【番外編】小冥銭にしたためた小恋文
<小恋文>-1
結婚式の会場。
「今回の入場ムービー、あなたが作ったの?」 李沐璇が聞いた。
「そうだよ」 曉軒が答える。
沐璇が見つめるスクリーンには、二人のデート写真の隣で、常に黄韻佳が見切れて写っている(電球=お邪魔虫の隠語)スライドショーがエンドレスで流れていた。BGMはGarfunkel and Oatesの『Me, You and Steve』だ。
https://www.instagram.com/p/C6Q0PZrPtd9/?hl=zh-tw
<小冥銭>-1
馬面が孟婆の膝枕でくつろいでいる。
「西洋に視察に行った牛頭が、『ユニコーンみたいに膝枕されると最高に気持ちいい』って言ってたけど、案外普通だぜ」
「あなたがそのスープを飲んで、変な知識を全部忘れてくれることを切に願うわ」 と孟婆。
「わかったぞ。おそらく膝枕の主が『処女』じゃないから効果がないんだな」
「……ぶっ飛ばすわよ」
<小恋文>-2
お化け屋敷から、小さな女の子の幽霊が嬉しそうに出てきた。
お日様がポカポカして気持ちいい。お花のいい匂い。
(パパのところに連れてってくれるのね!)
女の子は隣にいる男の手を無邪気に握り、もう片方の手の親指を口にくわえた。手を引く男は、泣いているのか笑っているのかわからない奇妙な表情を浮かべている。
大きくて立派なオフィスに到着すると、そこには厳格そうな男が座って仕事をしている。
女の子はピョンピョンと跳ねながら近づき、厳格な男の胸に飛び込んだ。
すると男は怒鳴った。「お前は何を連れてきたんだ、劉信宏!」
<小冥銭>-2
ハム豚が言った。「俺を倒したら去っていくなんて、ウッウッウッ」
肉ふりかけ(肉鬆)豚が言った。「アニキが惚れるのはわかるけど、ボコボコにされてから惚れるってのが理解できねぇよ」
「強者に惚れるロマンがわからねぇのか。もう愛なんて信じねぇ」
そこへ、人間の男がゴム手袋をはめ、種馬(種豚)の尿を振りまきにやってきた。
ハム豚はうっとりと言った。「ああっ〜、あいつの匂いだわ」
<小恋文>-3
李昶華の結婚式。新郎新婦の付き添い(伴郎伴娘)を務めるのは、かつて敵対陣営だった張志豪とブライズメイド。二人とも「未婚」という理由だけで選ばれた。
ブライズメイドがこっそり耳打ちした。「あなた、すごくいい匂いがする」
張志豪は自分の匂いを嗅いで言った。「そんなことないよ。汗臭いよ」
「心理学でね、その人の匂いが好きだと錯覚すると、本当に好きになっちゃうらしいわよ?」
「マジで〜〜? 俺、自分のこと超嫌いなんだけど」
「あなた、絶対彼女いないでしょ?」
「笑わないでくれよ」
「笑ってないわよ」 ブライズメイドはクスッと笑った。「……バカ」
<小冥銭>-3
芸術鬼が、抜舌地獄へやってきた鄧律儀を見下ろした。
「お前、俺の孫婿じゃないか? 確か無口な性格だったはずだが、どうしてここへ落ちてきた?」
「妻の阿佳には無口だって嘘をついてたんです。本当はBLなんて全く好きじゃないってことも隠してました」
芸術鬼は笑った。「望郷台でお前の顔を見た時から、俺の血を引いてる(ホラ吹きな)子だと思ってたぞ。さあ行こうか、舌を引っこ抜かれにな」
<小恋文>-4
沙鹿にある金紙の専門店(金香鋪)。
「ここは地獄だぞ」 スタッフAが言った。「この店は昔の墓場の上に建ってるんだ。俺みたいに霊感の強い(八字が重い)人間じゃないと三日ももたない。いや、お前じゃ一日ももたないだろうな」
「先輩、この店なんかヤバいんスか?」 スタッフBがビビる。
