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プロローグ
闇の中、それに同化してしまったかのような女の美しい漆黒の長髪が風に靡く。
海のように青い瞳が爛々と輝き、彼女の左手に握られた日本刀を模したと思わしき『杖』がゆらゆらと月を映す。
その光景はあまりに現実離れしていて息を呑むほど、美しい。
「秋里椛!」
彼女が誰かの名を叫ぶ。
徐々に彼女の表情が夜叉の如く険しくなり、元々吊っていた目がさらに凛々しくつり上がる。
「貴様は此処にいるべきではない! 故に――――」
そう言いながら、彼女が地面に『杖』を突き立てる。
同時に、紫色の迷彩柄をした手のひら大の大きな蜘蛛が大量に飛び出し、波のように迫り来る。
「――――排除する」
凛とした声と蜘蛛の波が闇を穿つ。
一介の男子高校生である俺にそんな大規模な『魔術』を防げるわけもなく。
増してやこの波をはねのけ、更には相手に反撃できるような『魔術』なんて扱えるはずがなく。
――――あっという間に蜘蛛の波に呑み込まれた。