第3話
ビリーはシャロンとオセロをやっていた。ビリーはアンドロイドでありながら、シャロンに一度も勝ったことがない。これはオセロに限らずボードゲーム全般での話だ。ビリーは一度自身のプログラムのコードを確認したことがあったが、『シャロンに勝ってはいけない』というようなソースコードは入っていなかった。
「僕はやはり、この屋敷の他のロボットたちと"何か"が違う。…でも、それはなんだ?」
ビリーは、ここ最近自身に対する問いかけをずっとしていた。だが、シャロンに聞いてもどうせはぐらかされることは目に見えている。
――そんなある日
シャロンが研究所に出かけてしまい、ビリーは暇を持て余していた。ビリーは機械の両腕をグーッと伸ばしてリビングのソファにもたれかかるように座り、天井を見上げた。視界には小さなシャンデリア型の質素な照明が一つ暖色系の光を優しく放っている。
「…あぁ、暇だな。そうだ、テレビでも見よう。」
ビリーはテレビのニュース番組を見ることにした。外へ出ることを許されていないビリーにとって、テレビは唯一、外の世界を知るための道具だった。すると、チャンネルを変えるやいなや、アナウンサーの暗い顔がビリーの目に飛び込む。いかにも、『泣いてください』と同情を誘うような目だ。
――「2ヶ月前から捜索中の女子中学生の篠原弥生さん15歳。未だに発見されておらず――」
「篠原弥生って人、2ヶ月前に行方不明なのか…。」
ビリーはニュースに耳を傾ける。どうやら、篠原弥生は田舎に暮らす女子中学生で一人でいることが多く、2ヶ月前に何者かによって誘拐されたらしい。そんなとき、ビリーはあることを思い出した。
「…そういえば、庭の柵の外にあるブランコ、下に掘り返したあとがあったな…。」
そのブランコは近所の公園で山奥なので普段は誰も使用しない。しかし、シャロンのような近隣住民が定期的にメンテナンスをしているのできれいだった。公園の地面も何度か耕して花の種をまいているが、ブランコの下なんて不自然だ。ビリーは"約束"の影響でその公園には行けないが、庭から柵越しに目視することはできた。
「…あの地面、結構広く掘り返してたな。人が入れそうだ。」
そんなことを考えているとまた一つ発見があった。
「彼女が行方不明になったのは2ヶ月前だった。僕はこの家に来て2か月弱…」
ビリーはもう少しで何かに結び付きそうだったが、いつもの電子頭脳のブレーキが「考えるな」と言って思考を停止させる。ビリーが考えていると、玄関のドアが開く音がした。
「ビリー!ただいま、今日も面白そうな本を買ってきたよ!」
ドアの向こうには、あの優しい太陽のような笑顔があった。ビリーは慌てて玄関に向かう。
「…あ、えっと、おかえりなさい、シャロン。」
ビリーは笑顔を作ったが、電子頭脳では胸騒ぎがしてたまらなかった。もしもビリーが人間なら、ここで青い顔をして冷や汗が止まらなかっただろう。
ビリーはただ、自分がロボットであることに心の底から救いを感じていた。
――この翌日、真実を知ることも知らずに。
――その真実は永遠に彼の心を酷く締め付けることになる…。
※この物語はフィクションです。