「最近、長い髪の白いワンピースを着た女が金紙を買いに来るんだ。一言も喋らず、特大サイズの金紙を指差して、現金を投げつけて去っていく。最近の幽霊は自分で金紙を買いに来る時代らしいが、その金はどこから出てるのか……」
「せ、先輩……後ろ……後ろォ!」
スタッフAが振り返ると、背後にあの白いワンピースの女が立っていた。
「わあっ!!!」 女が突然大声を出した。
スタッフ二人は悲鳴を上げて抱き合った。
「あー面白かった。次は別の店で買おーっと」 李沐璇は、ラブレターを書くための金紙を抱えて楽しそうに帰っていった。
<小冥銭>-4
磔刑地獄。
「お前は浮気? お前も二股? お前ら全員『愛情の墓泥棒(恋愛詐欺)』ってことか? 物理的にリアルな墓泥棒をやったのは俺だけなのかよ!」 張志豪が叫んだ。
「俺たちも驚いてるんだよ。このご時世に、まだ盗む墓が実在するなんてな。お前の話を聞いたら、自分がなんで落ちてきたのか恥ずかしくて言えねぇよ」 チャラ男の霊が言った。
「そうそう。ここのシステムも随分変わったんだぜ。お前をどの地獄に送るか迷ったんだろうな。俺たちは現世で『クズ(渣男)』だったから、地獄で『細切れのクズ(物理)』にされる。非常に合理的だろ!」
「どおりで、誰も俺のどこが間違ってたか教えてくれないわけだ……真面目に相談しようとすると、みんな言い訳して逃げていくしな」 張志豪は溜息をついた。
<小恋文>-5
「あんた、結婚相談所の仕事をしてるくせに、なんで自分の相手は見つけられないのよ?」 怡君の母は、顔を合わせるたびに愚痴をこぼす。
「たぶん、私以上にひどい泣き方をする人に出会ってないからじゃないかな」 怡君は静かに微笑んだ。
<小冥銭>-5
「先輩、どうやって亡者たちをあの『刀山』に登らせてるんですか?」
「亡者を急き立てるのもテクニックが必要なんだ。最近は現実を受け入れられない死者が増えてな。来る奴来る奴、みんな『俺は異世界転生したんだ!』って騒ぎやがる」 ベテラン鬼卒が言った。「だから俺はこう言ってやるのさ。『異世界最強の勇者の剣は、あの山の頂上にある。真の勇者にしか引き抜けない』ってな。そうすると、どいつもこいつも狂ったように刀山を登り始めるんだよ」
「最近の若者は脳みそイカれてるんですかね?」
「お前、どんだけ新人の鬼卒だよ」 ベテラン鬼卒は呆れた。「以前の血の池は『死んだ時の年齢』で肉体を再構築してたんだが、そうすると地獄の拷問が『老人や赤ん坊を虐待している』ように見えちまうんだ。鬼卒の方が年上でも、精神的ダメージがデカすぎてカウンセリング行きになる鬼卒が続出した。自分が罰を与えてるのか、与えられてるのかわからなくなるってな。だから血の池のシステムをアップデートして、全員『20代〜30代の肉体』に再構築する仕様に変えたんだ。ついでに『腎臓を一つ抜いておく』ことで、ほとんどの問題は解決したぜ」
「腎臓を一つ抜く?」
「見た目は変わらねぇが、体力が落ちて虚弱になるから管理しやすいんだよ」
「でも、前にも刀山地獄で小さな男の子の亡者を見たことありますよ?」
「無罪の魂や、生前に功徳を積んだ奴は、血の池のオプション特典と交換できるんだよ」 ベテラン鬼卒は言った。「もしかしたら、その男の子の中身は千年を生きる妖怪のオッサンかもしれねぇぞ」
ベテラン鬼卒は、後輩の教育も急務だなと頭を痛めた。
<小恋文>-6
地獄の馬廄(厩舎)。
王景基(占い師)「ここへ来て三年、少しは言葉を交わそうじゃないか! 君はいつも馬を連れてきて、蹴飛ばし終わったらすぐに行ってしまう」
蛮横鬼「亡者民へのサービス業務だからな」
王「君も獄卒なのか?」
