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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
99/112

守っておくれ

その後、ふたたび店内に顔を見せた友人は、知己(ちき)二柱(ふたり)におずおずと頭を下げた。


『ごめんね? おっちゃんたち。 望月さんも』


申し訳なさそうに、どこか恥ずかしそうに。


小さな子供がそうするように、素直な態度でお()びの(しるし)とした。


「………………」


帰りの列車に揺られつつ、隣で寝息を立てる彼女の顔をそっと確認する。


本当に、今日は大変な一日だった。


疲れて眠ってしまうのも無理はない。


彼女の場合は、(れっき)とした気疲(きづか)れだろう。


安らかな寝顔の陰日向(かげひなた)に、(かな)しげなものが浮かんで見えた。


『父と話し合ってみます。 ちゃんと』


例の品々を、留保(りゅうほ)つきながら受け取った彼女は、それらを一度、きゅっと胸に抱きしめる仕草をした。


ほのっちにとって、そして史さんにとって、本当に大切な人が残した品物なんだろう。


そこに(きざ)まれた思い出がどんなものであろうと、赤の他人が干渉(かんしょう)することは許されない。


ふたりに(たく)された想いは、ふたりだけのものだ。


また、その想いを履行(りこう)するのか、それとも背負ってゆくのか。 それも彼女たちが決めることだろう。


『……普通の眼鏡じゃないですよね?』


友人が店内に戻るすこし前、(ふき)さんの目配(めくば)せに応じ、キャビネットから何やら取り出した(おり)さんが、これを私のもとへ注意深く寄越(よこ)した。


手のひらサイズの、綺麗な桐箱だ。


棚に並ぶ品々とは、また別口(べつくち)の物品だろうか。


(うなが)されるままに開けてみると、眼鏡が入っていた。


どこにでもあるような品だけど、この店が扱う代物(しろもの)である以上、恐らく常識は通用しない。


『それは“写し”だ。かの記録の写し……』


『………………』


『それを使えば、()ることができる。 あくまで観測するだけ。 貴女(あなた)の記憶には残らぬ』


『………………』


『ただ、魂には(しか)と記錄される。 それは貴女を導いて──』


『………ふざけてますか?』


なぜだか、無性(むしょう)に腹が立った。


思い出を(あつか)う彼らが、そんな。


大切な思い出に、赤の他人が土足で踏み込むような真似(まね)(すす)めるなんて。


『誤解してくれるな』と、吹さんはいたって真面目(まじめ)な顔で弁解した。


『その中に、恐らく糸口がある。 人間(あなた)にしか見えない糸口だ。 もしも……、もしもこの先、手に余る事態が持ち上がった時は、どうか迷ってくださるな』


『……それは、人間の私にしか出来ないっていう、あれですか?』


コクリと点頭(てんとう)した吹さんは、幼気(いたいけ)容貌(ようぼう)にあらん限りの哀切(あいせつ)(たた)え、(わら)にも(すが)るような調子で、こう唱えた。


『どうか、あの子と我が旧友(とも)を、守ってやっておくれ』


買い(かぶ)りだ。


それは、完全に人選ミスだよ………。


「ん………」


大きなカーブに差し掛かったところ、友人の身体(からだ)がふんわりと私のほうに寄りかかった。


華奢(きゃしゃ)な身体だ。


この(からだ)のどこに、あんな馬力(ばりき)(たくわ)えられているのか。


この躯でどうやって、私たちには想像もつかないような長途(ちょうと)の旅を続けてこれたのか。


「………………」


“守っておくれ”


吹さんの言葉を、改めて思い返す。


いつだって、守られ・助けられるのは私のほうだった。


そんな私が、彼女を、史さんを守る?


誰が聞いても、たちまち一笑(いっしょう)()すだろう。


きっと、私だってそうする。


ただ、受けた(おん)には(むく)いたいと思う。


人間(ひと)として、(あだ)で返すような真似(まね)だけはしたくない。


「んん…………?」


しょぼしょぼと薄目を()けた友人が、私の顔をぼんやりと確認し、眠たげな眼差(まなざ)しをふにゃふにゃと曲げて笑った。


それも(つか)()、ふたたび(おだ)やかな寝息が聞こえ始める。


「私が、守ってもいい?」


独り言のように(つぶや)いたものの、もちろん応答はない。


ほんのりと、(あかね)に染まる車窓(しゃそう)へと目を向ける。


詩歌(しいか)(ぎん)じるほどの雅趣(がしゅ)はないが、夕暮れ近い田園風景の中をひた走る列車に、ふと自分の有様(ありさま)(かさ)ね合わせた。


道なき道にレール()を敷き、じきに訪れる夜陰(やいん)に向かって、脇目も振らず突っ走る。


私に何ができるのか分からない。


どうすれば、彼女たちの役に立てるのか。


この手で守ると、大見得(おおみえ)を切ることはできないけれど。


とにかく、まずは闇雲(やみくも)でもいい。 なにか、自分にできることを探してみよう。


そんな(ふう)に、心に決めた。



地元に到着し、天野商店に帰り着く頃には、すっかりと日が暮れていた。


何やら、店内が騒がしい。


ふたり顔を見合わせ、中の様子を確認する。


「史さん、ずっと(そば)にいてください!」


たちまち、私の満面から血の()が引いた。


決意を固めた(はし)から、早速(さっそく)とんでもない修羅場に出会(でくわ)してしまったらしい。

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