か・そ・く 6
一週間目の夜、晴生と今日子が初めて同じ時間にベットに入った日だった。
そして
「・・・・」
「・・・・」
なぜか正座して見つめ合う。
五歳児の明日香は一人部屋でもう夢の中だ。ここからはもう、大人の時間・・。だが
「・・・・」
「・・・・」
なんだこの沈黙
「・・・・」
「あの晴生さん」
今日子はにこにことした顔で晴生の名前を呼んだ。
「ん」
「私に何か聞きたいことがあるんですよね」
「あぁ」
「なんでしょう」
ニコニコと微笑んだままだ。逆に聞きづらい。
聞くけど
「旦那は居ないんだな」
「えぇ、でなければお見合いなんてしませんよ」
「結婚したことは?」
「プロフィールに偽りはありません」
ということは無いと。
「じゃあ思い切って聞いていいか?」
「どうぞ」
「あのこの父親は誰なんだ」
もちろん明日香のことだ。
「いませんよ」
今日子は微笑んだままサラッと言った。
「いない・・?」
「えぇ、父親なんていません。晴生さんが今は父親です」
答えたくないのか、素面なのか分からない。
「それは相手が逃げたということか?」
「誰がです?」
「父親・・今日子さんの旦那・・じゃなくて彼氏」
「私、今は独身ですよ?」
らちがあかんな・・。
「あんたの子宮に精子注ぎ込んだ人」
「嫌な言い方しますね」
「答えたくないなら良いけど」
「そこまで言っておいてですか」
言わせたのはアンタだ、といおうかとも思ったが、シモネタを発言したのは自分なので黙ることにした・・・。しかし今も尚ニコニコとしている。
「なんで、ニコニコしているんだ?」
「え?」
「笑ってるじゃないか」
「あら、そうですね」
ふふ、と今日子は笑った。
「なんででしょう」
「知らん」
「ふふふ・・笑ってないとやってられないときもあるんですよ」
今日子が初めて微笑むのを止めた。
「女の身一つで、今まで子を育て生きてきました。必至の形相なんてしていたら余計疲れます。笑っているほうが楽なんです」
真面目な顔で晴生を真っ直ぐと捕らえた。
「明日香も笑ってくれます、そうしたら楽になります。私は明日香が大切なんです。明日香が私を支えてくれたから・・晴生さんは」
「ん」
「笑っていませんし、硬いです。疲れませんか」
「別に」
「嘘です」
ぶに・・頬を掴まれた。
「ココに来たとき、すっごく疲れた怖い顔をしていました、今はまだましです」
「マシか」
「えぇ、マシです」
真剣な顔でマシって・・。
「ぷ・・今日子さん、あんた笑っているほうがいいな」
「え?」
「真顔、似合わない」
頬をつねり返す。
「きゃ・・」
「くく・・」
こんこん
「?」
枕を抱いた明日香が眠たそうな顔で入ってきた。
「怖い夢見たの、一緒に寝ていい?」
「おいで」
明日香を抱き上げ、布団の中に入る、三人川の字
「あったかーい」
明日香はそういって微笑むと、すやすや眠り始めた。
「・・晴生さん」
「ん」
今日子はにっこりっと笑った。
「私とヤりたいですか?」
晴生は少し考えて
「俺とヤりたいですか?」
と、聞き返した。
今日子は微笑んで目を閉じた。
あいかわらず、不思議な人だと思いながら、晴生も目を閉じた。
なつかしい人の温もりは、心まで温まったような気がした。