【第29話】金で買える青春と、孟婆誘拐事件<冥銭>
「なんだって!? 孟孟が誘拐された!?」 酒吧鬼は耳を疑った。
「馬面の家でお泊まり会をした後、孟婆亭に出勤する途中でさらわれたらしい」 芸術鬼が深刻な顔で言った。
「なんでそんな簡単にさらわれるんだよ!?」
「馬面の話だと、孟婆は『起床から出勤』までの間、体だけが自動操縦で動き、脳はまだスリープモードらしい」 芸術鬼が答える。「簡単に言えば、夢遊病みたいなもんだ」
「そんな孟孟の弱点を知ってるなんて、十中八九、内部の犯行だろ?」
「どうかな。孟婆スープを配るだけの単調な仕事だぞ? もし俺に夢遊病のスキルがあったら、間違いなく仕事中に発動させるね」 芸術鬼は『すべてを理解した顔』で言った。「それに、スープを飲んだ奴は全員記憶をなくすからな」
「記憶がないなら、やっぱり内部の奴が怪しいじゃないか」 酒吧鬼は頭を抱えた。「スープを飲んでも記憶を保持できる奴でもいない限り……」
「「三生石!!」」 二人の声が重なった。
「いや、あり得ない」 芸術鬼が否定した。「あの時、孟婆は夢遊病じゃなかったはずだ」
「俺も現場にいたからわかる。あいつは起きてた」 酒吧鬼も同意した。
「第一、動機がない」
「動機なんてどうでもいいんだよ」 酒吧鬼は何かダジャレでも思いついたかのように大胸筋をピクピクさせながら言った。「密室殺人と同じだ。犯人を捕まえてから『どうやって密室を作った?』って聞けばいい。孟孟を助け出してから、誘拐犯に理由を聞けば済む話だ。それに、悪党ってのは死に際になると、自分の動機をペラペラ喋りたくなる習性があるからな」
「……つまり、油鍋地獄にカチコミをかけると?」
「ああ、殺るぞ」
酒吧鬼はドンッとグラスの酒を飲み干し、テーブルに叩きつけた。火のようなアルコールが喉を焼き、丹田から胸へと熱い闘志が駆け上がった。
「戦装束だ」 芸術鬼はバーカウンターに、派手なアロハシャツ、革パン、金のネックレスを放り投げた。
「この革パン、撥水性が良さそうだな」
「だろう?」 芸術鬼は得意げだ。
「これなら、お前が転んだ時に『脳みそからこぼれ出た水(※バカの意)』で服が濡れなくて済むな」 酒吧鬼は鼻で笑った。「こんな派手な格好、一発でバレるだろ」
「正面突破するんじゃないのか?」
「いい質問だ。やはり少し戦略を練るべきだな」
「正面突破が一番早いぞ」 芸術鬼が煽る。「孟婆がいなくなれば、現世とのパイプが断たれる。孟婆スープは地蔵菩薩の夢と直結してるんだぞ。お前みたいな『無罪の鬼』は、狂ったように輪廻転生させられ、一番死にやすい畜生道をループさせられるハメになる。あの『顏敬秀(前世)』以降の一万年分の転生回数を、一年間に圧縮されて体験することになるんだ。どうやって生き延びるつもりだ?」
「……考える必要はなさそうだな」 酒吧鬼も少しゾッとして言った。「なんだ、お前も俺がまた転生するのが寂しいのか?」
「だ、誰が寂しいなどと! 貴殿が転生してくれれば、酒代のツケを回収する手間が省けるというものですぞ」 芸術鬼は口では強がったが、心は1ミリも硬くなかった。
「じゃあ、お前が正面突破してこいよ」
「おい! それは犬死にだろうが!」
「よく聞け、これを『調虎離山(ちょうこりざん/囮作戦)』と言うんだ。抜舌地獄で刑期を全うしそうなベテラン囚人のお前が、派手に暴れて敵の注意を引く」 酒吧鬼は親指と人差し指で顎を擦り、いかにも策士ぶって言った。「その混乱に乗じて、俺が孟孟を探し出して救出する」
「なぜ抜舌地獄の先輩であるお前が囮をやらないんだ?」
「俺はもう現場を退いて長いからな。すっかりカタギ(更生)になっちまった」 酒吧鬼は自慢の筋肉を誇示した。「この肉体がその証拠だ」
芸術鬼は完全に絶句した。
「万が一のことがあっても、血の池がお前をリスポーンさせてくれるから心配するな」 計画に自信を持ち始めた酒吧鬼は、孟婆なんていつでも助け出せる気になり、自分の筋肉の仕上がり具合をチェックしながら冗談めかして言った。「お前が名残惜しいのは、俺じゃなくてこの筋肉だろ? ……俺も同じ気持ちだ」
(第29話 完)
いつも読んでいただきありがとうございます。
実は最近、どうすればもっと多くの方にこの物語を届けることができるのか、いわゆる『PV(閲覧数)』を増やす方法について試行錯誤しています。
小説を書くのは楽しいですが、読んでもらうための工夫はなかなか難しいですね……。
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