【最終話】科学的婚活の結末と、地獄のインフレ事情<恋文>
「科学のデータ分析があれば、きっとすぐに素敵な相手が見つかりますよ」
陳怡君は最後の客を見送ると、会議室の椅子にドッと崩れ落ちた。
結婚相談所の仕事を始めてもう五、六年になるが、自分自身のプライベートは完全に白紙のままだ。家族からは「自分の相手も探したらどうなの?」と小言を言われる。その度に怡君の視線と心は遠くへ彷徨い、あの日見上げた校舎の屋上へと飛んでいってしまう。
怡君は足で床を蹴ってキャスター付きの椅子を回転させた。デスクの上の顧客プロフィール、壁に貼られた「成婚カップル」の写真、そして……時計。
「あっ、もうこんな時間!」
今日結婚式を挙げるのは、彼女が初めてマッチングを成功させた記念すべき第一号カップルだ。怡君も招待されており、すでにドレスアップは済ませている。あとは急いで向かうだけだ。彼女は慌ててビルを飛び出し、タクシーを拾った。
——曉軒と沐璇の結婚披露宴は、かつて二人が「幽霊の憑依騒動」に巻き込まれたのと同じ式場で行われていた。
親友の黄韻佳はブライズメイド(伴娘)を務める傍ら、座席案内のスタッフも兼任していた。ゴシップ好きで人間関係の相関図を把握している彼女は、各テーブルの座席配置を完璧にコントロールしていた。
「もうすぐ式が始まるっていうのに、李パパが見つからない!?」 知らせを聞いた韻佳の声が八オクターブ跳ね上がった。「それじゃ誰が花嫁と一緒にバージンロードを歩くのよ! あんたたち、急いで探してきて!」
韻佳の鬼気迫る指示に押され、二人のグルームズマン(伴郎)が慌てて捜索に走った。
三十分後。
「二階の男子トイレで李パパを発見しました!」 と報告が入る。
「お父さん、こんな所で何やってんの!?」
引きずるほど長いウェディングドレスを抱えながら、沐璇も捜索に加わっていた。報告を聞いてトイレに駆けつけると、個室から出てきた父・昶華は顔面蒼白で、目元にはうっすら涙まで浮かべていた。
「……ホラー映画を見てたんだ」
「結婚式の直前にホラー映画!?」
「俺は、人生で結婚式に参加するたびにホラー映画を見せられる運命なんだ」 昶華は遠い目をして言った。
ちょうどそこへ駆けつけた怡君は、昶華が何を言っているのかすぐに理解した。一度目は張志豪が伴郎を務めた時、二度目は二人の幽霊が曉軒たちに憑依して式に参加した時だ。
怡君はクスッと笑って言った。「張志豪が、どうしてあなたにホラー映画を見せたのか教えてくれたわ。『ホラー映画を見終わって現実に戻った時、家族がみんな無事にそばにいることに気づいて、もっと彼らを大切に思えるようになるから』だって」
「本当か?」 昶華は少し嬉しそうに言った。張志豪からはそんなこと一言も聞いていなかったからだ。
「嘘よ」 怡君はペロッと舌を出した。その仕草は、高校時代に見せた「悪気のない小さな謝罪」の表情そのもので、昶華は思わず見惚れてしまった。
「痛っ!」
隣にいた李ママが、夫の足の小指を思い切りピンヒールで踏みつけた。夫と怡君の間にどんな過去があったのかは知らないが、女性の直感で「お仕置きの時間」だと判断するのに一秒もかからなかった。
昶華は自分の娘を見つめた。今日の沐璇は息を呑むほど美しく、かつて自分が結婚した時の妻そっくりだった。自分自身も少し若返ったような気がする。ただ、どうしてもこの「婿殿(曉軒)」だけは、自分の娘にはもったいない気がして気に入らないのだが。そんなことを考えているうちに、妻に腕を引っ張られ、集合写真の撮影スポットへと連行された。
カメラマンが声を張る。「はーい、撮りますよー!」
黄韻佳と彼氏、李家の両親、曉軒の父、そして怡君がフレームに収まった。
「スイカは甘いかなー?(西瓜甜不甜?=台湾の『ハイ、チーズ』)」
「甘ーい!(甜!)」 全員が笑顔で答えた。
——時間は巻き戻り、あのお盆の日。
千元札を大切にしまった後、曉軒は紙に落書きをしていた。「金紙燃やして汗だくだろ、早くシャワー浴びてこい。もうすぐご飯だぞ」と父が呼ぶ声が聞こえる。
「はーい」 曉軒はペンを置いた。そこには、小さな男の子と女の子が並んで立っている絵が描かれていた。
「なんだその絵は?」 父が紙を指差して聞いた。
「これ? ラブレターだよ」
「お前、四角い枠の中にまた枠を描くから、てっきり『金紙』でもデザインしてるのかと思ったぞ」
「もう、父さんなんか知らない!」 曉軒は泣きべそをかいて部屋を飛び出した。




