【第1話】猛暑と冥銭、そして致命的な落書き<冥銭>
芸術鬼**はずっと疑問に思っていた。 歴史的に見れば、南斉の廃帝(473-494年)の時代にはすでに金紙を燃やす風習があった。しかし、人間界で紙幣が使われ始めたのは北宋(997-1022年)からだ。 つまり、あの世でテスト運用してから人間界に導入されたのか? それとも人間界は、四、五百年に一度のペースであの世からフィードバックを受け取っているのか?
もっと奇妙なことがある。 鬼門は七月一日に開くのに、人間たちが金紙を燃やし始めるのは七月中旬(中元節)だ。 地獄の十年は、現世の一年。 つまり我々亡者は、十年に一度のバカンスに来ているというのに、最初の半月(地獄換算で五年!)は無一文で過ごさなければならないのだ。 これは「最初の半月は大人しく家族に会いに行け」という強制力なのか? それとも世情視察期間なのか?
そんな疑問を抱きつつ、芸術鬼は今日も焼却炉の前にいた。 人間には「灰になった紙」しか見えないが、亡者の目には、銀行員よろしく綺麗に扇状に折られた金紙が、炎の中で一度消え、灰の中から再び完全な形で現れ、炉から溢れ出す様子が見える。 ただし、火は亡者にとっても熱い。火が消えるのを待ってから金を回収しなければならないのだ。
今日は、とある田舎の焼却炉の前で、もう一人の鬼と鉢合わせしていた。 二人は慣れた手つきで、炉の中の金を山分けにしていた。
「……これは、新しいシュルレアリスム的行為芸術ですかな?」 芸術鬼は一枚の金紙を拾い上げ、興味深そうに眺めた。「貴殿、これを見てくだされ。金紙にラブレターが書いてありますぞ」
「知ったことかよ(干我什麼事)」 隣で金をかき集めていた**蛮横鬼(ばんこうき/ヤンキー鬼)**が吐き捨てた。「テメェは黙って金だけ拾ってりゃいいんだよ」
「芸術を解さぬ者の心は、砂漠のように乾いているのですな」
「テメェが拾わねぇなら、俺様が全部もらうぞ」
「おっと、待たれよ!」
芸術鬼と蛮横鬼は、消えかけの火の中に手を突っ込み、金紙の奪い合いを始めた。鬼門が閉じる前に地獄へ戻らねばならない。ここを逃せば、次の給料日は十年後なのだ。 ここは人里離れた場所ゆえに競争率は低いが、獲得できる額も少ない。何度か顔を合わせるうちに、二人は奇妙な「山分け仲間」になっていた。
「テメェ、どこの地獄の所属だ?」と蛮横鬼。 「抜舌地獄です」 「だろうな。そのふざけたツラ、どうせインチキ絵画でも売りつけた詐欺師だろ」
「失敬な。私はただ、より多くの人に芸術を知り、理解してもらいたかっただけ。夢に向かって邁進していたのです」 「まだ自分が悪いと思ってねぇのか。テメェの腸が口から引きずり出される様が目に浮かぶぜ」
「では、貴殿は?」
「油鍋地獄の餓鬼道だ」
「ほう?」
「芸術以外には興味なしかよ! 餓鬼道ってのはな、生前横暴だった奴が落ちる場所だ。口に入れたモンは全部灰になっちまう」
「それは……少々悲惨ですな」
「ま、俺様はヘビースモーカーだからな。米一粒あればタバコに火がつけられて便利だぜ」
「便利すぎますな」
「便利すぎて困るんだよ」 蛮横鬼は深く溜息をついた。「最近、油の値段が高騰してやがる。餓鬼を一人油鍋に放り込んで水でも飲ませようもんなら、水まで燃え上がる始末だ。俺らをライター代わりにしてんのかって話だぜ。……おい、最近の供物、やけに甘ったるくなってると思わねぇか?」
「私はあまり食べられませんのでな。すぐに舌を噛んでしまうゆえ」 芸術鬼は肩をすくめた。地獄での刑罰で舌を引っ張られすぎたせいで、彼の舌はゴムのように伸びきり、口の中に収まらなくなっていたのだ。
「シャバに出てきても愚痴ばっかだな」 蛮横鬼が鼻で笑う。「生前は仕事の愚痴を聞かされるのが大嫌いだったが、死んでからもこれかよ。せっかく十年待った外出だってのによ」
「だからこそ芸術が必要なのです。こういう時こそ、美について語り合うべきかと」
「俺様は生前、人を殴るのが好きだったんだ。殴った感触について語ろうぜ?」
「例えば……拳が目の前に現れた瞬間、痛みを感じる間もなく頭が後ろに仰け反り、視界が真っ赤に染まる……といった感じですかな?」
「ケッ、殴られたことねぇ奴が書いた小説みてぇな表現だな」
「ほら、貴殿も芸術を解しているではありませんか」 芸術鬼はニヤリと笑った——舌は出たままだが。「芸術に必要なのは必ずしも真実ではありません。……それにしても、確かに最近の供物は甘すぎますな」
「今気づいたのかよ」 「すでに鬼籍に入った身ですので」
二人の鬼は軽口を叩きながら、鬼門が閉まるギリギリの時間まで金紙を拾い集め、それぞれの地獄へと帰っていった。 芸術鬼のポケットには、あの**「ラブレター付きの金紙」**がねじ込まれたままであることを、彼はまだ知らなかった。
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