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【第12話】パパの絶望と、BGMは演歌で<冥銭>

挿絵(By みてみん)

(本作の表紙イラストです!)

「ゴシップこそが最も偉大な芸術を生む」 芸術鬼はその言葉を反芻しながら、即興演奏に没頭していた。


彼は心配でこっそりバーに戻ってきたのだが、そこで見たのは、孟婆とダンスを踊る酒吧鬼(バーテンダー鬼)の姿だった。 (ダンスに音楽は不可欠だ!)


彼はカウンターの陰に隠れ、グラスに異なる量の酒を注ぎ、簡易的なグラス・ハープを作った。 最初は不協和音だったが、徐々にメロディを奏で始めた。


チン、チロリン……♪ 昭和歌謡のような、哀愁漂うメロディだ。


「……テンポが速すぎる!」 酒吧鬼は心の中で叫んだ。(しかもグラスの縁が欠ける音がしたぞ! 俺の高級グラスが!)


孟婆は数千年ぶりの酒ですっかり酔っていた。 彼女の目は潤んでいるが、その焦点は酒吧鬼ではなく、遥か上空を見つめていた。 (……元カレは俺より頭一つ分背が高かったんだな) 酒吧鬼は切なくなった。


「ねえ……三生石なんて、壊しちゃえばいいと思わない?」 孟婆がふらつきながら言った。


「え?」


「転生する人はみんなスープを飲んで忘れるのに、なんで私だけ覚えてなきゃいけないの? 忘れたいのに、三生石がまた思い出させるのよ!」


チンチロリン……♪ 芸術鬼が即興で歌い出した。 「♪忘れられない〜 彼への想い〜 諦めるのか〜 抗うのか〜」


「一万年間、辛かったですね」 酒吧鬼は芸術鬼の歌(騒音)を無視し、孟婆を慰めた。


「あなたに何がわかるの? どの鬼も私のことなんてわかってくれない」


「話してください。聞きますから」 酒吧鬼は優しく言った。「俺がいつも他人の尻拭いばかりさせられる男でも構わないなら」


「♪黙って帰れ〜 家があるなら〜 邪魔者オレは消えろ〜」 芸術鬼が自虐的な歌詞を歌う。


「……彼とは海辺で暮らしていたの」 孟婆は語り始めた。「彼は漁師で、貧しかったけど幸せだった。私は家計の足しに針仕事をしてたけど、彼はそれを嫌がったわ。『君には綺麗な服を着せてやりたいのに、こんな苦労をさせて』って、自分を責めるのよ」


孟婆の目から、真珠のような涙がこぼれ落ちた。 「私はただ一緒にいられればよかったのに……。ある日、台風で彼の船が戻らなかった。後で見つかった船には、血の手形が残ってたわ。彼は最後まで、私のために貯めたお金を守ろうとして……私のせいで、彼は手を離してしまったのよ」


「♪君は彼じゃない〜 翼もない〜 彼女に陽光ひかりは〜 届かない〜」 芸術鬼がサビを熱唱した。


「……すいません、ちょっとトイレに」 酒吧鬼は笑顔を貼り付けたまま、ムーンウォークのように滑らかに後退し、カウンターの陰に入った。


そこには陶酔した表情で歌う芸術鬼がいた。


ドゴォッ!! 酒吧鬼は無言で芸術鬼の顔面を踏み抜いた。 さらに、叫ぼうとした口の中に、自分の革靴をねじ込んだ。


「んぐぐっ!!」


「靴を吐き出すなよ」 酒吧鬼は耳元で囁いた。「次、一音でも出してみろ。四肢をへし折ってオブジェにしてやる」


芸術鬼は涙目でコクコクと頷いた。


酒吧鬼は靴を脱ぎ捨て、片足裸足のまま、びっこを引いて孟婆の元へ戻った。 (クソッ、靴下も脱いで口に詰めときゃよかった。靴下で歩くの恥ずかしい……)


孟婆は椅子に座り込んでいた。 酒吧鬼は隣に座り、何事もなかったかのように言った。 「お待たせしました。……続きを」


「私が死んで陰間に来た時、彼はもういなかった」 孟婆は泣きじゃくった。「彼は転生してしまったの。先代の孟婆が言ってたわ。『かつて、三生石を抱いて泣き崩れる漁師がいた』って。『記憶を消さないでくれ』って懇願した男がいたって」


「……あぁ」


「地獄を出る者は、例外なくスープを飲まなければならない」 孟婆は顔を覆った。「どうして待っててくれなかったの? どうして一人で行っちゃったのよ……!」


(第12話 完)


現実世界の月曜日の方が、抜舌地獄より辛い説。 この物語が、せめてもの現実逃避になれば幸いです。

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