【第11話】幽霊の習慣病と、孟婆の待ち人<恋文>
「さあ、学校を出られるか試してみよう」 張志豪が言った。
「そうね」 二人は頷き合い、いつもの癖で**「霊体すり抜けモード」**で教室の壁に向かって歩き出した。
ドゴォッ!! べたん!
二人は盛大に壁に激突し、鼻を強打して仰け反った。 「いってぇぇぇ!!」 「鼻が折れたかと思った……!」
(霊体あるあるだ。エレベーターに乗ろうとして、箱だけ上がってしまい、自分だけ一階に取り残されてドアを見つめるあの虚しさと同じだ……) 志豪は鼻を押さえながら思った。
「手をつないだだけでこれだ。ハグなんてしたら死人が出るぞ」 志豪は涙目で言った。
「じゃあ、試してみる?」 陳怡君——見た目は詹曉軒——が両手を広げて迫ってくる。 「よせ! やめろ!」 志豪(見た目は李沐璇)は後ずさりした。 まるで砂浜で「待てよ〜」「こいつぅ〜」と戯れるカップルのようだが、片方は本気で逃げていた。これ以上刺激を受けると気絶して、元の宿主に体が戻ってしまう恐れがあるからだ。
「遊んでないで、行くぞ」 気を取り直し、二人は校門へ向かった。 志豪は何の抵抗もなく、すんなりと校門を通過した。
だが、怡君は立ち止まった。 彼女にとって、校門の境界線はトラウマだ。過去に何度も脱出を試みては、見えない電気フェンスに焼かれ、黒焦げ(霊体的に)になった記憶が蘇る。 「……怖い」 彼女は目を閉じて縮こまった。
「大丈夫だ、俺がいる」 志豪は優しく言った。「目を閉じて、俺の手拍子の音についても来い」
それはまるで、初めて歩く子供を励ます母親のようだった。 ただし、志豪は忘れていた。 今の怡君(中身は曉軒)の方が、自分(中身は沐璇)より背が高く、ガタイもいいことを。もし彼女が倒れてきたら、女子の細腕では支えきれずに圧死することを。
「三歩進んで、三つ数えたら振り返る……あの要領だ」 志豪はとっさに言った。「後ろに倒れてもいい、俺が受け止めるから(多分)」
怡君は笑った。誰かが支えてくれる安心感。たとえ感電しても、一人じゃない。 彼女は勇気を振り絞って一歩を踏み出した。
「……もう通った?」 怡君がおずおずと聞いた時、その手はすでに志豪に握られていた。 直接触れるのは危険なので、志豪はワンピースの裾越しに彼女の手を引いていた。
「……出られた」 怡君は振り返り、感無量の表情を浮かべた。「ねえ、カフェに行かない? 学生時代、喫茶店って高嶺の花で入れなかったの。大人になってからは、毎朝コンビニコーヒーを流し込むだけだったし」
「いいね」志豪は自分のワンピースを探った。「でも、財布がない」
「大丈夫よ」怡君はニヤリと笑った。「詹曉軒のパパは太っ腹なの。デート代として一千元くれたけど、曉軒はずっと使わずに持ってたのよ。それに曉軒、最近結構稼いでるから、あたしの取り分もあるはずだし」
「勝手に使って、どうやって返すんだ?」 「金紙で返すわ」怡君は即答した。「彼があの世に来たら、倍にして返せばいいのよ」
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カフェにて。 店内に漂うコーヒーの香りに、怡君はうっとりとしていた。 時間がゆっくりと流れる。日が暮れれば体を返さなければならない短い時間だが、今はただ、この平和な空気を楽しみたかった。
ウェイターがホットコーヒーを運んできた。 怡君は待ちきれずに一口飲み—— 「ぶっ!!」 吹き出した。「に、苦い!!」
「大丈夫か?」
「な、何これ!? 毒薬!?」
霊体でいる期間が長すぎて、味覚がリセットされていたのだ。今の彼らは、ある意味で生まれたての赤ん坊と同じだ。
一方、志豪は平然と飲んでいた。 「……手をつないだだけで乾嘔いてたのに、コーヒーは平気なの?」
「地獄の苦しみに比べりゃ、こんなの甘露だよ」 志豪は苦笑した。「向こうじゃ食事自体が刑罰みたいなもんだからな。……逆に、幸せすぎると落ち着かないくらいだ」
「なるほどね……」怡君も恐る恐るもう一口飲んだ。「あたしも社畜になってから、ようやくこの苦さに慣れたっけ。過労死する人って、自分が地獄に落ちたことにも気づかないかもね」 「苦い……でも、生きてる味がする」




