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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
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思い出7


東白砂地区は、“都会田舎”という高羽の印象に、もっとも迫真する地域である。


新興の住宅地があれば、古今に渡る旧家もある。


コンビニが乱立しているかと思えば、いまだに現役の田畑が機能している。


アスファルトを踏む足が、いつの間にか土の道を踏んでいる。


そういった、どことなく長閑(のどか)な地域内に、魔の貯水池はあるわけだ。


充分な聞き取り調査が終われば、あとはフィールドワーク。 実地調査あるのみだった。


お盆まえ。 本年の夏も、いよいよ佳境を迎えようかという頃。


私たちは、(くだん)の場所へ向かうことにした。



“たこやき公園”というのは、あくま俗称である。


正式な名称こそ失念してしまったのだけど、たこ焼きの形をした滑り台があって、そんな風に呼ばれていたと記憶している。


園内には、他にもいくつかの遊具が設置されており、一般的な公衆施設として、その面目を保っていた。


公園の北側には、自治会館の建物が隣接している。


「もう無いね?」


「ん? なにが?」


「ほら、立ち入り禁止の。 こういう──」


「テープだろ? 黄色いヤツ!」


「そうそう!」


出入り口は、北側に二ヶ所。 南側に一ヶ所のみ。


この内、自治会館から通じる北西の出入り口を利用して、いざ公園内へ。


入ってすぐ、右手に銀杏(いちょう)木立(こだち)があって、ちょっとした林道を形作っている。


それは、園外の畦道(あぜみち)へ通じており、つまりは(くだん)の貯水池に向かう際の、唯一の接続口だった。


「よし! 行く? 行こっか?」


「おう!!!」


幼なじみが、彼にしては珍しく上擦(うわず)った声で吼えた。


余程に緊張しているらしく、いつもの軽妙な雰囲気は微塵も感じられない。


「モッチーちゃん、本当に大丈夫かな……?」


「ん。 危なくなったら、すぐ逃げよう」


他の面子(めんつ)も、かたい表情で林の向こうを見つめている。


なにがあっても不思議じゃない。


ふと違和感を知って、近場の銀杏(いちょう)に目を留める。


よく肥えた(みき)の中ほどに、立派な風体の小刀(しょうとう)が、ひっそり(かん)と突き立っていた。


まるで、己の縄張りを示す標章のように。


いま思えば、まったくゾッとしない絵面であるが、その時の私たちはなぜか気にも留めなかった。


あれはある種の(まじな)いであり、そういうものなのだと、当事者の口から説明を受けたのは、いま現在こうして筆を取る私からすると、たった数日前の出来事である。


あの日から数年、そのお呪いとやらがようやく効力を失ったのか。あるいは私が大人になったのか。


その辺りの事情は、考えるだけ野暮のような気さえする。

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