『試練』 その先にあるもの
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久しぶりの投稿。
剣の用意をするために2人で武器庫へ向かう途中、侍女の方に声をかけられて会議室へ向かうよう言われる。武器庫の近くにいたので適当に剣を鍛冶職員より見繕って貰い、急いで会議室へと走った。
するとそこには領主夫妻とその娘のエレミア。『試練の儀』で引率してくれるという騎士団第二部隊『隊長』アベルと騎士団第二部隊『副隊長』カイン。
さらに見知らぬ少年少女が三人いた。
もしかして……と思ったが口には出さず、カインの口が開いたのを見て黙って聞くことにした。
「これから明日行う追加の『試練の儀』訓練の詳細を説明します。ですがその前に自己紹介をします。サルヴァン様やエレナ奥様、アベルと私を知らない人はいないと思いますので割愛します。各六人とも自己紹介をしてください。まずはエレミア様、お願いします」
「エレミアです。道中、姉がご迷惑をお掛けすると思いますがよろしくお願いします」
と、エレミアさんは見知らぬ三人に頭を下げた。
レオンは驚いた。
まさか、まさか「エミー!あんたもこれに参加するつもりなの!?」と、隣にいたマリナが叫んだ。
「マリナ。言葉使い。聞いたとおりだから貴女も自己紹介しなさい」
穏やかに、だが、威圧感を込めて、大事な場だから少し静かにしていなさいという雰囲気を纏いながらエリナさんがそうマリナに言う。
微笑んでいるが正直レオンは怖いと思った。
「ぐっ…マリナ、よ。……よろしく」
流石のマリナも母親には勝てないらしく苦虫を潰したような顔で、かつ簡単に自己紹介を済ます。
「えっと…その」
そして自分の番になったがなんて言えばいいか分からない。
皆の視線を浴びて軽いパニックになってしまった。
「彼が、今回の追加試験を作ってくれた人物だ。先程話した通り、異人で、残り少ない寿命を延ばすために今回の『試練の儀』にて精霊達の加護を、得ることを目的としている。ちなみに彼が加護を得て全員が帰還した時点で三人とレオンくんの騎士団への入隊資格を査定する。おっと、レオンくん。挨拶だけでいいからしてくれないか?」
助け舟を出してくれたアベルにレオンは感謝しながら、目の前にいる三人とエレミア達によろしくとどもりながら伝える。
そんなレオンを笑うことなく全員が会釈を返してくれたことに心底ホッとする。ここで嘲笑されでもしたらただでさえ切羽詰まっているのに心が完全に折れること間違いないだろう。
「私の名前はベル。ベル=ファルスキーです。宜しくお願いします」
赤毛のポニーテールにした同世代と思われる女の子だ。
なんとなしに見ていると笑顔でウィンクをしてきたので、レオンは思わず赤くなってしまった。マリナ以外で同世代と話すなんてエレミアさんを除いていなかったんじゃなかろうか?
