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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
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思い出6


「それ完全にザリガメだよな!? マジか!」


幼なじみが、鼻息を荒くして(まく)し立てた。


「……やっぱり居るんだ? ザリガメ」


べつの幼なじみが、彼女にしては珍しく、おどおどした声で言った。


「モッチーちゃん、どう思う?」


「え?」


どうしてあの時、私に話を振ったのだろうかと、幼なじみの心の内をよくよく吟味する。


友達内で、特にリーダー格を気取っていたつもりはないし、その資質もない。


恐らく、情熱が人一倍だったのかも。


私は、ザリガメの正体を何がなんでも知りたかった。



警察まで動き出した以上、これはもう並みの事態ではない。


ひとり歩きを始めた噂話が、市民の生活を圧迫しつつある。


こうなると、もはや嘘から出たまこと。


“もしかすると、いるのかも知れない”


その程度に感じていたザリガメの存在が、いまや確信に変わりつつある。


あの貯水池には、きっと信じられないような生物が()んでいて、隙あらば人間を引きずり込もうと狙っている。


それなりの義勇心はあった。


また、おもしろ半分に噂を流布させた者として、幼気(いたいけ)な責任感もあった。


話し合いの結果、“ザリガメ調査隊”が発足したのは、その日の夕刻のことだった。



まず、私たちが手始めに(おこな)ったことは、周辺住民に対する聞き取り調査。


真実を模索する上で、もっとも重要なのは情報の良し悪しだろう。


無視のできない事柄と、話半分に止めるべき事柄。


状況に()らず、これらを精査する眼が大切なのである。


しかしそれとて、雑多なピースが集まらないことには始まらない。


それにはまず、自分の足に頼ることが肝要である。


自分の目で見て、耳で聴いて、少しずつピースを埋めてゆく。


祖父の教えだ。


(こう)ちゃん、なにそれ?」


「お? 武器だよ武器!」


とにもかくにも、子どもは何事にも形から入る。


数名の男子は、嬉しそうにエアガンなどを装備して、映画やアニメに出てくるヒーローになりきっていた。


かく言う私の得物は、メモ帳にペン。 それに、年季の()ったMFカメラだ。


有象無象が(ひし)めく知識の大海で、唯一の後ろ盾となるものと言えば、(まが)うことなき“証拠”である。


往々にして、真実とはありふれた事物の中にこそ(ひそ)んでいる。


どんな些細(ささい)なことも、見落としてはいけない。


これもまた、小さい頃から散々にも聞かされた祖父の教えに沿()うものだった。


「あ! 先生のお孫さん? 今日はどうしたの?」


聞き取り調査は、思っていたより順調に運んだ。


これは、ひとえに実家の体面によるところが大きく。 祖父に対する敬愛が増したのを、よく覚えている。

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