【第4話】逆さまの幽霊と、地獄のパンデミック<冥銭>
「飲め飲め! 今日は俺の奢りだ!」 芸術鬼はバーで大盤振る舞いしていた。
大量のビールと引き換えに、酒吧鬼(バーテンダー鬼)は受け取った金紙の裏面を一枚一枚チェックしていたが、数日で諦めた。「芸術鬼が出した金」だけを優先的に処分することで自衛した。
十日後。地獄のあちこちで「馬蹴り」の被害報告が出始めた。
二十日後。被害者は指数関数的に増大した。
三十日後。**「馬蹄病」**という新型伝染病説が浮上した。ワクチンも治療薬もない。
四十日後。他層の地獄にまでパンデミックが拡大した。
抜舌地獄、あのバーにて。
「なんでお前はいつも事態を悪化させるんだ!」 酒吧鬼は氷嚢で腫れ上がった顔を冷やしながら叫んだ。「金紙のチェックは完璧だったはずだろ!?」
「こうでもしなきゃ、あの広い地獄で人探しなんて無理だろ?」 芸術鬼は遠い目をした。「生前、俺は偽札作りの職人だった。あの頃の情熱を思い出したよ。あの獄卒が俺を馬の尻に突っ込んだ時の顔……あれを見返すためなら何でもやるさ」
彼は、あのラブレターを**「印鑑」**に彫り起こしたのだ。 そして、金紙と同色のインクを使い、冥銭銀行から引き出した金に一枚一枚丁寧に捺印し、また預け入れる。これを繰り返した。 肉眼でも触感でも判別不能な、完璧な偽造技術。
「材料さえあればもっと完璧にやれたんだがな。地獄の紙幣はセキュリティが甘すぎる。金箔を貼っただけとは笑わせる」
「その技術を無駄な方向に使うなよ……」酒吧鬼は頭を抱えた。「で、場所は絞り込めたのか?」
「蛮横鬼(ヤンキー鬼)の記憶だと、アラビアだったか?」 「アラビアなわけあるかボケ!」 蛮横鬼が床から飛び出してきた。
「「うわっ、びっくりした!!」」
「テメェらはとっくに死んでんだよ」蛮横鬼は叫んだ。「台中の沙鹿区だっつってんだろ!」
「ああ、**サンドアート(砂絵)**のイメージで記憶してたわ」
「「遠すぎるわ!」」
「芸術家の記憶術は凡人には理解できんよ」
「巻き込むな!」 蛮横鬼はテーブルに金紙の束を叩きつけた。その中の一枚を手に取る。 ラブレターの下に、赤いインクで追伸が書かれていた。
『もし馬に蹴られなかったら、抜舌地獄のバーへ連絡を。遠ければ油鍋地獄の蛮横鬼まで』
「赤字は見やすくていいだろ?」芸術鬼は自画自賛した。
「血も赤いがな」蛮横鬼は冷ややかに言った。「お前、もうすぐ体中の穴から綺麗な赤色を吹き出すことになるぞ」 そう言い残し、彼は地面へ消えた。
「……おい、壁がヤバいぞ」酒吧鬼が震える声で言った。
「ん?」 ズガガガガガ……!
店の入り口が破壊され、壁が崩壊した。 怒り狂った亡者たちが雪崩のように押し寄せてくる。
「金返せ!」「馬に蹴られたぞ!」「責任者出せ!」 グラスが割れ、酒が飛び散る。酒吧鬼はカウンターの中に頭を抱えてうずくまった。
芸術鬼はその光景を見て、恍惚とした表情を浮かべた。 「……美しい。これぞ地獄絵図。一生に一度の傑作だ」 彼は走馬灯を見る覚悟で目を閉じた。 走馬灯の内容は、なぜか蛮横鬼の「テメェらはとっくに死んでんだよ」というツッコミだった。
一秒。三秒。 痛みは来ない。 恐る恐る目を開けると、そこには強烈な光景があった。
鬼卒や獄卒たちが空から降下し、暴徒たちを鎮圧していたのだ。
「公務執行妨害だぞ!」「刑期延ばされたいか!」 彼らは手際よく暴れる亡者たちを殴り倒していく。
一人の鬼卒が芸術鬼の肩を叩いた。
「安心しろ、今日はこいつらに手出しはさせん」
「あ、ありがとうございます……!」
「礼はいい。さあ、我らが長官がお待ちかねだ」鬼卒はニヤリと笑った。「お前に会いたくてウズウズしてるぞ」
群衆が割れ、その奥から、緑色の官服に金色の鎧を纏い、巨大な三叉戟を手にした巨漢が現れた。 その顔は人間のものではない。長く伸びた鼻面、大きな鼻の穴。
馬面(ばめん/めず)。
「……貴様か。地獄中の馬を出払わせ、あまつさえ本官まで残業させた大馬鹿者は」 馬面は鼻息荒く、芸術鬼を見下ろした。
「本官の蹄の味を、たっぷり教えてやる」
(第4話 完)
人物介紹(AI生成)
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地獄の経済を揺るがす「金紙」の威力……。 これからも驚きの展開が待っていますので、楽しんでいただければ嬉しいです。
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