフレーバー名が書いてある。


「……食べる?」


少女が自らもポリポリと音をたてて頬張っている梅バラポテトチップを袋ごと差し出す。

直はそれを、いらん、という一言で一蹴し、校門を潜ろうと歩き出す。

しかし、音対はそんなつれない直の腕を掴み、校門の外へと引きずり出す。

もちろん、この光景は周りの人たちにも見られているわけで、生徒のみならず、校門付近を通った近所のおばちゃんやジョギング中のおじさん達の視線までもが突き刺さる。


「離せ!」

「……断る」


拒絶の言葉を放った直に対して、音対はその言葉を拒絶する言葉を返す。


「朝から元気そうではないか」

「うげっ」


直にとって、これ以上ないくらいに最悪なタイミングで現れた長い黒髪に蒼い目が特徴的な女性に、彼は思わず「最悪だ」という思いを表に出してしまった。

女性は少し不機嫌そうな表情をしたものの、特に怒っている様子は無い。


「……ブラッディーフェアリー」


音対がただでさえ大きい緑色の目をいつもより大きく目を開き、少し驚いたような表情で、小さく零した。

相手の女性も、そんな真剣な表情をしていても、ポテトチップを飽きることなく食べ続けている音対に対して、少し驚いているらしい。


「私のことを知っているのか?」

「……うん」


女性の問いに音対がこくりと頷く。

そして、新たに異次元ポケットから取り出した「わさび胡椒味」という摩訶不思議なフレーバーがかかれているグミを開ける。


「……あれ?」


わさび胡椒グミを口に放り込んだ音対が疑問の声を上げる。

その声と同時に女性が、違和感の原因に気がつき駆け出した。


それと同時に、音対は新たにもう一つの違和感を感じた。


「……グミが一つ減ってる」


―*―*―*―*―*―


「ふあ、ひょうにぇん」

「え、なんて?」


隙をついて逃げてきたはずなのに、すぐ後ろから歩いてきた女性に直が聞き返す。

女性はガムやグミの類を食べているようで、もごもごとしゃべったたもに、聞き取れなかったのだ。


「このグミは美味しいとは言い難いな」


グミを飲み込んだ女性が端的にグミの味について意見をする。

直からしたら、他人が食べていたグミの味なんて心底どうでもいいわけで。


「人の話は最後まで聞くべきだぞ」


再度逃げようとしたのだが、あっさりと女性に捕まる。


「おい、離せ!」

「そうだ、自己紹介がまだだったな」


見事なまでの会話のドッジボールが繰り広げられる中、女性は「如月新月」と名乗った。


「如月センパイ、離してください」


登校してくる生徒の波の勢いが増してきたため、いつもの猫かぶりモードに入り、いかにも新月が未練がましく教室へ向かおうとする直を邪魔をしているかのような状況を作り上げる。

そんな状況下で他生徒からの蔑視を避けるために、新月が自分の手を離すだろう、と踏んだのだが、彼は後に自分の甘さに気づかされることとなった。


「分かった、離そう」


新月が手を離すと同時に、下駄箱へと歩き出した直の耳に彼女が小さな声で耳打ちした。


「今はな――――」


意味深に残された言葉と耳にわずかに残った吐息の感触を残して、新月は硬直した直の横を歩き去っていった。

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