備えあれば憂いなし
「メリドア、君との婚約を破棄させてもらう」
「……かしこまりました」
私メリアド・ハックリー公爵令嬢はとある夜会の場で婚約者から婚約破棄を告げられ大人しく頭を下げた。
(本当にこんな公の場で婚約破棄を告げるなんて……、王家主催だという事を理解していないのかしら?)
婚約破棄される、というのは実は知っていた。
なんせ隠しもしないで別の男爵令嬢とイチャイチャしているんだからすぐに噂になる。
そして、私の耳にも当然入ってくる。
私の耳に入ってきたのは1年前ぐらいなので、その間に私はこの日の為に準備をしていた。
私は人からは『真面目』と言われている、婚約者からしてみれば『つまらない』らしいけど真面目で何が悪い、と思う。
「今までありがとうございました、今後の事に関しては家を通してください。 私はお父様に報告しなければならないので失礼いたします」
「おい、理由は聞いていかないのか?」
「理由を聞いてもどうにもなりませんし承知済みですので」
そう言って私はカーテシーをして会場を出て行った。
報告する、とは言った物の実家に帰るつもりはこれっぽっちも無い。
このまま私は貴族社会から消えるつもりだ。
お父様には手紙を書いてそのまま勘当してもらう。
あの人は私に一切興味無いし邪魔になったら平気で切り捨てる人だ。
まぁ、切り捨てるのは私の方になるんですけどね。
こうして私は貴族社会から姿を消した。
姿を消してから1年後、私は新聞を読んでいた。
「やっぱりこうなったわね……」
「メリー、何かあったの?」
「隣国で貴族相手の詐欺集団が暴れている、て噂になったでしょ? その詐欺集団がどうやらこの国にもやって来たみたいよ」
「えぇ〜、……儲け話をふっかけて大金をせしめて行方をくらます、貴族ってこんなのに引っかかるの?」
「プライドが高いからこそターゲットになりやすいのよ、犯罪者達はそこをわかっているから」
私は同僚にそう説明する。
現在、私は冒険者ギルドに所属して冒険者として活動している。
名前も『メリー』と何処にでもいそうな名前にして冒険者登録した。
婚約破棄される前にたまたま新聞で見た隣国で貴族相手の詐欺事件を知った。
この詐欺集団は主に高位貴族を狙い被害を受けた貴族は生活がままならなくなって没落していった、という。
小さな記事ではあったけど私には引っかかったのだ。
そして念の為に対策を取ったのだ。
それが冒険者メリーとして生きる道だった。
魔術属性はあったので基本はソロ、たまにパーティーの応援をしている。
家も宿屋を渡り歩いているしダンジョンに籠る事もあるし国外にも行っているので私の行方を探そうと思っていてもそう簡単に見つける事は出来ない。
まぁ、私を探している、という噂も聞いていないのでもう忘れられているのか、それどころではないのか、と思う。
多分、これから没落していく貴族が多くなるだろう。
この国の行く末はどうなるかわからないけど私には関係無い。
私は私の為に生きていく。




