【第30話】蘇った少女の過呼吸と、油鍋地獄の消化試合<冥銭>
——油鍋地獄。
「貴様が油鍋鬼王か?」 芸術鬼はふんぞり返って言った。「俺の記憶じゃ、油鍋鬼王はもっとハンサムだったはずだが。前の鬼王を追い出したのか? あいつはどこへ行った?」
「それを聞いてどうする気だ?」
「俺は、前の鬼王が孟婆を誘拐したと睨んでいる。孟婆を返してもらおうか」
周囲の空気が妙な緊張感に包まれた。亡者や小鬼たちが、ニヤニヤと薄気味悪い笑いを浮かべている。
「とっとと失せろ。二度と油鍋地獄に顔を出すな」 鬼王が凄んだ。
(マズい、何かおかしい!) 芸術鬼の直感がアラートを鳴らした。どうやって酒吧鬼と連携を取るか考え、視線を泳がせる。
その様子を見た鬼王は、ハッとして叫んだ。「こいつは囮(調虎離山)だ! 近くに酒吧鬼が潜んでいるはずだ! こいつらを捕まえろ!」
「酒吧鬼なんてただの役立たずだ! 俺様一人で十分だ!」 芸術鬼は、鬼王が周囲を警戒しているのを見て大声を上げた。「俺から目を逸らすな! 相手は俺一人だ!」 彼は両手を大きく振り回し、鬼王の注意を引こうと必死に叫んだ。
「お前みたいな『芸術鬼(ホラ吹き)』の言葉が信じられるか」
「俺の種族名を悪口みたいに使うな!」
ジリジリと距離を詰めてくる小鬼たちを見て、芸術鬼は逃走を決意した。
彼は拷問器具を蹴り倒して小鬼たちの進路を塞ぎ、煮えたぎる油鍋をいくつかひっくり返して足場をドロドロにした。小鬼たちはツルツル滑って立ち上がることもできない。芸術鬼はこの好機を逃すまいと、今度は自分の進行方向に油をぶちまけ、「足裏に油を塗って、トンズラだぁ!」と叫びながらサーフィンのように滑り出した。
小鬼たちもそれを真似て、油鍋地獄をアイススケートリンクのように滑り回り、あちこちで衝突事故を起こした。芸術鬼は逃げながら身を隠せそうな場所を探し、酒吧鬼への連絡手段を考えた。
身を隠すのに適した場所は、往々にして身代金や人質を隠す場所でもある。洗浄中の巨大な油鍋の中に飛び込むと、そこには——孟婆がいた。
彼女はランニングマシンの上を虚ろな目で歩き続けており、目の前には孟婆スープを作るための鍋やボウルが並べられていた。その道具に触れない限り、彼女が目を覚ますことはない。
それは、一万年もの間待ち続けた彼女の「執念」そのものだった。何かを信じて待ち続けるのが正しいのかどうかは誰にもわからない。だが、一度立ち止まってしまえば、これまでの努力がすべて無駄になる。「サンクコスト(埋没費用)」を直視できないのだ。果てしなく長い年月を、心を麻痺させ、夢現の状態でなければ歩き通すことはできなかったのだろう。
強大な力を持つ孟婆でさえ、自身の執念の前ではこれほどまでに脆い。目を覚ますことなど、本当はとても簡単なことなのに。
「目を覚ましてください、孟婆殿!」 芸術鬼は叫んだ。
「無駄だ。彼女の耳には、油を染み込ませた耳栓がしてある。喉が裂けるまで叫んでも聞こえんよ」
音もなく芸術鬼の背後に現れた油鍋鬼王が、唯一の出口をその巨体で塞いでいた。
鬼王は拳を握りしめ、号令をかけた。「油鍋の亡者ども! 芸術鬼は袋のネズミだ。必ずこの近くに酒吧鬼がいる、這ってでも見つけ出せ!」 小鬼たちは一斉に捜索を始めた。
「さて、お前だが」 鬼王は芸術鬼を見下ろした。「度々俺の邪魔をしてくれたな。お前を始末するのに、とっておきの方法がある。——『消化』だ」
「ま、待て! 牢屋に閉じ込めてくれればいい! 逃げないから!」
鬼王は芸術鬼をヒョイとつまみ上げ、自分の巨大な口の中に放り込んだ。芸術鬼の視界に、鬼王の歯の間に挟まった肉片が映った瞬間、腰に激痛が走り、門歯によって真っ二つに噛みちぎられた。
「ぎゃああ! 痛いィィィ!」 芸術鬼は先ほど囮になった時よりもずっとリアルに手足をバタつかせて絶叫した。「普通、小説じゃ丸呑みされて無傷だろうが! それなら胃袋の中から一発逆転のチャンスがあるのに!」
「知ってるさ。だが、よく噛んだ方が消化にいいからな。もっとたくさん食えるだろ」
「聞こえてるのかよ……」 芸術鬼の声は徐々に小さくなり、やがて完全に途絶えた。
一方の酒吧鬼も、息を殺して身を潜めていたが、もはや絶体絶命のピンチだった。ある油鍋の陰に隠れていたが、小鬼たちの捜索網が徐々に狭まってきている。移動しようとした瞬間、火をつけるための太い薪をうっかり踏み折ってしまった。
「しまった……今の俺が、腕ほどの太さの薪すら簡単に踏み砕けるほど『マッチョ』だってことを忘れてたぜ」 酒吧鬼は後悔しつつも、(今のセリフ、ちょっと自慢入ってたな)と心の中でツッコんだ。だが、その音で小鬼たちに位置がバレてしまい、一斉にこちらへ殺到してくる。
「クソッ」 酒吧鬼は近くの小鬼を数匹掴み上げ、油鍋めがけて投げ飛ばしたが、火が入っていない鍋だったため、小鬼たちは油の海を泳いで再びこちらへ向かってきた。
「これじゃキリがない」 いくら筋肉バカでも、この数の敵を相手にするのは無謀だ。すでに腕や胸には無数の引っかき傷ができ、服は破れ、鍛え上げられた筋肉が露出している。
「おい! 芸術鬼! 鬼王を倒したなら、見物してないで早く助けに来い!」
「何言ってんだ? 芸術鬼ならとっくに鬼王様に食われたぞ」 小鬼の一匹が嗤った。
「なんだと!?」
とはいえ、小鬼たちも「いくらなんでも芸術鬼が鬼王に勝てるわけがない」と直感しつつも、無意識に後ろを振り返ってしまった。酒吧鬼はその一瞬の隙を突き、抜舌地獄へと命からがら逃げ帰ったのだった。
(第30話 完)
実は最近、語学アプリの『Duolingo』で毎日コツコツと日本語を勉強しています。
モチベーションの源は、大好きな日向坂46です!特定のメンバーというより、グループ全体を応援する**『箱推し』**なのですが、彼女たちの頑張る姿を見ると、執筆も勉強も頑張ろうという勇気が湧いてきます。
いつか翻訳の手を借りず、皆さんの感想を完璧に読み解けるようになるのが目標です。
おひさまの読者さんがいたら、ぜひお勧め曲など教えてくださいね!




