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レオンとマリナ

文字数(空白・改行含む):3621字

文字数(空白・改行含まない):3339字



サルヴァン達がアベルの報告を聞いて会議をする数分前――レオンはマリナの部屋の前に来ていた。

数回ほどしか来たことは無いが、レオンはここへ連れてこられたことがある。だけども……



こんな、重苦しい雰囲気でこの扉を叩くことになるとは思わなかったなぁ……



 どうしようもないことだけどそう思わずにはいられない。

とにかく覚悟を決めてドアをノックする。



コンコン



…………



………



……






応答はない。けど、確かにマリナはここにいる気がする。

何の根拠もなくそう思う。

さらに意を決してノックをした。



コンコン


「マリナ。いるんでしょう?」



見事な装飾と彫られた木製の扉ごしに声をかけてみると、向こう側の雰囲気が少し変わった気がした。

ならば、



コンコン


「マリナ。ここを開けて。君と話がしたいんだ」



「……開けてくれないならここでもう自分の命を絶つよ」



もし開けて貰えないならば本気でやろうか。そう思いながら言った瞬間、大きな音と共に扉が開く。…事前に少し下がっていなかったら危うく吹き飛ばされるところだった。



俯いたままのマリナが現れほっと一息。



「ありがとう。無視されたらどうしようかと、って、うあぁ!!」



僕は心配ないよとばかりに微笑んでそう言うレオンをマリナがその腕を掴み、部屋の中へ文字通りぶん投げる。

思わずレオンは叫び声を上げ、ごろごろと絨毯の上を転がる羽目になった。



「いっ……ててて……」



「どうして?」



「ん……?」



尻もちをつき、痛がる彼にマリナはその目の前まで来て頭の上から声をかける。

痛い腰をさすりながら顔を上げると、今にも泣きだしかねない……いや、泣いていたのだろう彼女は。

目元を赤くし、すんすんと鼻を鳴らしている。心なしかいつもははピンと立っている彼女のネコミミが今はぺたんと前に倒れていた。



「どうして私のところへ来たの?」


「私はあんたを、私の玩具にしてたっていうのに…」


「分かってるんでしょ?」


「私は、私には、友達と言える人も、遊ぶ人もいないって」


「だから、レオンをその代わりの玩具にしたって…」


「…自分の玩具がなくなるのが嫌で、あんたをこんな…こんな目にあわせたって」


「エレナママから聞いたんでしょ……?」


「私は、あんたと最初に会った時から、あんたが魔力に侵されることを知ってたってことも。レオンを施設に入れるならまた家出して……自爆してやるって言ってパパを脅したことも……」


「全部知ってて……どうして来たの?」




矢継ぎ早に言うマリナに驚くが、というかそんなことがあったのかとレオンは初めて聞いた。

自分が知っているのは彼女が自分を彼女の寂しさを紛らわす為に、加護を受けていない異人の施設に入れなかったということだけだった。



けど、



「マリナ。聞いて」



レオンにはそんなことはどうでも良かった。



「何よ……」



とにかく彼女をこのままにしてはいけないと思って、すっと立ち上がり、ぽろぽろと涙を流す彼女にレオンはハンカチを差し出す。

彼女は疑わしそうに、ハンカチと僕の顔を交互に見た。



「僕は知らないよ。そんなこと。それに、どうでもいいんだ。君が、僕に何かしたことは」



「え?」



正にあっけにとられ、綺麗な瞳を見開くマリナ。

そんな彼女に苦笑しながらそっと彼女の目元を拭ってやる。

驚いた表情の彼女はされるがままに涙とその跡をただ黙って――というより状況に追いつかないままレオンの作業を受け入れていた。



「……君がサルヴァン様を脅したことも。家出していたことも、僕は知らなかったよ。個人的に言えば、そんなことはどうだって良い。むしろ、僕をそんなに必要としてくれていて嬉しいよ。僕は」



