か・そ・く 5
「今日は思ったよりも仕事が早く終わっちゃった」
晩御飯は少し奮発してすき焼きにしよう・・。
「ただいまー」
家の扉を開けると、見覚えのアル靴があった。リビングに行くと、すやすやと眠る明日香と、気まずそうな二人が居た。
「今日子さん!」
由加里は隠れるように今日子の背後に回った。
「旦那さんっていつからできたんですか!?」
「昨日だよ」
「き・・!?」
そりゃー驚くよねぇ・・急だったもの。
「まぁまぁ座ってお茶でもどう?」
台所に行きいれなくてはならないものを先にいれてからお湯に火をかける。
「あーすか、風邪ひくよ」
ゆさゆさ
「んー?あ、おかーさん」
明日香は飛びつくと今日子は微笑んだ。
「羨ましい・・」
ぽつり、と由加里はいった。
「晴生さん、コーヒーと紅茶どっちがいいですか?」
「珈琲・・」
「了解です、由加里ちゃんは砂糖いくつだっけ?」
「あ、二つ・・」
「明日香ー、お菓子机の上に持っていって」
「はーい」
匂いが部屋に広がる。
さっきまでの居心地の悪さは消えていた。
「はい、どうぞ」
今日子は変なカリスマがあることに晴生は気がついた。苦労知らずなようにも見える・・思えば今日子について知らないことばかりであった。でも、触れてはならないような気もする・・。
「せんべいだけど、気にしないでね」
明日香がお皿の上にせんべいを入れた。草加せんべい・・。
「お父さんどーぞ」
明日香が膝の上に乗ったせいで逃げられなくなった。
(重い・・しかもせんべい口の中に入れられた)
嫌いじゃないけど、半分以上口の中に入れられたら・・はくぞ?
「どうかしたの?由加里ちゃん元気ないけど」
「・・友達って、なんですかね」
なんだ、思春期か・・晴生はせんべいを食べながら思った。コーヒーがほしい・・手が届かない
「友達?」
晴生の行動に気がついた今日子が珈琲を手渡す。
「・・好きっていいながら陰口をいい、嫌いといいながら傍に居る」
「ほう」
「好きなのか嫌いなのかハッキリしないの、そういうのって・・分からないじゃないですか・・っ」
「それが『大人』になるってことだ」
「え?」
由加里は驚いたように晴生のほうをみた。
「世の中一人では生きていけない、最小限人と付き合わなければいけない、損得を考えれば嫌いな相手でも我慢するのが利口・・『大人』になる一歩を踏んでいるに過ぎない」
「そんな・・それが『大人』になるってことなんですか?」
「あぁ」
手が熱い・・今度は珈琲がおきたい、邪魔だな明日香、今日子が手を伸ばし珈琲を机の上において微笑んだ。
「私は違うと思いますよ」
「え?」
にこ。
「もし、本当に『大人』が損得だけ考えて行動するなら・・晴生さん、今すぐに明日香を押しのけて珈琲を飲んだり置いたりしてますよね」
せんべいを食べていた明日香が「ん?」と首をかしげた。
「出会ったとき、子ども・・嫌いって顔してましたよ?クス」
「・・・・」
してたか?
「・・本当はね由加里ちゃん、みんな好きなんだよ同じクラスの人も由加里ちゃんのことも、皆平等にすきなんだけど・・素直になれないだけなの、本当は好きなんだよ」
「そうなんでしょうか・・?」
「だって本当に嫌いな人と同じ空間に居れる?」
「無理」
「でしょう?」
明日香に口の中にせんべいを入れられる。
このチビ・・。
「おいしいですかー?」
屈託のない笑みを見ると、怒る気もうせる・・。
「・・・・」
「ほら、晴生さん、おいしいですか?」
今日子も微笑みながら聞いてくる。
「・・・・おいしいです」
明日香がワーイと喜んだ。
それを見て由加里も微笑んだ。
今日子は不思議な魅力のある女性だった・・気がつけば、目が彼女を見つめていた。
「・・・・」
眼が合って、つい目をそらしてしまった。
契約は一年・・だけど
ほだされそうだ・・。
一年も必要なかったかもしれないww