か・ぞ・く 9
「ねぇ、お隣のお婆ちゃん怖かったでしょう?」
食事を済ませ、今日子はのほほんと言った。
「あぁ、怖かったな、主に車が」
あやうく猫と心中するところだった。
「でも、今の時代ではああいうおばあちゃんも大事ですよね」
「悩める高校生にでも紹介したらどうだ?」
「そうですね、ふふ・・由加里ちゃんが叩かれたことによっておばあちゃんが訴えられないというのであれば、紹介したいのですが」
最近の親は、放任主義のわりにはすぐに訴えるという変に行動的だと今日子は思っているらしい。でも自分も明日香のことになれば、確かにそうするだろうという、今日子の配慮でもあるのだろう。
「・・・・」
時計の音がチクタクと時を刻む。
「あの」
今日子は正座をしたまま、じっと此方を見据えた。
「ん?」
「やっぱり、考え直してくれませんか?」
「何を?」
「結婚です」
ブッ!飲んでいたお茶を吐く。
あっつ!?
「大丈夫ですか?」
「いきなり、だな。また」
「そうですか?」
きょとん、とした様子で首をかしげる。
今日子は子どもを産んでいるわりには、すこしぬけている。と思えば大人の余裕のような落ち着きも持っている・・本当に分からない。
「・・・・」
「晴生さん!」
「!」
ぼうっとしていた。
「なんだ?」
「なんだじゃないですよ、黙られちゃ怖いですよ」
「あぁ、すまない・・なんだ?」
「結婚です!イヤですか?」
「・・・・」
そうだった。
「・・正直、わからない」
「分からない?」
「・・あぁ、俺は人付き合いというものがトコトン苦手でな・・昔付き合っていた女がいたが、それだけでうんざりしてしまった」
その女がまた、やっかいだったんだけどな・・。
「俺が、ここにいるのは主任の悪趣味な嫌がらせに過ぎない、そのうちすぐ御呼びがかかるだろうと思う」
「・・・・主任さん?」
あの男は本当に性格悪いからな、何の発展もないということを気づけば次は一体どんな手でくることやら・・。発展しても何かしらしてくるだろうが・・。
「性格が悪い、そんなヤツの遊びに君を巻き込むわけには行かない」
「・・ふふ」
今日子はゆっくりと晴生に近寄り、顔を近づけてそっと唇に触れた。
「!」
晴生が驚いた顔で今日子を見ると、頬を染めて微笑んでいた。
「私、最初は晴生さんのこと、イラってしてました」
「・・言うな」
「ふふふ、でもずっと一緒に居て、なんとなくですけど・・好きになりました。こんな気持、初めてなんです」
頬を真っ赤に染まる、林檎のように甘く紅い・・。
「好きになってください、遠慮は要りません。私も明日香も・・好きです」
身体を寄せられ晴生も抗い難い感覚に陥る。
「ねぇ、晴生さん・・」
唇を、見つめてしまう・・。
「・・今日子さん」
「晴生さん・・」
「人を好きになるの初めてって、明日香の父親は一体・・」
今日子は微笑んだまま、固まった。
「あ、明日香の部屋のカーテン洗わなくっちゃ!」
立ち上がった。
「お茶のみ終わったら流しに置いてくださいね」
逃げるように去っていった。
・・誰なんだ、父親・・。
夕方。
「ただいまー」
「ただいまー」
今日子と明日香が笑顔で帰ってきた。
「わーお部屋模様替えしてるー」
「綺麗でしょう?」
清潔になった部屋を駆け回る明日香。
「こら、こけるよ?」
「ごめんなさーい」
キャッキャッと笑いながら明日香は走るのを止めて、晴生に抱きついた。
「お父さん」
「ん?」
「一緒にお風呂はいろー」
いいかげん父親でないと言い張るのもめんどくさくなってきた。一緒にフロに入るぐらい、譲歩してやらんことも―――・・
「お母さんも一緒に・・」
「俺は断る」
「えー」
子どもって本当何を言い出すんだか・・分かったもんじゃないな
「晴生さん」
今日子はニッコリと笑った。
「ん?」
「一緒に入ります?」
この人も、わからない。