【第13話】バスのBGMと、地獄のイケメン乱入者<冥銭>
「レディを泣かせるなんて、最低の男たちだね」 イケメン幽霊が割って入り、酒吧鬼(バーテンダー鬼)を突き飛ばした。
「お前……スープを飲んだはずじゃ?」 芸術鬼は靴墨まみれの口で叫んだ。
「三生石のそばで目が覚めたんだ」 イケメンは冷ややかに言った。「前世と今生の記憶がすべて蘇ったよ。……君たちとは違う、選ばれた存在のようだな」
彼は孟婆を椅子に座らせ、甲斐甲斐しく世話をした。 「こいつら、君をいじめてたのかい?」
「いじめてないよ! 俺たちは彼女を慰めてたんだ!」 芸術鬼が反論したが、顔に靴跡がついているせいで説得力ゼロだ。
イケメンは失笑した。「顔に足跡をつけてる奴が正義を語るなよ。……行こう、送っていくよ。君は酔ってる」
「ちょっと待て」 芸術鬼が食い下がった。「どこの馬の骨とも知れん奴に連れて行かせられるか! 悪党かもしれないだろ!」
「悪党?」イケメンは冷笑した。「一緒にスープを飲んだ仲だろ? ……それに、この地獄に『善人』なんて残ってると思うか?」
芸術鬼が怯むと、酒吧鬼が一歩前に出た。 「決めるのは彼女だ」
「……もう少し飲みたいわ」孟婆が言った。 酒吧鬼の顔がパッと明るくなった。
「酔っ払いの言うことなんて」イケメンが強引に腕を引こうとした。
「酒は『忘情水』とも言うんだ。彼女には今それが必要なんだよ」 酒吧鬼はイケメンを睨みつけた。「彼女は残ると言ってる」
「……さっき変な男が近づいてきたからスープを飲ませたんだけど、おかわりが欲しいのかしら?」 孟婆がうつろな目で呟くと、イケメンの顔色がサッと変わった。 足が震えている。ここは三生石のそばじゃない。記憶が戻る保証はない。
「……フン」 イケメンは手を離した。「孟婆、騙されるなよ。こいつらは地獄を混乱させた張本人だ。近づいてくるのは下心があるからに決まってる」
「なっ、なんでそれを!?」 芸術鬼が叫び、酒吧鬼に脛を蹴られた。「バカ、自白してどうする!」
「俺たちは問題を解決したいだけだ」 酒吧鬼は言った。「あなたの話を聞いて、俺たちはその『待ち人』を探す手伝いをしようと思ったんです」
「俺たち?」芸術鬼が小声でツッコミを入れた。
「本当?」孟婆の目が輝いた。
「ハッ、笑わせる」 イケメンは嘲笑った。「お前らの探し人メソッドってのは、金紙にラブレターを書くことか? それで地獄中がパニックになったのを忘れたのか? 同じ手が通用すると思うなよ」
孟婆は失望してうつむいた。「……結局、誰も私を救えないのね」
情報の非対称性が酷すぎる。イケメンは地獄の事情通だ。酒吧鬼たちは完全に劣勢だった。 具体的な解決策を提示できなければ、孟婆の信頼は勝ち取れない。
「図星か?」イケメンが追い打ちをかけた。
「……殴りてぇ」芸術鬼が歯ぎしりした。 「俺だってそうだ」
酒吧鬼は拳を握りしめ、イケメンを睨み据えた。 「天下無難事、只怕有心鬼(世に難事なし、ただ心ある鬼を恐れるのみ)。……たとえここが地獄でも、道はあるはずだ」
酒吧鬼は一語一語、噛み締めるように言った。 「たとえ……ここが地獄でもな」
(第13話 完)
ピアノを習い始めました。 「創作の原理は同じ」なんて思ってましたが、撤回します。隔行如隔山(専門が違えば山のように遠い)です。 キーボード(鍵盤)を叩くより、キーボード(文字盤)を叩く方が百倍楽ですね。