「ヤーコン=ウェラ=リン。至らぬところもあるかと思いますが宜しくお願いします」
こちらは黒髪のオールバックの長い三つ編みをした青年で、三人の中では一番年上に見える。
「僕はファラット=ムーヴ。このチームのリーダーをしていました。全員とも『試練の儀』は初めてですので、宜しくお願いします」
レオンより一、二歳年下に見える小柄な少年が全員に対し、頭を下げる。やはりアルテナでは実力主義をとっているのだと改めて実感。
「それではこれから『試練の儀』訓練の説明を始めます。アベル、頼みます」
「……カインがそのまま続けてもいいんだが(あなたの仕事でしょう!)分かった分かった。するよ。説明する」
ゴホンとわざとらしい咳払いをするアベル。
だが、次の瞬間にはレオンの背筋が凍るほどの真剣な表情で話し始めた。
「まずはこれを見てくれ」
と、レオンはアベルに恐怖を感じたことも忘れて、あんぐりと口を開けて目の前の光景に驚く。
大きい円卓の上には立体映像らしきものが映し出されていた。
……常日頃から思っていたことだけどこの世界の科学レベルは自分がいた世界より技術が上なのではないだろうか?正確に言えば科学ではないのだろうけど、前の世界での偉人の言葉だったか『充分に発達した科学技術は魔法と変わりがない』という文章が頭にこびり付いて離れない。この言葉はもしかしたら『魔法』にも言えることなのかもしれないとレオンは思った。
「…レオンくんは見たことがなかったかな?」
そう言ってアベルが、真剣な眼差しだが優しく笑いかけてきた。慌てて口を閉じて目の前の立体映像に目を向ける。
「『試練の儀』そのものについては殆どの者が知っていると思うが念のために説明する。……『試練の儀』とは我々アルテナ王国。初代アルテナ女王の意志を継ぐ対魔物部隊の入隊試験だ。我々7名は明朝より3日間、馬車を使用しての単独訓練を行う。目的こそ今回はレオンくんの加護取得だが、やることはいつもと同じ魔物に対しての討伐、撤退、生存の3つ。魔物との戦闘状態が継続的にあると思われる為、遠距離跳躍及び、緊急避難魔法・魔術共に使用禁止。万が一の時は魔物を生み出しているであろう『穴』まで突貫し、自爆する。全員覚悟はしておけ」
自爆という言葉が出てきた時点で流石に自分含めた何名かが息を飲んだ気がした。
アベルはそんな僕らを知ってか知らずか一呼吸置いてから再び口を開く。
「続ける。今回のルートだがこの街を出て北東へ、最終・第三・第二・第一防衛ラインを超え、東にある山脈へ向かう。現在の情報では魔物の発生率が徐々にだが上がっているとのことだ。運が良ければ『穴』を破壊することが―――」
その後、しばらく魔物を生み出す空間の穴の説明と対処、他の魔物や移動ルートの説明が続いた。
全部を理解出来ずとも、思いがけない事実(魔物が出現するのは『穴』と呼ばれる次元の綻びが原因だとか)が話されているのでなるべく聞き耳を立てていると、不意に視線を感じたので反射的に顔を上げた。
全員の顔を見回す。
誰も見てない……?
そう最初は思った。
誰しもがアベルの説明を聞いているように見えたからだ。
首を傾げ、また説明に集中しようと思った矢先、レオンはふと一人の人物を……思い出したかのように視線を彼女へ向けた。
真っ白な仮面をこちらに向けて、『彼女』は僕を見ていた。
不思議と、威圧感も、不快感も――――いつもの捕らわれるような魔性の魅力すらも感じない。
ただ、何故か今。
柔らかな既視感を。彼女を通して感じるような気がする。
それはまるで、遥か彼方へ置き去りにしていた昔を懐かしむかのような……
結局、しばらく視線を交わらせた後で彼女の方から目線を外した。しかし、胸の中に湧いた感情を残して視線に気が付く前と何ら変わりのない状況に、自分は白昼夢を見たんじゃないかと錯覚しそうなほどだった。
一体、こんな時に…とレオンはそこでアベルが重要そうな事を言っていることに気が付き、そちらの方へ意識を集中させる。
…まぁ、何かあるなら後日エレミアさんに直接聞けば分かるかなと頭の片隅で思った。
…やはり彼からは『何か』を感じる。
自分が微かに生み出す魔力にすら身体を蝕まれ、何の特殊な能力を持っていないはずの彼から…
『何か』が私に干渉する…
初めて会ったあの時から…
そう、マリナを助けに向かった馬車から二人が倒れているのを見た瞬間、確かに私は笑っていた…
気が付き、慌てて取り繕ったけど、カインさんには後で指摘されてしまった。
私は一体何に喜んだというの?
私は……美の女神の魂は何に喜んだというの?
