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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
39/112

記憶の行方

これは非常に難しい。


その“落とし物”とやらが、いったい何なのか。 本人をしても分からない以上、探しようが無い。


「たとえばな? それのサイズっつうか……。 小さいもんか、大きいもんか、そいつも分かんねえのかね?」


「はい……」


午前9時の到来を知らせるべく、壁掛け時計がメルヘンチックな音色を奏でた。


「うーん……」


「………………」


彼女が抱える最たる問題は、落とし物云々(うんぬん)の前に、やはり“記憶障害”であるということだろう。


その症例は多岐に渡るというが、ふゆさんの場合は記憶の欠落。


素人においそれと手を出せる範疇じゃない。


「医者に連れて行くっていうのは」


「そりゃ無しだろ。人間ならまだしもなぁ」


「だよね……」


記憶障害。


それが単なる混乱に過ぎないのであれば、時間という万能薬が、いずれは解決してくれるのかも知れない。


しかし、彼女の症状を鑑みるに、希望的観測に頼るのは悪手のような気がする。


当の本人はというと、相変わらず“ふわふわ”


何とも言い知れない雰囲気をまとっており、特に困っている風には見受けられなかった。


だからと言って、このまま捨て置くことなど出来る(はず)もない。


「じゃあ、私たちが手伝いましょうか? その、落とし物を探すの」


そう提案したのは友人(ほのっち)だった。


それが妙案かどうか、専門家でない私には分からない。


けれど、光明はあるような気がした。


記憶とは、いわば人生の帳簿である。


これまで、自分がどのようにして歩んできたか。 なにを見て、なにを感じたか。


それら、逐一(ちくいち)の情景を記した帳面であり、本来なら自分だけのものだ。


ゆえに、それを探すという行いは、何から何まで他人任せにできるものではない。


しかし、他者(私たち)にも手助けくらいはできる。


彼女の言う“落としもの”に秘められた何かを解き明かすことによって、あるいは。


「………………」


当のふゆさんは、不思議そうな様子でふわふわと小首に角度をつけてみせた。


相変わらず表情に乏しい先方のことなので、どのような情趣かは判らない。


けれど、その様子はどこか、感謝を表す印のような。 私の目には、そんな風に映った。

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