蛮横鬼「違う。お前が蹴られ終わったら、次は俺が蹴られる番だ。馬の世話が終わったら、次は犬の世話をしなきゃならん」
王「骨と皮だけじゃないか! 地獄はなんて非人道的なんだ!」
蛮横鬼「兄弟、犬に骨(俺)を食われない方法があるなら、早く教えてくれよ」
<小冥銭>-6
牛頭「西洋の地獄に視察に行ってきました」
馬面「マジでお疲れ」
牛頭「彼女が欲しい非モテの男(単身狗)が悪魔を召喚して、自分の魂と引き換えに契約したんです。悪魔は、ある男の霊を非モテ男に憑依させて、その霊の生前の妻を口説きに行かせました。非モテ男は悪魔は怖くないのに、幽霊にはビビりまくり。霊の方は、妻に夫の死を乗り越えさせるために、非モテ男を全力でサポートしました。結果、天界はその霊の行動を『無私の愛』と認めて罪を赦したんですが、妻が本当に非モテ男を愛した瞬間、悪魔が契約通り非モテ男の魂を刈り取りに来たという……」
馬面「……すまん。俺の部署の方が過酷だと思ってたが、お前、西洋で映画みたいなバカンス満喫してきてんじゃねぇか」
(※このストーリーは、作者が構想した別バージョンのプロットです)
<小恋文>-7
「やっと君を待てたよ」 張志豪が言った。
「ええ、そうね」 陳怡君が微笑む。
張志豪は後ろに隠れていた小さな男の子の幽霊を引っ張り出した。「こいつ、氷山地獄で見つけたんだ。君が曉軒に憑依した時は俺の姿が見えなかったのに、お化け屋敷で俺たちが憑依した時は、二人ともあの女の子の幽霊が見えただろ? なんでかわかるか?」
「ええ、なんとなくわかるわ」
「君が一緒にいてくれるなら、あの女の子が来るのを待つのも退屈しなくて済む」
怡君は小さな男の子に向かって優しく言った。
「もしよかったら、『お母さん』って呼んでいいわよ。……もうすぐ、あなたに可愛い妹ができるからね」
<小冥銭>-7
「三生石って、どうやってあのラブレターから張志豪の個人情報を特定したんだ?」 芸術鬼が尋ねた。
「バカな鬼にもわかるように説明してやる」 エンジニア鬼(工程鬼)が眼鏡をクイッと押し上げて言った。「魂を『一冊の本』に例えるなら、名前は『タイトル』だ。タイトルを構成する文字データは、極めて複雑な暗号化アルゴリズムなんだよ。そのコードを解析すれば、本全体を復元できる。現代のIT用語で言えば『解凍(解圧縮)』だな」
「だが、あのラブレターには名前……いや、タイトルが書かれていなかったぞ」
「他人の名前を書くということは、相手の魂の形を定義するのと同じことだ。『陳怡君』と書かれた文字には、張志豪が陳怡君の魂をどう認識していたかのデータが含まれている。ラブレターの冒頭に書かれた名前は、純度100%の思念と幻想の結晶だ。そのデータから『陳怡君という本』を特定し、逆算して張志豪を割り出すのは造作もない。古典数学の概念に例えるなら、宇宙人が木の棒の真ん中に一本の線を引くだけで、百科全書全巻分のデータを記録して持ち帰るようなものだ。人間の名前の文字データは、その『線』よりも遥かに複雑で情報量が多い。三生石はそのオーバーテクノロジーを利用しているんだ」
「なるほど、理解した」 芸術鬼はポンと手を打った。「やはり三生石は宇宙人のオーパーツ(黒科技)だったか」
「……馬の耳に念仏だな。なぜ理系鬼のロマンを理解できる奴がいないんだ?」
<現実>
作者(擇泉)「最近、『冥銭にしたためた恋文(寫在金紙上的情書)』って小説を書いてるんだ」
友人「精子(ジンジー/金紙と同じ発音)に書かれたラブレター? なにそれ、どうやって送るの? エロ動画(A片)で?」