不老で死ぬ危険性もまるでない女神が、自害してまで様々な脅威がひしめくこの中界へ転生してきたその理由…
生まれて初めて感じた胸の奥底から湧き上がる高揚感。
…………。
……答えは出そうに、ない。
だけど、彼が死ねば何か分かるかも。
マリナを、姉さんを、惑わし、取り入り、利用する彼が死ねば。
…でも、姉さんはそれを許さない。
自分が任務中に見つけたから?
自分の魔力が暴走した時に彼を傷つけたから?
結果的に助けられた形になったから?
同年代のトモダチがいなかったから?
自分に依存し過ぎる妹がいるから?
パパやママから気にかけられてる存在だから?
アベルが彼に好意的だから?珍しい銀髪だから?銀の瞳をしてるから?中性的な顔立ちだから?背格好からして年下だから?自然に甘えてくるから?何も出来ない・読めない・知らないから保護欲でも湧き上がってくるっていうの?
それとも……
……惚れた相手だから?
だから――――
だから、絶対にお姉ちゃんは付いて行く気なんでしょう?
死ぬまで、死んだ後さえも彼に付いていく気なの?
………。
だから、
この訳の分からない幸福感がなんだというの?
私はエレミア=アルトリアス。
偉大な魔法使いマーリンのひ孫。
私からお姉ちゃんを盗りながら、それを、自分で分かっているのにも関わらず……寂しいという理由だけでお姉ちゃんをずっとずっと、奪い続けるヤツの事なんて!
私が、お姉ちゃんを守る。
あんなどこの馬の骨とも分からないヤツに、お姉ちゃんは渡さない。
お姉ちゃんを連れて行かせない。例え、死にそうな時でも助けない。
私の、私だけのお姉ちゃんの関心を盗っていってしまったのだから。
――――――――――――――――――――
次の日――揺れる馬車の中、手綱を握るヤーコンの隣にレオンはいた。
馬車に乗り続けて数時間、少し気分が悪くなったので街道を流れる風に直接当たるためだ。
そっと肩越しに馬車の中を見ればレオンが座る外側の座席の後ろすぐ近くにマリナの顔が目に入る。
彼女も、風に当たって気持ちが良いのか時折耳をピクピクと動かしながら目を細めていた。
更に少し体をずらして奥を見れば、『広々とした』馬車の中でアベルと立体映像の地図を見ながら会話しているベル。さらにその奧には鏡のような表面をした大きな球体が馬車の中心に設置されている。
その直径1.5mぐらいの球体の中は機械で動く人型兵器の操縦席のような、中の壁や床・天井全て、360度全面に馬車の外の景色が映し出されていて、そこに『彼女』がいる。
球体も、この馬車も、サルヴァンの館の図書室と同じように中の広さを実際の大きさ以上にする魔術が組み込まれているらしい。そして、こちらからでは見えないが球体の向こう側、馬車の後部座席にはファラットが武器を磨きながら後ろを警戒している筈だ。
「緊張してるのか?」
隣にいるヤーコンが後ろをじっと見ていたレオンにそう訊ねてきた。
正直、実感がないので、あまり…と返す。その答えを聞いたヤーコンが苦笑を漏らしていたので、実感が無いことを伝えると彼は納得したように何回か軽く頷く。
「僕はかなり怖いかな。今まで先輩方の話を聞く限りでも相当辛かったと言ってるし、仲間を失った人も稀にいた。だから、緊張で堪らないんだ。現に今も、腕が震えてる」
傍目からはそうは見えないが、かなり緊張しているらしい。
レオンも実際に魔物と戦ったことがあるけどもあの時は何が何だか分からなかった上にあまり良く覚えてない。でも、うろ覚えの中でも記憶にあるのが、兎にも角にも魔物が際限なく自分とマリナを苦しめたという事実。
大人や騎士団の幹部達が繰り返し言うことの中に『魔物は弱い。だが、一番の恐怖はその無尽蔵の数にある。とにかく気をつけることだ』という話があるのも頷ける。
