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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
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思い出5


「パトカー来てた! マジで!!」


「公園、立ち入り禁止にするって聞いたよ?」


所は、当時の私たちが根城とした秘密基地である。


友達の家の、ちょうど裏手を流れる小川。


その岸に群生する背のたかい草々を折り束ねて(こしら)えた、居心地のいい場所だ。


ただし、秘密基地とは言っても、特にそれらしい設備を整えているわけじゃない。


この場所の存在を知る何名か。 それぞれ暇を持て余せば、各自お菓子など持ち寄って適当に(くつろ)ぐ。


そういった目的で設置された、これと言って中身のない秘密基地だった。


しかしながら、ロケーションとしては最高なんじゃないのかなと、未だににふと思い返すことがある。


緑の絨毯(じゅうたん)があって、せせらぎの(りょう)がある。


屋根などいらない。


頭上に生い茂った緑樹の葉々が、真夏日をよく(さえぎ)ってくれる。


よしんば雨が降ったとしても、すぐそこの友達宅へ、さっさと裏口から逃げ込めるという寸法だ。


あとは、夜にホタルなど見れれば完璧だった。


そんな場所で、本日も気ままに夏休みを謳歌する私たちの元にも、(くだん)のニュースはもたらされた。


謎の生き物に、人が襲われたのだという。


被害者は、たこやき公園の近所に住む会社員。


なんでも、子どもと公園で遊んでいたところを襲われたらしい。


詳細は以下の通りである。



徐々に気温が上がり始める朝方のこと、幼子に催促されてキャッチボールをした。


ふとした頃合いに、子どもがたどたどしく投げたボールが、あさっての方向へ飛んでいった。


それを追いかけて、田んぼの畦道(あぜみち)を駆ける。


貯水池に落ちなくてラッキーだったと考えつつ、草地に没したボールを拾い上げる。


そこで、ふと気配を知った。


何事かと思い横合いをみると、貯水池の(よど)んだ水面に、何やら妙なものが透けている。


それが何物であるか、喫驚(きっきょう)のうちに把握する間もなく、激しい水音が鳴った。


現れたのは大きなハサミで、色合いは紅褐色をしており、スケールは重機のそれに似つかわしかったという。


あとはもう、死に物狂いだ。


子どもを抱き上げて、懸命に逃走した彼に、重篤な被害はなかった。


逃げる途中、膝小僧を擦りむいた程度である。

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