【第3話】屋上の地縛霊と、地獄の偽造職人<冥銭>
——地獄。 酒吧鬼(バーテンダー鬼)が「馬蹄の刑」を受けている頃。 空から降ってきた金紙の一枚を拾い上げると、そこには歪な子供の字でこう書かれていた。
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『いーじゅんへ:
しょうがく1ねんの くらすには 「ちぇん・いーじゅん」が ふたり いたけど、 ぼくの めには きみしか うつってなかった。 ぼくは いつも かみきれを まるめて、 じょうぎの うえに のせて はじくのが すきだった。 きれいな ほうぶつせんを えがいて とんでいく かみだんご。 どれくらいの ちからかげんなら、 どこに おちるのか。 それを きろくするのが すきだった。
たくさんの しろい かみだんごの なかに、 ひとつだけ あたりを まぜておいたんだ。 ぼくの きもちを かいた らぶれたー。 きみに しられたくないけど、 きづいてほしい きもち。
でも きみは、 じぶんの つくえに とんできた かみだんごを いつも ゆかに はらいおとす だけだった。 そうじの じかん、 きみの まわりの ごみを ひろうのは いつも ぼくの やくめだ。 だって だれにも ばれたくなかったから。 とくに、 くらすに もうひとりの 「ちぇん・いーじゅん」が いる じょうきょうじゃ なおさらだ。
ちいさな かみきれじゃ ながい ぶんしょうは かけない。 だから ぼくは えいごを べんきょうした。 「I O U」なら さんもじで すむって きいたから。 そつぎょうまで きみが かみだんごを ひらくことは いちども なかったけど、 こうすいを しみこませた とくべつな かみだんごも、 ぜんぶ ごみばこ いき だった。
あの 67この **『いーじゅん I O U』**は、 ぼくの とどかなかった おもいだ。 はーとまーくを かくのが へたで、 いつも ただの まるに なっちゃうんだよね。』
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「誤字脱字すんなァァァ!! 『恩(I owe you)』じゃなくて『愛(I love you)』だろうがボケが!!」 芸術鬼は絶叫した。
「しかもなんで全部ひらがななんだよ!? 読みずれぇよ! 見つけ出したら、俺が受けた馬蹴りの痛み、倍にして返してやるからな!」
「『I LOVE U』の書き間違いか……子供だったからな」 隣で見ていた酒吧鬼が言った。「ていうか貴様、俺が馬に蹴られてる時にニヤニヤ見てたろ。全部お前の仕業だったんだな」
「あの金紙の束に、まさか十九枚も手書きのが混ざってるとは思わなかったんだよ!」 芸術鬼は言い訳した。「なんで俺と一緒に閻魔様に直訴しなかったんだよ?」
「俺は書いてあるなんて気づかなかったんだよ! 今やっと状況が飲み込めたわ!」 酒吧鬼は怒鳴った。
「貴様が他の馬の尻に頭から突っ込まれてるのを見て、関わりたくねぇと思ったんだよ!」
芸術鬼は無意識に自分の襟元を嗅いだ。……臭い。馬糞の臭いが染み付いている。彼は思わずえずいた。
現在、十九枚のラブレターがバーのテーブルに並べられている。 芸術鬼と酒吧鬼は顔面崩壊したまま、この「悪縁」を見つめていた。
「どうする?」芸術鬼が言った。「お前の店にはイージュンが山ほどいるんだろ? 一枚ずつ配ってみるか?」
「名案だな」酒吧鬼は冷ややかに言った。「金をもらえるのは嬉しいが、受け取った瞬間に馬に蹴られるんだぞ? 誰が欲しがるんだよ。……せめて名字が『陳』だってことだけはわかったが」
「……全然絞り込めてねぇよ」
ズズズ……と床が波打ち、蛮横鬼(ヤンキー鬼)が地面から生えてきた。
「「うわっ、びっくりした!!」」 芸術鬼と酒吧鬼の声が重なった。下層の地獄から上がってくる鬼ほど凶悪で、本能的な恐怖を感じるのだ。
「テメェらはとっくに死んでんだよ」 蛮横鬼は不機嫌そうに、金紙の束をテーブルに叩きつけた。
「混ざっちゃうだろ!」芸術鬼が文句を言う。
「お前、顔ボコボコだな。またやられたのか?」酒吧鬼が聞いた。
「他の鬼にやられたんだよ」蛮横鬼は吐き捨てた。「シャバから戻ったら一文無しだわ、馬に蹴られた八つ当たりでボコられるわ、タバコまで奪われたわ。全部テメェのせいだぞ」
「まあまあ、落ち着いて」
「落ち着けるか! 全部持ってけ!」
「はいはい、回収しますよ……」芸術鬼は金紙をかき集めた。
「おい、早まるな」酒吧鬼が止めた。「何か手はあるのか?」
「まあね。効果があるかは知らんが」
「あればいいんだよ」蛮横鬼は地面に潜って消えた。
「事がうまく運ぶといいがな」 酒吧鬼はビールを一本差し出した。「これは奢りだ。しっかり頼むぜ」
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