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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
43/112

事実は小説よりも

栄市の春見地区は、市の北西部に位置する中規模の行政区である。


おおむね平坦な土地柄は、暮らしの便にも事欠かず。 ちょうど街道筋にあたることから、人や貨物の流入が古くから(さか)んな地域でもあった。


中でも、地区の中心部。 “春見大社”の周辺は、中古代から市街化を推進し、鳥居前町として発展してきた歴史をもつ。


参道には往年のアーケード街があって、大型スーパーとの競合にもめげず、種々の店屋が景気よく(あきな)いを続けていた。


「顔見知りなの? 春見さんの御祭神」


「いんや、会ったこた無えな」


春見大社を訪れようと提案したのは大将(史さん)だった。


ふゆさんがこの土地に(ゆかり)のある者なら、何かしら手助けを請えるのではないかと。


「いきなり行って、大丈夫なもの?」


「ん? ほれ、友達(ツレ)(うち)来ても追い返したりゃしねえだろ?」


「でも、友達じゃないんでしょ?」


「まぁ……、手土産くらい持ってくか」


アーケード街を抜けると、神社の参道に似つかしい景観が広がっている。


老舗の団子屋に、土産物を扱う店。 最近では、古都の風情に(あやか)って、浴衣のレンタル店なども見受けられるようになった。


「この辺来るのも久しぶりだねー……」


「滅多に来ねえもんなー、春見(こっち)の方は」


「私はこないだ来ましたね。定例会で」


「定例……。あ、巫女さんの? いつも大社(ここ)でやるの?」


「や、まちまちだよ? 高羽(うち)でやる事もあるし、その辺でやることもあるし」


ジリジリと照りつける陽光は、今が梅雨期とは思えないほど容赦のないものだった。


うっすらと陽炎が立つ参道は、よそ者の私からしてもどこか懐かしく、(ひな)びて見える。


あれはたしか初詣だろうか。 祖父に手を引かれ、この道を歩んだ幼い日のことが、ふと思い起こされた。


不意に、伸びやかな銀光に鼻先を(くすぐ)られた気がして、そちらに意識を向ける。


「何か思い出しそうですか?」


「はぁ………」


黙々と歩む彼女の足付きに、どうやら迷いは無いようだ。


当て()なく歩き回った午前中の様子とは、明らかに様変わりしている。


ちょうど、長いドライブの末に、ようやく地元の風景を目にした時の安心感と言おうか。


いまの彼女は、どこかそれに似たものを感じさせた。


「ヤベ。 神御衣(ふく)持ってきてねえや、そういや」


「私だって持ってきてないよ巫女装束(ふく)。 けどまぁ、正式のアレじゃないから、そんなに」


「お前、会ったことあんのか?」


「御祭神? ないよそんなの。 あ、でも肖像画? は前に一度見せてもらった……、こと……、あ」


「あん?」


それは、大社の周りに配された豊かな(もり)に差し掛かった時のことだった。


「ひめ……っ!? 姫さまぁ!!」


「うわ……」


玉垣を勢いよく飛び越えた女性が、いきなり私たちの前に躍り出た。


一般的な巫女装束を身につけた年若い女性。 片手に塵取(ちりとり)を、頭には無数の枝葉をあしらっている。


どうやら当の大社に奉仕するものらしい彼女は、唖然とする私たちを余所(よそ)に、ふゆさんに飛びついて“姫さま!姫さま!”と連呼した。


「お前……、その肖像画見たんか?」


「え? あ……、見まし、たね?」


「へぇ? どんなだった?」


「や、いい絵でした。とても」


「んなこた()いちゃいねえや」


程なく、騒ぎを聞きつけた他の巫女衆に神官らが、鳥居の方からドタバタと血相を変えて飛び出してくるのが見えた。


「姫さま!」


「お(かみ)!」


「よくぞご無事で……!」


「とにかく、とにかく境内(なか)へ!」


口々に快哉(かいさい)を叫び、渦中のふゆさんをもみくちゃにした。


正直なところ、この場所で何か手掛かりの一つでも見つかればいいと、私たちは最初そんな風に思っていた。


ところが、蓋を開ければこの通りだ。


「あの……、そちらの方って、やっぱり……?」


「あぁ! すみません。 お連れくださったんですね。本当に助かりました」


「うちの祭神がお世話になったようで」


事実は小説よりも奇なりと言うが、むしろ小説のように段階を踏む必要がない分、現実ではあらぬ出来事が、あらぬタイミングで起こる事がままある。


「ささ、あなた方もこちらへ」


「お疲れでしょう? 本当にもう、この度は」


「あら? 其方(そちら)さま、ひょっとして禍津(まがつ)──」


事態が急転したのは、その時だった。 


現場に居合わせた神職に巫女、それに天野父娘の顔色が、そろって一変したのである。

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