【第24話】夢の中の馬蹴りと、豚小屋の覇王<冥銭>
「詹先生、助かりました」 養豚場のオーナーが言った。「人工授精で管理してるのに、たまに難産が出るんですよね」
ここは近代化された養豚場だ。生産効率を最大化するため、母豚の発情期を同期させ、一斉に出産させる。獣医は出産日にだけ来ればいい。
「間に合ってよかったです」 詹医師は、生まれたばかりの子豚(元・酒吧鬼)を抱きかかえていた。「この子はまだ弱ってる。診療所に連れ帰って様子を見ましょう」
「お願いします。詹先生なら安心だ」 生まれたての子豚には、歯を削り、尻尾を切り、鉄剤とワクチンを打つという過酷な儀式が待っている。 この子豚は鉄剤を打たれても顔色が悪く、今にも消え入りそうな命だった。
元・酒吧鬼こと**「ベーコン豚」**は、生まれて初めて見た詹医師を親だと思った(刷り込み)。
詹医師は、母豚の乳に吸い付く他の子豚たちを見て言った。 「これこそが家庭ってもんだよな」
帰りの車中。 バックミラー越しに後部座席のケージを見ながら、彼は独りごちた。 「心配するな、元気になるさ」
息子は自立しすぎて、家にいても客人のようだ。 それに比べて、この子豚の瞳は自分を必要としてくれている。 彼はいつしか、人間より動物を相手にする方が気が楽になっていた。
「お前はいい聞き手だな」 詹医師は愚痴をこぼし続けた。子豚は鳴きもせず、じっと彼を見つめていた。 「……少しだけ手助けしてやるよ。いつまで持つかわからんがな」
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詹医師の手厚い看護により、ベーコン豚は見違えるほど元気になった。 養豚場に戻された時、彼は他のどの子豚よりも一回り大きく、眼光は鋭くなっていた。
(俺の親父はあの人間だ。ここは仮の住まいだ) ベーコン豚はそう信じていた。
「乳だ」 ベーコン豚は母豚に命じた(ブヒッ!)。 母豚は彼の覇気に押され、壁際に横たわって乳房を晒した。
本来、子豚の世界には厳しい序列がある。乳の出が良い場所を巡って、兄弟同士で殺し合いに近い喧嘩をするのだ。 だが、すべての子豚が道を空け、最良の場所をベーコン豚に譲った。 争いはない。それが自然の摂理であるかのように。
母豚もまた、彼に魅了されていた。「大きくなったら戻ってらっしゃい」 ベーコン豚は無視して乳を啜った。
満腹になると、彼は一番乳の出が悪い場所にいる弱虫の子豚を呼び寄せ、自分の特等席を譲った。 全豚が驚愕した。
「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)」 前代未聞のカリスマ豚の誕生だ。 この豚にならついていける。ついていけば乳が飲める。 豚舎は一瞬にして彼の王国となった。
ベーコン豚が満足げに昼寝をしていると、体が発光しているように見えた。
「おや、詹先生が持ち帰った豚か。戻ってたのか」 オーナーがやってきた。「先生も忙しい人だな、去勢するのを忘れてるじゃないか。早めに取った方が肉質が良くなるんだよ」
オーナーは寝ているベーコン豚を無造作に掴み上げ、メスを取り出した。
「ボス!!」 他のオス豚たちが、かつて自分たちが味わった恐怖を思い出して震えた。
チョキン。
豚舎の王は、即位したその日に**玉**を失った。
(第24話 完)
最近、異世界ものの勉強をしています。 AIと「経済学で敵国を崩壊させる方法」を真剣に議論したのですが、 「効果が出るまで最低5〜10年はかかります」と諭されました。 長すぎます。読者が飽きてしまいます。 やはり、地獄の業火で燃やすのが一番手っ取り早いですね。




