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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
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思い出3

その日を境に、私の探求心に火が着いた。


お家柄か。 それはじつに真っ当な心模様ではあったろう。


ザリガメという未確認生物。


そのディテールを、あれこれ想像するのも楽しかった。


“ザリガメ”というからには、やはりハサミを持っていて、背中に甲羅を負っているのかな?


どんな姿をしていて、どんな生態をしているのか。


クラスメートと交わす空論にも、より一層の熱が()もる。


先述の、友達が見たという証拠画像は、残念ながら拝見する機会がなかった。


けれども、その分だけ余計に想像をかき立てられる。


人を襲うということは、それなりに大きな個体なのか。


襲う意図は?


クラス中で取り交わされる、あつい議論。


“ザリガメ”のフォルムも、次第に固まってゆく。


そういえば、クラスで行われるザリガメ論争に、かの友達が加わることは、(つい)ぞ無かったように思う。


知る(よし)もなかったと言えば、その通りだろう。


彼女が見たという写メール画像は、それほどまでに恐ろしいものだった。


彼女の知人が体験した恐怖は、筆舌に尽くし(がた)いものだった。


それら、諸々(もろもろ)の事情など、純な冒険心に駆られた子どもたちにとっては、本当に知る由もないことだった。



こんにち語られる都市伝説の多くは、些細な噂話を発端とする。


どんなにリアリティを帯びていようとも、薄皮をめくれば真実が見える。


ひどくお粗末な化けの皮だ。


大人たちは、それを剥がすのが上手である。


「ザリガメだっけ? いま流行(はや)ってんの。 小学校で」


「ん。 そうだよ?」


「やっぱりなぁ。 お嬢の学校もそうかー? やー、うちの孫もなぁ? そのザリガメに夢中でなぁ!」


身近な大人たちは、屈託のない噂話に一喜一憂する私たちのことを、微笑ましく見ていたように思う。


「おっちゃんが子どもの時分はなぁ? 口裂け女ってのが流行ってなぁ」


などと、童心にかえる人もいれば、その限りではなく。


「煮干し! ランドセルに、煮干しの臭いが染み着いちゃって!」


子どもたちの真摯(しんし)な取り組みに、目くじらを立てる大人たちもいた。



あれはたしか、夏休みを目前に控えた、ある日の朝礼の折りだったと思う。


「ザリガメという生き物はいません。 あまり変な話はしないようにしましょう」


全校生徒のまえで、校長先生が真面目(まじめ)にそう(のたま)ったのを、よく覚えている。



そうして、私たちは長期休暇に突入し、気熱を帯びたザリガメ論争も、一応の終結をみるかに思われた。


けれども、事件は起きた。


8月の初旬。 夏休み真っ最中のことである。

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