作者「何億匹も飛ばさねぇよ! 黄色い(※エロの隠語)やつだよ!」
友人「やっぱりエロ(黄色い)じゃん! エロ動画でしょ?」
作者「燃やす(焼/サオ)やつだって!」
友人「発情(サオ/焼と同じ発音)するやつ!? 絶対エロ動画じゃん!」
作者「俺はこういう同音異義語のアンジャッシュみたいなすれ違いが死ぬほど嫌いなんだよ! これは純愛ストーリーだ!」
友人「どう考えても『純愛アクション(エロ)』ストーリーだろ」
本書を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
文字を読むという行為は、視覚、聴覚、嗅覚など、多くの想像力をフル稼働させる必要があります。もしかすると、読書はとても疲れる作業かもしれません。映像作品であれば、役者の身体表現がある分、ずっとリラックスして楽しめますからね。
私はこれまで、物語の「器」を探すために様々なアプローチを試してきました。映画の脚本、スタンダップコメディ、即興劇などです。そしてこの物語は、ある即興劇の稽古中に出された「金紙(冥銭)」というお題から生まれました。
その場ですぐに「金紙に書かれたラブレター」というメインテーマを思いつきましたが、物語の方向性はなぜか「SFオカルト」な雰囲気へと向かっていきました。
それから半年が経ち、当時のアイデアを振り返った時、ふと「ディティールの数々が非常に面白い」と気づいたのです。金紙という文化の奇妙な点や、中華圏の人々が抱く『地獄』のシステムデザインなどです。即興劇が「みんなで物語を紡ぐ」ものだとすれば、今回の執筆は「自分自身と即興で物語を紡ぐ」ような作業でした。大きく回り道をしましたが、やはり私は文字による創作が好きなのだと再認識しました。
本作では、独立しても成立し、交差しても成立する「二つのストーリーライン(ダブルライン)」を採用しました。これは即興劇のロングフォームで学んだ手法です。他にも「Harold」という即興フォーマットで学んだ、点と点が繋がり、物理的・化学的な反応を起こすテクニックを多用しています。互いに影響を与え合いながら物語が成長していく……もしこの構成を楽しんでいただけたなら、ぜひ実際の即興劇も観てみてください。きっと忘れられない体験になるはずです。
執筆中、私は大まかな方向性しか決めていませんでした。二つのストーリーラインで何が起こるか、私自身もわかっていなかったのです。物語はカオスになり、時に制御不能に陥り、自分でもこれを完成させられるとは信じられませんでした。
締め切りに追われながら創作する中で、現実世界での私の経験や思考も多く物語に投影されました。ベーコン用の豚が去勢されるエピソードなんて、私の現実のストレスから生まれた幻覚だと言っても、信じてもらえないでしょうね。
執筆中に行き詰まった時は、前作のキャラクターを物語に放り込んで、どんな化学反応が起きるか実験したりもしました。もしよろしければ、私の前作も手に取っていただけると嬉しいです。
擇泉 2023/11/15
本作を最後まで見届けてくださり、感謝の気持ちでいっぱいです。
少しだけお休みをいただいた後、来週から新作の連載を開始します。
今後は毎週月曜・水曜・金曜のペースでのんびりと更新していく予定です。
新しい物語には、本作の『恋文編』とも言える要素が詰まっています。結婚した夫婦の不思議な出会いの物語や、あの占い師・王景基のちょっとしたエピソードも描かれます。
引き続き、私の描く世界を楽しんでいただけたら嬉しいです。来週からの新連載も、どうぞよろしくお願いします!
擇泉 2026/03/05