「あんたちゃんと話聞いてたの!?私はあんたを玩具にしてたって言ってるの!!あんたの命を弄んでたって、どうしてそれを聞いてないのよ!?」



と、拭っていたレオンの手首を掴み、睨むようにしてマリナが叫んだ。

だがレオンは落ち着きを払って彼女に笑いかける。



「……聞いてたよ。僕は、マリナの玩具なんでしょう?なら、僕はそれでもいいよ」



今度こそ、マリナは驚いたようだった。

パクパクと口を動かすが、何かが言いたいにも関わらず何も言葉を発せない。

そんな彼女に、深呼吸を一回。レオンはここへ来るまで考えていたことを話した。



「マリナ。僕は一人ぼっちだったんだ」


「その時、君が傍にいてくれた。僕を必要としてくれた」


「何も知らなくて、君と会わなかったら魔物の餌になっていた僕にこの世界を見せてくれて、色々と教えてくれたのは君なんだ。さびしかった僕に、傍にいてあげるって言ってくれた。それが、僕を玩具にすることでも、僕にとっては嬉しいんだ。何の取り柄もない僕を必要としてくれたから」


「その、身体のことだけど……今更君に怒っても意味がないし、僕自身、施設に入っても今のままの自分でいられるか分からないし…なら、君に僕の運命を託す方がいいかなって思ってる」




「だから、君の玩具で良いから、寂しがり屋な僕と一緒に『試練の儀』を受けて欲しい。あと、僕にとっては君はかけがえのない友達なんだけど――君が僕を玩具だと思ってるなら……もし良かったら、『試練の儀』で無事に生き残れたら、だけど……」




「今度は僕の友達になってくれないかな……?」





自分が死にそうな身体だと言うのにも関わらずレオンは恥ずかしさで彼女の顔をまともに見れないでいた。


率直に「一緒に来てくれ」と言おうと思っていたにも関わらず、自分は何照れくさいことを言っているのか。

別に告白しているわけじゃない。ただ……自分のことを玩具だと余りにも彼女が言うので悲しくなっただけだってそれ凄く落ち込むなぁ…確かに、お嬢様なマリナにそう言うのは分不相応かもしれないけどって僕は何を考えてるんだ。

あぁ、混乱してる……




「あんたって」



「ん……?」



「…あんたってホント、馬鹿ね」



そう彼女は呟きながらそっとレオンの方へ体を寄せて、その華奢な体に腕を回した。



「マ、マリナ?」



「……こーいう時は、黙って抱き返しなさいよ」



「う、うん」



おずおずと、そしてガチガチに体を硬直させながらも言われるがまま彼女の柔らかな体へ腕を回す。

そんなレオンの様子に笑みを洩らしながら、マリナは彼の肩へ頬を寄せる。


自分がドアを開けなければ自害するとまで豪語した人が。


私がどんなにあなたへ酷いことをしたのか言ってもどうでもいいと突っぱねた人が。


さっきまで穏やかに微笑みを見せてくれていた人が。


・・・こんな些細なことで狼狽し、緊張で体をカチンコチンにしている。


これがおかしくないだろうか?



絶対に可笑しい。


だから、


絶対に可笑しいレオンだから……しばらくは、このままで。




――――――――――――――――――――




どれくらいの時間をそうしていただろうか?

数分にも感じられるし、数時間にも思えてくる。

ただ、分かっている事は静かに、お互いを気にかけながらその暖かみを伝え合っているということだけ。


こういうのも悪くないかも知れないなとレオンは当初より遥かに余裕のある心で、彼女の短い髪をそっと撫で続けていた。



「レオン」



最初に声をかけて来たのはマリナだった。

レオンはそっと腕を緩めて彼女と視線を合わせる。



「見届けてあげる」



「あなたの『試練の儀』を」



「あなたの、傍で」



いまだ赤い目元が残る彼女の瞳は、いつになく真剣で、とても優しい光を帯びているとレオンは思った。



「ありがとう。マリナ」



そして、二人でひとしきり笑いあった後、そう…この後をどうするか。レオンは抱き合っていた時からどうするべきか悩んでいた。



「それでマリナ…この後なんだけど」



「…え?な、何?」



予想外、という顔をするマリナ。

まぁ当然だろうとレオンは思いつつも言葉を続けた。



「僕、『試練の儀』って何するか知らないし…ちゃんとした剣とかも持ってないんだけどどうしたら」


「……あんたってホント馬鹿!」



言い終わる前に、レオンは彼女の頭突きを思いっきり喰らい、しばらく絨毯の上でのたうつ羽目になった。

それでもその頭突きはマリナは幾分遠慮気味な勢いだったが…何の予備動作無しに額へ貰った彼女の頭突きはレオンに確実なダメージを与えている。




「……ホンッと、私がいないと何も出来ないんだから」




そう両手を腰に当てて転げまわるレオンを背中越しに見る彼女の口元は、笑っていた。







誤字脱字、ご感想等ありましたら頂ければありがたいです。

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