実際に、世界でも類を見ないほどの魔物が出るここアルテナ王国では一夜にして街が数カ所滅ぶという事件も過去にあったという。
「本番はこれから、ですね。僕も正気を保っていられるか不安です…」
ヤーコンに同意し、そう言った時、レオンは後頭部を小突かれる。
「あんたたちやる気あんの?」
呆れたようにマリナが2人を見ながらそう言う。
「しかし、マリナお嬢様」
「あーあー。言わなくて良い。気持ちは分かるつもりだから」
ヤーコンの抗議を制止しながらマリナはやれやれとばかりに首を降ってからそれで、と続けた。
「2人とも今回のメンバーを良く考えてみなさい!騎士団の中でも有数の実力者が2人もいるでしょ!」
そういえば、と言ったら酷いだろうか。
アベルは実質的な騎士団の精鋭部隊の隊長で、エレミアさんは大魔法使いと呼ばれた魔術師マーリンの血を色濃く受け継ぐ人物とか。
確かに心配することは無いかも知れない。覚悟を思い出さないと。そう言うヤーコンの表情は幾らか緊張がとれて吹っ切れたようだった。
だが、レオンは……アベルの言っていた言葉を思い出し、彼のように腹を括るのが若干辛く感じた。
『身を滅ぼしかねないほどの感情の高ぶりが必要なんだ』
果たして自分はどれほど自分自身を追い込むことが出来るだろうか?
日が差し込む森の中、あまり整備されてない街道を頼りに走る馬車。
朝からかれこれ数時間かけて街から森の中へ移動しているが、まだ幸いにして小規模の魔物の群れにしか遭遇していなかった。
結局その日は大した出来事もなく、森の中の丘の上で夜を過ごす事になった。貧乏くじを引いたファラットが見張り役をしている間に他のみんなで食事にする。
スープと銀色の紙で包まれた兵糧を渡されてレオンは少々緊張した。
以前、マリナから誘われて試しに食べた時は非常に苦い思いをしたからだ。またあんな思いをするのかと、包みすら開けてない銀色の紙で包まれた長方形の物体を睨みつける。
「レオン。この間のは結構苦いやつをあげたけど、今回のは大丈夫だからそう睨みつけてないで開けて食べなよ」
幾分か微笑しながらマリナがそう言いつつ、端っこの銀色の紙を取って、黄土色をした兵糧にかぶりつく。
レオンの視線を受けながらパクパクとほうばるマリナの姿を見て、レオン自身もようやく包みを開け始めた。
「…レオンさんはアレを食べたんだ?良く食べれたねぇ」
既に兵糧を食べ終え、コップに入ったスープを味わいながらベルがレオンに聞く。彼女は『ん゛~』と声を出しつつ、味わっていた。
「レオンでいいですよ。…まぁマリナの口車に乗せられたと言いますか。強引に食べさせられたとも言いますが」
それは災難だったなと、苦笑いをするアベルとヤーコン。ちなみに、マリナの抗議は聞こえないフリをした。
「ところでアベル隊長」
「ん。なんだヤーコン」
「今日1日でかなり進みましたが、いつもこの程度の襲撃しか起こらないのですか?」
「ふむ。無いな。今までここまで進んだことはない。むしろ、襲撃されるよりこちらから奇襲した回数が多いぐらいだ」
「すると…」
「くるだろうな。どでかいのが」
そうヤーコンとアベル隊長が話していると少し離れていたファラットの切羽詰まった声が聞こえた。
「アベル隊長!」
休憩、そして睡眠を取ろうとするレオン達に襲いかかる魔物達。
数は少ないが今までと違い、絶え間なく襲いかかる敵にアベルはすぐさまその場を離れるよう指示を出した。
寝ていた馬達を叩き起こし、逃げるように野営をしていた場所から去る一行。
数十分もすればそこは魔物の海に飲み込まれていた……
