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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
37/112

新たな謎


泣きながら目覚めたのは、それが初めてだった。


よっぽど悲しい夢を見たのだろう。 生憎と内容の方は朧気で、細部を思い起こすことは出来ない。


恐らく、昨夜の出来事を基調にした夢だったと思う。


夜の学校で(まみ)えた束帯姿の少女。


彼女の泣涕に混じる“姫さま”という気になる語義。


「あぁ………」


本当に、哀しい夢を見た。


ともあれ、今は浸ってばかりも居られない。


今朝はすぐに天野商店に集合の予定だ。


なにも、休日の朝一から遊びに訪れるワケじゃない。


のろのろと着替えつつ、昨夜のことを思い返す。


近くでスヤスヤと眠る幼なじみ(タマちゃん)を起こそうかと思ったが、あまりにも気持ちよさそうな寝顔のため、もう少しだけ寝かせておくことにする。



あの後、言葉少なに帰路についた私たちは、ひとまず天野商店の軒下を借りて、頭内のクールダウンに努めた。


さすがに折り合いをつけないと、頭がパンクしそうだった。


「あれ、お化けなんだよね……?」


「う……。いや、でもほら! 悪い奴じゃないって、穂葉ちゃんが」


「でも、お化けなんだよね……?」


雨脚はさっきに比べると少し落ち着きを見せており、物静かな雨音が辺りに柔らかく満ちていた。


その模様が、どうにもあの束帯姿の少女を連想させるのは、彼女の涙を間近に見てしまった所為(せい)か。


あるいは、魅入られたか。


「ラムネでいいですよね?」


「あ、うん。ありがと」


看板娘の手ずから受け取った炭酸飲料を、一気に喉に流し込んだところ、途端に生きた心地が湧き上がってくるような気がした。


(せい)の実感をやっと得られた。


そんな風に表すのは大仰かも知れないが、ただのラムネをあれほど美味しく感じたことは無かった。


「……今日泊まる? 私ん()。ベッド使っていいから」


「は……? はぁ!? お前なに言ってん……っ」


「私は千妃ちゃん()に泊まるから、お母さんたちによろしく言っといてね?」


「お前マジでなに言ってんの!?」


これは幼なじみ達も同様だったようで、少しは元気が戻った様子だ。


ひとまず胸を撫で下ろす。


折しも店の前を通りかかった会社員らしき男性が、微笑ましげに、どこか羨ましげに寄越した視線が印象的だった。


「あのさ……?」


「はい?」


「いや、ごめん。何でもない」


あの少女について、当の友人は言及を避けているようだった。


あまり無理に訊くことはできないか。


その時だった。


「おうコラ、ガキんちょども!」


店内から威勢の良い声がした。


考えるまでもなく、大将(史さん)の声だ。


「んな(トコ)に溜まってたら近所迷惑だろうが。 (なか)入れ店」と、半開きのシャッターをわざわざ開放してくれる。


その姿を認めて、私たちは言葉を失った。


見慣れない女性を伴っているのだ。


少女とも婦人ともつかない、美しい女性。


これが彼の腰部にキュッと取りつく格好で、安穏と寝息を立てている。


呆然とする一同を余所に、大将は相変わらずマイペースなものだった。


「穂葉おまえ、玄武に飯やんの忘れてたろ? もうちょいで指イカれるトコだったわ」


そう宣いながら、女性の身柄をヒョイと抱え上げ、モミジが住まうタライの様子を確認。


「よっしゃ寝てやがる。 えっと、水は」


そんな事を呟きつつ、カルキ抜きを済ませた保存水の在処を求めて店内を歩き回った。 小脇に女性の身柄を抱えたまま。


恐ろしくシュールな光景だが、本人は一向に意に介さない。


「……その、それ、なに?」


口火を切ったのはほのっちだった。


さすがに娘として放っておけないのは解る。


「あん? 見りゃ分かんだろ。 離れやしねぇ」


「かくし子?」


「バカかオメー。俺にそんな甲斐性──」


「じゃあ、愛…‥人………?」


「てめぇそれ以上吐()かしゃあがったら口曲げんぞ?」


気の置けないやり取りを経て、彼が明かしたところによると、どうやら迷子らしい。


夜道で出会って、そのまま付いてきてしまったと。


しかし、どうにも腑に落ちないのが彼女の出で立ちだ。


時代錯誤。


それに、その独特の雰囲気は、どうしても先頃の少女を想起させて()まなかった。

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