表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/18

【第1話】猛暑と冥銭、そして致命的な落書き<恋文>

挿絵(By みてみん)

(本作の表紙イラストです!)

農暦(旧暦)の七月。学生たちの夏休みも後半に差し掛かる頃、台湾は一年で最も暑い時期を迎える。 アスファルトから立ち昇る熱気は、まるで喧嘩をした直後のように人々の眉間に皺を寄せさせる。この酷暑の中、元気なのは五月蠅うるさく鳴き叫ぶセミたちだけだ。


中元節ちゅうげんせつ。 これは中華圏において非常に重要な行事だ。死んだ祖先はただ遠い場所に旅立っているだけであり、あの世でできた新しい友人たち——通称**『好兄弟ハオションディ』**——と共に帰ってくると考えられている。「出外靠朋友(家を出れば友が頼り)」という言葉がある通り、自分の祖先だけでなく、無縁仏たちにも供物を捧げるのが習わしだ。


ジャン家の主は、早々と供物台をセットしていた。家族が好きなスナック菓子やカップラーメンが所狭しと並べられ、その隙間に大量の線香が突き刺さっている。線香はすでに半分ほど燃え尽き、灰が菓子のパッケージに降り積もっていた。


外にいるだけで拷問のような暑さだというのに、さらに火を使って**「金紙(ジンジー/あの世の紙幣)」**を燃やすのだ。その熱量は、人間から全ての水分を奪い去ろうとする勢いだった。 詹父さんは手早く終わらせるべく、冷房の効いた部屋から息子を呼び出した。


「あー、暑い……」


十二歳の**詹曉軒ジャン・シャオシュエン**は気乗りしない様子で外に出た。 近所の人たちも、午後三時きっかりに家の前で供物台を出している。彼らとは一年に数回、次は中秋節に顔を合わせる程度の関係だ。


曉軒シャオシュエンは父の真似をして、金紙の束を手に取った。 親指と人差指を巧みに使い、金紙を扇形にズラしていく。その手つきは、まるで**ベテランの銀行員が大量の札束を勘定している(札勘)**かのように滑らかだ。神聖な儀式というよりは、資本主義的な手際良さで、彼はそれを次々と焼却炉(金炉)へと投げ入れた。


その瞬間、炎が爆発的に燃え上がり、火先が曉軒の指をかすめる。何度やっても慣れない熱さに、父も顔をしかめていた。親子二人はまるでマラソンを走ったかのような滝の汗を流している。


「なんでこんなクソ暑い時に金紙なんて燃やさなきゃいけないの?」 曉軒はたまらず不満を漏らした。


鬼門きもんが開いてる時期だからな」 父は汗を拭いながら答えた。「冬に燃やしても、誰が受け取るかわからんだろ」


「今燃やしたって、誰が受け取るかわからないじゃん」 曉軒はさらに突っ込む。「僕らの風習って、ほんと金紙を燃やすのが好きだよね」


「我々は孝道を重んじる民族だからな」 父は苦笑いした。「祖先があちらの世界で不自由なく暮らせるように願うんだ。我々が生きていくのに金が必要なように、あの世でもやはり金次第なんだよ」


「例え祖先がいる場所が、十八層地獄だとしても?」


「ああ、そうだとも! もしあの世に公正な審判があって、罪を償えば生まれ変われるのなら……」 父はふっと遠い目をして溜息をついた。「今の世の中よりよっぽどマシかもしれん。現実ってのは、なかなか完璧にはいかないもんだからな」


一瞬、弱気な面を見せたことに気づいたのか、父はすぐに話題を変えた。 「そういえば、夏休みの宿題は終わったのか?」


「もうすぐ終わるよ。休みの間に、クラスの女子を遊びに誘おうと思ってるんだ」


「ははっ、うちは一、二年で転勤ばかりしてるから心配してたが、好きな子ができたか!」 父は嬉しそうに財布から一千元札(約五千円)を取り出した。「ほらよ。女の子に財布を開かせるんじゃないぞ」


一千元を受け取った曉軒は、燃え残っている金紙——それは一千元札を模したデザインだった——を見て、ふと混同しそうになった。 「ちょっと部屋に戻ってしまってくる。こんな大金、初めてだからさ」


彼は慌てて自室に戻り、お小遣い帳を開いた。 月のお小遣いは三百元。父さんがくれたデート代は一千元。 つまり、女の子とデートするには三ヶ月分のお小遣いが必要という計算になる。 ……なんか、コスト高くね?


もし父さんに交際を反対されて、資金援助を打ち切られたら? 三ヶ月間、無一文だ。 半分貯金したとしても、半年で一回しかデートできない。卒業まであと一年しかないのに、あと二回しか会えない計算になる。


「あ~~、絶対僕のことなんて忘れちゃうよ……」 曉軒は頭を抱えた。「どうすれば彼女に僕を覚えていてもらえるんだろう?」


彼は「使ってはいけないお金」と「デートプラン」を計算し始めたが、次第に妄想が膨らみ、気づけば手元にあった**「ある紙」に落書きを始めていた。 それが本物のお札ではなく、さっき手に持っていた「金紙」**であることも忘れて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