「知っていると思うが魔物の行動にはパターンがある。当たらないこともあるが奴らには規則性をもって生き物を襲っているのが今までの研究で分かっていて、我々騎士団が行うのはその規則性を逆手に取って奴らの数を減らすことだ。我々は決して真っ正面から戦ってはいけない。…私達の方が減らされ、全滅させられるかも知れないからな」
二つの月を意味深に見上げながらそう言うアベルはこの環境に慣れているようだが、他の面々は絶え間ない襲撃に神経をとぎらせて徐々に消耗していくのが目に見えて顕著だった。
逃げながら戦うというのはこんなにも怖いことだったのかとレオンは痛感した。
「ファラット。責任感があるのは良いがきちんと休息を取れ。でないとお前が足手まといになる」
「ヤーコン。気負いすぎるな。倒すことも重要だが足止めすることも視野に入れろ。今は倒す場面ではない。逃げる場面だ」
「ベル。手を抜くことは良い。むしろ、お前がこの中で一番撤退に向いているかもしれない。だが、抜きすぎると隣でガチガチに緊張しているレオンが倒れるぞ。自分のペースで戦うのは良いが味方に少しだけでも気を使ってやれ」
「マリナお嬢様…レオンが心配なのは分かりますが、指導中ですので軒並み倒さないで下さい…」
所々焦っている三人と違ってマリナやエレミアは流石と言うべきか自信と余裕を持っている。だが、当のレオンはアベルがベルへ言った通り終始、恐怖でガタガタと震えていた。
交代交代で休憩を取りつつ撤退&迎撃を行うが、夜が明け、朝になり、昼も過ぎて日も傾いてきた頃、アベルが淡々とした口調で呟いた。
「…狙われてるな」
「僕らが、ですか?」
やや驚きながら後ろにいたレオンを見るアベル。レオンはつい先ほど睡眠薬のお世話から脱したところだった。
寝惚け眼で簡易ベッドから、ゆっくりと起き上がる。そんなレオンに苦笑を浮かべる彼の視線はレオンから馬車後方を一人で守っているエレミアさんへ移っていた。
「長年、魔物と戦い続けている者は、彼らの『意思』を…個々ではなく総体としての『意識』を感じ取るようになるそうだ。俺はまだまだだが…騎士団の年長者やサルヴァン様達は薄々分かるらしい」
「…凄いですね」
「勿論、弊害もある。『助からない』ということも鮮明に分かるらしいな。『狙われてる。危険だと判断された。全てを持って潰される』…過去に遠距離通信でそう伝え残した者がいたらしい」
「アベル隊長…」
「俺は今、はっきりと分かる。彼らから完全に意識を向けられているとな。こんなことは初めてかもしれない」
言ってから彼はふっと笑顔を見せる。
「なに、これでも部隊を預かる隊長職だ。どんな事が起こっても部下は死なせんよ」
そう彼は不思議に誰もが安心するような笑みを浮かべながら言う。
僕はその言葉に、その笑顔に、『絶対に自分は死なない』と心の中で思っていたのかもしれない。
安心しきっていたのかもしれない。
だから、このざまだ。
他の三人は馬車に鎖で縛られ、マリナもぐるぐる巻きにされながらも僕へ手を伸ばし、なおも助けようとしてくれる。
身体が痺れ、動けず、ただみんなに頼りきっていた僕を。僕の名を。叫びながら腕を伸ばしてくれる。
それだけじゃない。
僕の傲慢がアベルをたった一人の戦いへと追い込んでいる。
小高い山の頂上にいる僕ら…いや、僕へと殺到する魔物の軍勢をたった一人で防いでいる彼を。
そう、僕の自己中心的な考えによってこんな状況になったというのに…
彼は、彼の言ったことを守ってくれている。
だというのに…
僕はそんなみんなのことよりも
いま、ぼくの目の前で、
死刑判決を下さんとする地獄の裁判官のような、
無機質な視線でぼくを見下ろす彼女のことが、
とても怖くて、他のことを考える余裕なんて無かった…
「…言い残す言葉はありますか?レオンさん?」
誤字脱字、ご感想等ありましたら頂ければありがたいです。